第3話 やっと自己紹介
相変わらず人が来ないので、新海清彦の隣の席の国田真希と話していた。
「そういえば、どうして国田さんも朝早いの? やっぱり緊張してたからかな?」
「それもあるね。だけど本当は、人と話すのが怖いから先に来て慣れておこうとか思ってたんだ。それで早く来たの」
「やっぱりみんな緊張するよね」
ありきたりな話をしながら時間をつぶしていた時、あるものを思い出した。
(そういえば、あの謎の本がどんなのかよく見てなかったな)
そう思い、カバンから拾った例の本を取り出した。よくよく見てみると日記のようにも見える。
「………ん? 一ページ目になにか書いてあるぞ。………この本に自分の思う世界を描くとそこに行ける?」
(なんのこと? 絵日記でも書けばそのとおりになるってことか? しかし、そんな話は信じ難いな。でも周りに知られると何だかんだでめんどくさそう……。とりあえず隠しとこう)「ねぇ、それなに?」
既にバレてしまった。
「──この本に自分の思う世界を描くとそこに行ける。だって?!」
バレたものは仕方が無い。素直に国田真希に拾った本について話した。
「実はこれ拾い物なんだよね」
が、時は既に遅かったか彼女はもう自分の世界に入ってしまった。
「……ブツブツ…………アンナコトヤコンナコト……ブツブツ………………ウフフフフフフ」
こうなるのも仕方が無い。彼女の好物はオカルトものであり、このタイプの話になると目がないようだ。だから、こうも反応したくなるのも頷ける。他人にバレたことの焦りを落ち着かせ、国田さんに一つのお願いをした。
「ねぇ、これのことは誰にも言わないでくれる?」
「……え? あ、あぁ。もちろんいいよ。その代わり、その本のことについていろいろ試させてもらっていい?」
「……しかたないな。約束は守るんだぞ?」
まるで悪魔の契約を交わしたかのような気分だ。
段々と人が入ってくる。コミュニケーション能力がある人は既にいろんな人と話してはグループを作ったりしている。正直そういうのに憧れる。国田真希は人が多いからかなり緊張している。少し青ざめてる様子だ。
(んー、可愛い子いるかなー)
新海は男子高校生。そういうのは気にしたくなる年頃である。
鐘が鳴り、遂にホームルームが始まった。これが終わったらロングホームルームになり次に訪れるは魔の時間、自己紹介の時間だ。
担任の先生が連絡事項を話すと、早速ロングホームルームの時間になり、
「では、廊下側から順に自己紹介をお願いします」と言い放った。
窓側の人が立ち上がり、
「相澤直樹です。趣味は……」
と話し始めた。緊張が押し寄せてくる。今か今かと待っていると次は国田真希の番ではないか。
「く、国田真希です。好きなものは幽霊とか都市伝説とかそういった類のものが好きです。よ、よろしくお願いします!」
何とか噛みながらも言い遂げたようだ。もう若干名で新海の番だ。心の中で何回も言う事を復唱しながら事に備える。
「…………これからよろしく!」
新海の前の席の人が自己紹介を終えた。途端に手汗が尋常でない程に流れ出し、心臓の音は次第に速く刻んでいく。落ち着いて立ち上がり深呼吸をする。
「新海清彦です。趣味はミリタリー系です。サバゲーやってます。これから宜しきゅっ! …よろごキュッ! ゴディバ!」
(お、おお、落ち着くんだ。って横で国田さんが必死に笑うのをこらえてるし!)
初っ端からやらかしてしまった。とりあえず終わることにした…。
さて、どんどん次の人が自己紹介してる中で、ひときわ目立った人とかをピックアップする。
「私の名は田部日和。趣味は楽器演奏や音楽鑑賞。部活は吹奏楽部に入る予定ですわ。これからよろしくお願いします」
お嬢様みたいだが見た目はロリな田部日和。話し方も態度もお嬢様で、ツインテールがチャームポイント。
「東条アリスです。趣味は特にないかな、気軽に話しかけてくださーい」
名前が独特な東条アリス。かなり裕福な家庭と聞いてる。見た目は茶色のショートヘアーでスレンダーな感じだ。容姿端麗でモテそうだが本人は「そんなの知らなーい」とでも言いそうな感じの雰囲気。それから見るに思ったより楽観的でざっくりした正確なのか。
全体的のイメージとしては女子が多い。最近共学になったばかりと聞いてるからそれもあるかもしれない。
ロングホームルームが終わり、新海清彦は撃沈していた。国田真希が横で「ゴディバはない……クスクス」って言いながらずっと笑ってる。人の失敗をいつまでも引きずるのはやめて欲しい。
いや、さすがにゴディバは無いと新海自身でさえ思っていたが。
(そういえば、アイツも同じ学校に来てるって聞いたけどどうなんだろう。少しそれも兼ねて学校探索するかな)と、思った昼休み。
それぞれが思い思いの行動をし、遊んだりあるいは勉強したりと様々。廊下で生徒指導を受けている奴もいるし、いたって普通の昼休みだろう。
(隣のクラスでも見てみるかな)
廊下から覗いてみると一目でわかった。やはりアイツも来ていたと確信した。暇じゃなさそうだし声をかけてみることにした。
「東ー!」
「おぉ、清彦か。お前も来てたんだな」
「無事に来れたようだね。そっちも」
紹介しよう。彼の名は東健。幼なじみで、しばらく会ってなかったが相も変わらずなクールキャラ。彼は小さい頃から弓道を習っており、彼の集中力はただならないものを感じる程だ。
「そういえば、お前の好きそうなヤカラがいたぞ。4人もな」
新海清彦の好きそうなヤカラとは、新海の趣味はサバイバルゲーム通称サバゲーといったミリタリー系が好みで、ここでは主にサバゲー好きのことを指す。
「お、そうか。名前は?」
「葉月 智仁
野原 研二
坂本 龍
金剛 秋昌だ。」
「アプローチは?」
「俺がそいつらと仲良くなれたらな」
「そうだよなー、考えとく。ありがとな」
「フッ、借りができたな。」
「こんなんで、借りを作られちゃ困るよ」
キーンコーンカーンコーン
「おっと、時間だ。またな。」
「おう、またね。」
その後は自分のクラスに戻り授業を受け、場面転換からの放課後。そのまま家に帰ろうかと思ったけど、玄関を見るとそうはいかないようで、オカルト国田真希が待ち構えている。
「やぁやぁ、新海くぅ〜ん。一緒に帰らない?」
「い、いや、結構です。それじゃ『 ひとりで帰るとは言わせないよ〜ん』ですよねー」
国田真希は帰らせてくれない。