魔法の訓練
俺がオーガを倒してから数日経った。
終わった直後は魔獣被害の確認の為に学校に一泊して、悪さをしない様に原嶋を簀巻きにしたり、脱出した原嶋に白瀬のストマックブローが炸裂したりしたが特に変わったことは無かった。
まあオーガが暴れた場所は修理の為に通行できなくなったりして若干不便だが。それでも人的被害が無かったのだから文句など有る訳がない。
あ、あと俺が変身した事は桜花と流星くん以外知らない。二人とも黙っていてくれているらしい。正直、避難した時の状況を説明する際に話したんじゃないかと思っていたが二人とも何とか誤魔化してくれた様だ。
そんな訳で今、俺は家で気ままに過ごしている。
「ふは~」
今日はまだ魔獣出現の関係で学校が休日となっている。安全の為に自宅待機と言う奴だ。なもんで、普段から家事やバイトで溜まっている疲労に加え魔獣との戦いの疲労も溜まっているのでここで回復しようと思い、全力でだらける事にした! ちなみに桜花はリビングでテレビを見ている。
「あ~」
しかし、なんでこう、昼間にベッド以外の場所(ソファーとか)で寝ると快適に感じるんだろう……。俺だけかなあ?
『だらけていますねマスター』
「エスクかぁ……」
俺の変身アイテム『コア』に搭載されている人格『エスク』に俺は生返事してゴロゴロする。
『ただゴロゴロするだけなのも良くないですよ?』
「休みなんだから良いだろー」
たまの休みぐらい何もせずに過ごしてもいいじゃないか。
『訓練しませんか?』
「訓練? 何の?」
『魔法の、です』
魔法か……。確かに使い方を覚えた方が良いよな。次いつ魔獣と遭遇するか解らないし。
「訓練するのは良いけどどんなことをすれば良いんだ?」
『あ、起きなくても大丈夫です。寝て行いますから』
「は?」
起き上がろうとした俺にエスクは訳のわからない指示を行った。寝て行うってどういう事だ?
「魔法の訓練は寝てできるのか?」
『所謂睡眠学習です。夢の中で魔法のシミュレーションを行います』
「へえ」
そんな事もできるのか……。それ利用すれば夢の中でも勉強とかできるか?
『ただし夢ですので実際に新しい知識を得ようとしても私とマスターの知っている知識の範囲でしか学ぶことはできません』
「つまり?」
『新しい魔法を創る場合、現在の自分が持っている知識と発想力だけで考えなくてはいけないと言う事です』
……夢の中でテスト勉強しようとしても復習以外できないって事か。残念だ。
『で、どうします? 訓練しますか?』
「そうだな……。どうせだからやってみるか」
『了解しました。では始めましょう』
早いな、おい。
「準備とかは?」
『特に必要ありません』
そんなお手軽なのかね……。まあ、ここはエスクを信用する事にしよう。
『では、おやすみなさい』
「おやすみー」
俺はそう言って夢の世界に旅立った。
***
「――ん?」
俺が目を開けるとそこは俺が通っている高校のグラウンドだった。
あれ? なんでここに? 俺は部屋で寝ていたはずだぞ!? それによく見ると俺の服装も変身時の物に変わってる!
『目を覚ました、と言うのは正しくないかもしれませんが意識ははっきりしてますか、マスター?』
「あ、ああ」
エスクの声で直前の出来事を思い出した。そう言えば夢の中で魔法の訓練をするって言ってたな……。
『早速ですが魔法の訓練を始めましょう』
「ああ、でもどうやるんだ?」
『簡単ですよ。魔法はイメージで創るものですから、ここで自分の考えた魔法を試しに使って見るんです』
なるほど。現実で一々実験するより安全だな。
『それに夢の中だからこそできる事も有ります』
「例えば?」
『こういう事です』
エスクがそう言うと背後から何かの気配が現れるのを感じ、振り返った。
「…………」
思わず無言になってしまった。だって――
「オォオオオオオオオガァ!?」
先日戦ったオーガが目の前にいた。
『マスター驚き過ぎです』
「驚くわ! なんでオーガが居るんだよ!」
寿命が縮むかと思ったぞ! いくら魔獣と戦う覚悟ができていても背後にいきなり現れたら身の危険を感じて鳥肌立つわ!
『ご安心ください。これはただのハリボテみたいな物です』
「ハリボテ?」
エスクの言葉に俺は首を傾げた。ハリボテと言う事は……。
『はい。このオーガはマスターの記憶を利用して再現したものです。その気が有れば動かす事もできますがどうします?』
「……そ、そうか」
記憶から再現か……。だからか。俺が戦った事が有る魔獣は今のところオーガだけだからな。……しかし本物そっくりだ。あ、いや夢の中で記憶から再現したんだからそっくりに決まっているか。
「とりあえず今回はこいつにサンドバッグになってもらおうか」
『魔法の試し撃ちですか?』
「そうだな。この際だからいろいろ試させてもらうぜ」
『了解です』
俺は戦闘態勢に入り魔法の準備をする。
『補足しますとこの空間で魔法を使って魔力を消費しません』
「そうなのか?」
便利だなと思ったが、よくよく考えてみればこれは夢だから魔力を消費する訳ないか。
『補足しますと空間の維持に魔力は消費されていますが、それだけなので気にせずに魔法の練習をして下さい』
「OK、じゃあ早速やらせてもらうか」
俺は以前オーガと戦った時に教えてもらった魔法の使い方を思い出しながらオーガに向けて手をかざす。
「まずは《バインド》!」
最初に俺が使ったのは初めて使った魔法『バインド』。
まずは一度使った事が有る魔法から使って腕試しだ。俺が魔法を発動させるとオーガの足元に魔方陣が現れた。…………あれ?
「何も起きない?」
『マスター……バインドは拘束の魔法ですから相手が動いていないと効果を確認できませんよ』
そう言えばそうだった! 魔法の効果に合わせて相手を動かすかどうか選ばないとダメなのか……。
「ま、まあ発動したみたいだから良いだろ」
『マスター……』
ええい、憐れみを含んだ声を出さないでくれ! 次は! 次こそは!
「次行くぞ!」
再びオーガに向けて手をかざしてイメージする。
そうだな……。ここはやっぱり攻撃魔法だな。まずはシンプルにビームとかか?
「…………」
使う魔法を決めた俺の腕が、正確にはガントレットが輝き手の甲の部分に魔方陣が浮かぶ。そして――
ドーン!
掌から銀色の光線が発射されてオーガを吹き飛ばした。光線が発射された後に残ったのは地面を抉った跡だけでオーガは跡形も無かった。
…………威力つええええ!?
『マスター』
「な、なんだ?」
あれ、な、なんかエスク、いつもより声が低いよ? なんか妙な威圧感も感じるし……。正直、怖いです。もしかして怒ってる?
『あのオーガはマスターが戦った時と同じでマスターの魔法で人間に戻るんですよ』
「そ、そうなのか」
あ、もうなんで怒ってるか解った。
『ですのでマスターが人間に戻す事を忘れてしまうとオーガもミンチより酷い事になります』
「…………」
俺はゆっくりオーガがいた方向に目を向ける。俺が放った魔法の痕跡しか残っていなかった。
『マスターはここが夢の中で魔獣も自分の記憶から造られた物だから気にせず魔法を使いましたよね』
「……はい」
『それではいけません。今から矯正します』
矯正って何!? 嫌な予感しかしないぞ!
『魔獣を相手にしたら常に、必ず、なんとしても人間に戻すと考えられる様にしましょう』
「い、いやさすがに実戦の時は――」
『常に、です。例え今回の様な仮想空間内であっても実戦と同じ事ができなければいつか失敗します』
ぐっ! 否定できない……。油断大敵と言うしなぁ……。
『と言う訳で行きますよ。全ての魔法で魔獣を人間に戻せる様にしましょう』
「ちくしょぉおおおおう! やってやらぁあああああああ!」
俺は半ば自棄になりながらエスクの言う通りに特訓するのであった。
星司は実戦などで危険な目に遭って追い込まれないと本領を発揮できないタイプです。
5月13日:初めて作品が評価されたー! ありがとうございます!
これからも頑張って作品を書くので応援をよろしくお願いします!