属性とは
『魔法の訓練はここまでにしましょう』
そうエスクが言って終わった頃には俺は声が出せぬほどバテて倒れこんでいた。立ち上がる気力も湧かないほどだ。夢の中なのになんでこんなに疲れるんだよ……。
『疲労している様に感じるのはこの空間内では体力=精神力となっているからです』
せ、精神力? どういうことだ?
『この場合の精神力は意識の強さ。気を失わず意識を保つ力の強さです』
な、なるほど? つまり?
『要は脳が疲れたから眠りたがっていると言う事です』
わかりやすい説明ありがとうございます。
『ですから、その前にちょっと勉強しましょう』
あ、うん。すぐには眠れないのね……。まあ、まだ大丈夫だけどさ。
『今回は属性について解説しますね』
今回って事は次も有るのか……。
『属性は基本的に上位・中位・下位の三段階に分類されます』
「……それはどういう基準なんだ?」
あと「基本的に」の部分も気になる……。
『優位性、その一言に尽きます』
優位性ねえ……。
『それを説明する前に下位属性から順に説明します』
「頼む」
息を整えた俺は座り込んでエスクの解説を聞くことにする。この間のオーガも火属性吸収と言う厄介な魔獣だったしな。弱点が解る様に聞いておくべきだろう。
『下位属性は別名、魔法少女や魔獣のほとんどがこの下位属性なため基本属性とも呼ばれます。基本属性は火・水・風・土・木の五つが存在します』
どれも魔獣出現前に流行っていたファンタジー物の作品で良く聞くものだな……。まあ、魔法だからそこら辺は一緒か。
『火属性は火や高熱を司る属性です。魔法の種類としては攻撃系と相性が良く威力重視の物が多いですね』
火はイメージ通りだな。って、ん? 相性?
「属性によって使える魔法は決まっているのか?」
『あ、それも説明するべきでしたね。申し訳ありません』
「ああ、気にしなくて良い。説明してくれ」
俺の言葉に申し訳なさそうな声になったエスクに少し動揺するが、俺は気にしていない事を告げて説明を促した。
『わかりました。以前にも説明しましたが魔法はイメージして創るものです。そのため属性それぞれのイメージに引っ張られる事が多いんです。例えば先程の火属性なら熱い、燃えるという印象が有るため攻撃魔法として使われることが多いです』
「攻撃魔法以外にもあるのか?」
『回復魔法も一応あります。それも強力なのが』
マジで? 火属性で強力な回復魔法が使えるのか?
『フェニックスは知っていますよね?』
「不死鳥だろ? 魔獣として出現した事は無いはずだが……」
何か関係あるのか?
『火と回復の二つのキーワードで連想することが多いのは不死鳥なんですよ。そのため火属性の回復魔法も強力になるんですよ』
なるほど。不死鳥は火の鳥とも言うからな。
『ですが強力過ぎて使われる事は少ないです』
「? 強力ならみんな使いそうなもんだけどな……」
特に回復魔法ならなおさらだと思うんだが……。
『魔力の消費が激しすぎるんです』
「どれぐらいだ?」
『他属性の通常の回復魔法が一回で五十消費すると仮定しますと、火属性回復魔法は一秒で十ぐらいですね』
え? 一回じゃなくて一秒?
『火属性回復魔法の使い方は患部に魔法で作った火を当てて少しずつ修復していくんです』
それ傍目から見ると拷問にしか見えないよな?
『ゆっくりとですが元の健康な状態に修復していくので仮に腕の一本が消し飛んでも時間は掛かりますが元に戻ります。代わりに使っている間ずっと魔力を消費するので怪我の度合い次第では魔力量が足りなくなる事が多いですね。そうでなくとも治療に時間が掛かる魔法なので戦闘中に使う事は無いです』
強力だけど戦闘終わった時ぐらいのタイミングじゃないと使えない上に戦闘終了時の魔力量じゃ治療しきれるか解らないほど魔力も使うと……。なるほど使う人が少ない訳は解った。
『さて、話を戻しましょう。次に水属性、その名の通り水を司る属性です。火属性に対して有利な属性で治癒魔法との相性が良いです』
「治癒? 回復とは違うのか?」
『回復は怪我や体力、治癒は毒や病気と言う風に使い分けています。回復は細胞を活性化させる効果もあるので病気の時に使うと病状が悪化する可能性もあるので使用する時は気を付けなければいけません』
なるほど……。病気の時は回復魔法を使うな、と。これは覚えておかないと……。
『続けましょう。風属性は風や空気を司る属性です。これは速度強化や攻撃速度の速い魔法などスピードに関する魔法との相性が良いですね』
「空を飛ぶイメージもあるけど」
『空を飛ぶ魔法は――浮かぶぐらいならできますね……』
そうなのか……。そう言えばテレビで見た魔法少女も箒(?)に乗っていたな。
『次です。土属性はそのまま土や砂を司る属性で防御がメインになりますね。他とは違う変わった魔法が使えたりしますがそれはまたの機会にしましょう』
そこで切られると気になるんだが……。
『木属性は植物を司る属性です。この属性は毒などの状態異常を起こす魔法が好相性ですね。稀に精神状態に影響を与える魔法もあります』
地味だけどバカにできない属性だな。
『これで下位属性の講義は終わります。続いて中位属性の解説をしましょう』
まだ続くのかよ……。こうなったら今日で全部覚えきってやる! ゲームの内容を覚えるのと一緒と思えばできる! ……はず。
『中位属性は相性の良い魔法が多く使い易い属性です。しかし相性が極端に悪い魔法もあります。また中位も下位と同じ様に属性は五つ存在します。氷・雷・錬・光・闇です』
「れん?」
聞いたことのない属性だな……。どの漢字だ?
『疑問に思った様ですので先に説明しましょう。錬属性は金属を司る属性です。特殊な属性で金属を錬成し武器を生成する事ができる魔法が使えますが、他の魔法の相性が極端でして使う事もできない魔法も有るそうです』
なるほど錬金術の錬か。その気になれば剣を無限に作製したりもできそうだよな……。誰か使える人がいたら観察しよう。魔法少女に頼んでも素直に見せてくれるとは思えないし。
『氷属性は氷や冷気を司る属性です。どの魔法もバランス良く使えますが身体強化だけは使えません』
体を冷やしそうだもんなぁ……。強化より弱体化の方が合っていそうだ。
『雷属性は雷や電気を司る属性です。防御魔法との相性が悪く、攻撃魔法には強力な魔法が多いです。身体強化魔法にもよく使われます』
雷とか電気はそれだけで強力なイメージが有るからな。攻撃面では優秀だろう。
『そして次は定番の光属性と闇属性です』
定番って……。まあ確かにゲームとかでは定番だけどさ。
『光属性はどんな魔法でも使える属性ですが威力が若干心許ない事が多いです。逆に闇属性は威力の高い魔法が多いですがリスクが高くなる事が多いです』
「どんなリスクが有るんだ?」
『単純に体への負担です。闇属性は体にダメージを与える代わりに効果を高めるものが多いです』
あー、あれか状態異常の時に威力が上昇みたいな感じか。
『続いて上位属性について説明しましょう。上位属性は別名複合属性と言われ中位以下の複数の属性を合わせた属性で、今のところ確認されているのは三つだけです』
複数の属性を合わせた属性……。それだけで強そうに感じるな。
『実質どんな魔法でも使う事ができます。どの属性が相手でも優位に立つことが可能な属性です。その分、この属性の魔法少女もかなり少ないです。同様に魔獣でも今のところこの属性を持っていたのは一体だけです』
やっぱり強力な力を持っているのは少ないと言う事か。魔獣でも出現例が少ないのは幸いか。
『一つずつ行きますよ? まずは“海属性”です。この属性は水・氷・闇の複合属性です』
「? 海だから水と氷は何となく解るけど闇はなんでだ?」
『なんでも深海は暗い=光が届かない=闇という風に連想したそうです』
深海からか……。なんか強そうだが雷属性なら対抗できそうだな。
『次に“地属性”、土・火・木・錬の複合属性です。大地を司る属性で溶岩の生成もできる危険な属性でもあります』
四つの複合か……。数が多いだけで強そうに感じるよな。
『そして“天属性”。この属性は風・水・雷・氷・光・闇の六つです』
六つ!? 多いな!
『天属性は空を司る属性のため天候に準えた魔法を使える属性です。その汎用性の高さから上位属性最強とまで言われています』
まあ六つの複合属性だからな……。簡単に負けはしないだろ。
『そして――あ、マスター』
「ん? どうかしたかエスク?」
『今日はもう疲れているみたいなのでもう眠っても良いですよ。続きは次回にしましょう』
……流石に解るか。正直かなり眠い……。ここはエスクの言う通りにさせてもらおう……。
「夢の中だから変かもしれないが……とりあえずおやすみ、エスク」
『おやすみなさい』
そう言って俺は目を瞑り脱力する。
『……強くなってくださいマスター』
意識が途切れる寸前に俺はエスクの言葉を聞き――
『あなたと桜花のために』
慈愛に満ちた笑顔を浮かべる少女を幻視した。
遅くなって申し訳ありません。
明日からもう少し早く投稿できるようにします。