世界と笑顔
さぁ今日も魔法のお勉強だ
アニさんが言っていた通り、オベントウが話題な様であっという間に売れていく
数を増やしたがまだまだ足りない‼︎ お昼に買いに来る人も現れたので営業拡大中だ
「行ってきまーす‼︎」
「行ってらっしゃい‼︎」
アニさんが快く送り出してくれる
あれから私はアクアとフレイムを覚え、フェルはライトを覚えた
なんで英語なのかな と思って聞いてみた所、なんでも大昔異世界から降臨した男性が魔術のパイオニアの1人になったそうな
魔法使いの間では有名な伝説らしい
「来たかチビ共」
「だーかーら‼︎チビ違う‼︎」
「まぁまぁ二人共・・・今日は少し魔法の原理について話そうか」
「魔法の 原理ですか?」
首を可愛らしく傾げるうちの妹マジ天使
改めて見ると、子供らしいつやつやふっくらお肌にサラサラの髪・・・あの頃とは大違いだ
成果が実感できて すこしにんまり
「そう 何事も原理が分からなくちゃ高みを目指せないよ?」
さぁ しっかり聞こう
家族を守る為にも
「この世界に充満する魔力・・・マナは世界中を駆け巡っているんだ これを使って僕達は魔法を使う」
「無くなったり しないの?」
素朴な疑問
「いい質問だね いいかい?例えば僕とエルちゃんがファイアを使ったとする ファイアはマナを10使うとして 僕は10で火を出す エルちゃんが3で火を出す 残りの7は空気中に逃げちゃうんだ」
「10をどれだけ利用出来るかが上達の鍵だな」
ベクターが補足する ふむ あの火の大きさの違いはそんな所にあったのか・・・ん?じゃあ母さんは・・・いや 考えるのはよそう
「ここからが重要ね 僕らが出した火は消える時にマナに戻るんだけど、火を出したなら火 水を出したなら水に染まっちゃってるんだよ 火に染まったマナなら火の精霊が大精霊の所に運んでいって 浄化する 浄化されたマナはエルフの森にある世界樹がさらに浄化して濃縮 また世界中に送り出すんだ」
うーん?
フェルがぽかん としている
即ち
使う→余る→そのまま
使う→使い切る→汚染→浄化→濃縮
を繰り返してる・・・のかな?
「火の大精霊がいるのはここインフェルノ・・・世界中から火の魔力が集まるから この国の人は火属性を持ってるんじゃないかな って思ってるよ」
「ってことは アクアには水の大精霊が居るの?」
「正解だよ・・・フェルちゃん 起きて」
「ふぇっ⁉︎私 寝てました?」
飛び起きる妹天使
「まぁまだ君達には早かったね・・・さて お昼にしようかな・・・」
「勿論うちで食べるよね⁉︎パン私達が焼くの‼︎」
欠かさずアピールアピール
「チビ共が?いいだろう 焦げてないか確かめに行くか」
口元に笑みを浮かべて私を抱えるベクター
くそぅ様になってやがる
「いらっしゃい‼︎ってフェルにエルにお二人さんかい‼︎注文は?」
「この二人が焼くパンに合うのを頼むよ」
「アッハッハッ 分かった‼︎任せなさい‼︎」
アニさんに続いて厨房に入り 寝かせていたパン生地を焼く
パンがふっくら 色づく
「エルねぇ、そろそろかな?」
「そうだね それ‼︎」
形を崩さぬように一気に引き出す
並べられた皿にスライスしたパンを並べていく
母がスープを盛り、 パンのついでに焼いたクッキーを皿に山盛りにする
私達はコーシーの入ったコップを盆に載せて持つ
「出来ましてよ‼︎アニ‼︎」
「はいはい‼︎今持ってく‼︎」
アニさんとフェルと三人でメルクとベクターのテーブルに昼食を並べていく
「うまそうだな」
「うん いただきます‼︎」
・・・え
「メルクさん いま なんて」
「あぁ いただきます かい?昔教えてもらったんだ 食事を作ってくれた人 材料 材料を生産した人に感謝を捧げる動作だよ」
「・・・そう」
・・・びっくり、した。
「ん 美味い チビのくせにふっくらしたパンを焼くんだな」
「余計なお世話‼︎」
ベクターの余計な一言で吹っ飛んでしまった
「でも本当に美味しいよ このスープも、やっぱり良いよね 心がこもってる」
穏やかに微笑むメルク
「このクッキーは何だ?」
「さーびすさーびす だよ‼︎」
がしゃん
何かが落ちる音がした
振り返ると 顔面蒼白の母
「あなた・・・たち・・・は」
信じられない といった表情の母がぼんやりとした目でこちらを凝視している
メルクとベクターの顔を見ると 先程までの穏やかな表情が消え失せている
「・・・ていって」
顔を伏せ 蚊の鳴くような声で呟いた
が
「出ていって‼︎」
突然顔を上げた母は憤怒と憎しみに満ちた顔で泣き叫ぶ
「出ていって‼︎この店から‼︎私の子供達に近寄らないで‼︎来ないでちょうだいこの裏切り者‼︎二度と・・・二度と子供達に近寄らないで‼︎この店に来れると思わないで‼︎今すぐに出て行きなさい‼︎さもなくば・・・この国ごと灰に還してやるわ‼︎」
こんなに怒り狂う母は初めて見た
「ロベリア‼︎どうしたのかい⁉︎悪いねあんた達・・・落ちついてロベリア‼︎暴れるんじゃないよ‼︎」
「・・・いえ 僕が悪いんです ・・・代金 置いておきますね・・・行くよベクター」
「あぁ・・・俺には当然の報いだ」
そう言って二人は 店を出て行く
まだ湯気を放つ料理と 置かれた金貨が寂しさと虚しさを放つ
あぁ・・・折角 クッキー焼いたのに な
あれから 何日が立ったか
あの小さくて可愛らしい二人の正体を知った日から
元公爵令嬢の娘 即ち王弟の娘でもある
それならあのエルちゃんの属性も理解できる いや そこで気付くべきだった か
まさかベクターもロベリア嬢と面識があったとは驚きだったが・・・
最後にみた 二人の驚き 泣きそうな顔は今でも頭にこびり付く
死に顔なんかよりよっぽどフラッシュバックする
断ち切るように魔物や盗賊を焼いても気が晴れない。
「はぁ・・・」
ギルドの椅子に深く腰掛ける
ベクターもあの日から元気が無い
だけど俺達にはあの子達に関わる資格なんて無い そう思い知ったんだ
「おーい‼︎ベクター‼︎メルク‼︎可愛いお客様だぜ‼︎」
ギルドの剣士が叫ぶ
ふと 目の前に 数日前に見た綺麗な金髪が現れる
「メルクさん‼︎」
そのまま軽い衝撃が体にのしかかる
「フェル・・・ちゃん⁉︎」
「うわぁっ⁉︎」
ベクターの声だ
「見たかこれぞ元祖エルキック」
「ただの・・・飛び蹴り・・・だろ‼︎」
「嬢ちゃん華麗な蹴りだったな・・・今度ご教授願いたい」
「エルちゃんにフェルちゃん・・・⁉︎どうしてここに⁉︎」
ここは冒険者ギルド 子供が来る場所じゃ無い
それに俺達は・・・
「メルクさんとベクターさんに会いに来たんです‼︎」
「会いに来たって・・・この前・・・」
「来るな 近寄るなとは言ったが行くな 近寄りに行くなとは言われてない‼︎」
前髪で隠れてわかりにくいが 笑うエルちゃん
「だから これからは私達が会いに行きます‼︎」
「お前達の母親だって・・・」
「ベクターは元貴族なんでしょ?」
「・・・っ」
「でもアニさん何も言ってなかった 当然みたいだったよ それに アニさん2人が来てた時母さん 遠ざけてた でも私達が会いに行くって言っても何も言わなかったよ?」
アニ・・・?あの宿屋の女将か?だからって・・・
「ここはギルドだ‼︎ガキが来る場所じゃ無い‼︎」
ベクターの言う通りだ
が ベクターも俺もきっと頬が緩んでいるんだろうな
「大丈夫 冒険者カード貰ったから」
「・・・え?」
2人 10歳だった よね?
「素材の目利き 魔力量 属性の数 この年にして魔法を複数使う・・・しかも下手な貴族も真っ青な教養だ ガキとはいえやらんほうがおかしいだろう・・・まぁ俺もまさかこんなチビが冒険者採用試験を受けに来るとは思ってなかったがな あんまり頼み込むからなぁ」
「・・・ギルドマスター」
厳ついマスターに無茶な事を頼み込むとは
「時間かかっちゃったけど 結果よけりゃ全て良しってね?」
・・・全く この2人の行動力には敵わない
だけどやっぱり 俺の頬は緩みきって
口角は上がって 目を細めて
眉毛を八の字にして
困ったように笑ってるんだろうな・・・
10歳編 これにて終了です、次からは15歳編
ようやくヒーローが出てきます‼︎おせぇ‼︎機動10にも満たない‼︎
最後はメルクさんに語ってもらいました
如何でしたか?一人称が違うのにも注目です
今回はメルクとベクターをたくさん笑わせてみました
12/20 主人公とベクターの台詞を追加しました




