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魔法少女が見た希望

「ただ今戻りました」

「ご苦労様。報告お願いできる?」


 星司がオーガとの戦いを終えて友人達とバカ騒ぎしている頃、空気が張り詰めた部屋で一人の少女と女性が話していた。

 片方は星司を助けた魔法少女だ。戦闘時と違い後ろで纏めた髪は赤みが混じった茶髪で服装も春宙女学園の制服であるブレザーとなっている。彼女の名は火之浦赤理ひのうらあかり。星司と同じ歳の少女だ。

もう一方の女性はキツイ目つきで眼鏡をかけている。一言で言うならキャリアウーマン然とした女性だ。女性は椅子に座り部屋に一つだけある机に肘をついて机の上にいくつもある資料を確認している。


「はい、本日の出現した魔獣は――」


 赤理は淡々とオーガによる被害などの詳細を語っている。その姿はどこか上の空だ。それも当然だろう。赤理の頭の中には一つの事で占められている。


(あの人は何者なんだろう?)


 赤理の言う『あの人』とはもちろん星司の事だ。赤理は自分の目の前で起きた『魔獣が人間に戻った』出来事をまだ受けとめられないでいる。それも仕方がないことだろう。なんせ常識を覆される事が目の前で起きたのだから平然としていられる訳がない。それこそ――


「魔獣が人間に戻った? 寝言は寝てから言ってください」


 報告を誤魔化すのを忘れても誰が責められるだろうか。


「あ、いえ、その……!」


 本当は適当に誤魔化して星司の事を黙っておくつもりだったのに馬鹿正直に話してしまった赤理は動揺でしどろもどろになってまともに答えられなくなっている。


「……はあ、疲れているんですね。今日は早く休みなさい」


 女性は呆れた声で赤理に休むように言い含める。当然と言えば当然だ。常識外の発言をしたのだから。ここでメンタルヘルスを勧められなかっただけましと言えよう。


「はい……」


 内心ほっとした赤理は素直に部屋を出て行った。実際、オーガとの戦闘でダメージは残っているのだ。休息を取るに越したことはない。


「しかし魔獣を人間に戻す男ですか……」


 赤理が出て行った部屋で女性は呟く。その表情は懐疑的で赤理の報告自体は完全に信用することはしていないが頭の隅に「もし本当だとしたら……」と可能性を捨てずにいる。


「もし本当なら情報が流れる前にする必要が有りますね……」


 女性の瞳は暗い色をしており、そこに感情はなくただ自分の成すべき事を実行するマシーンの様にも見える。魔法少女の、組織の、あるいは自分の不利益になる存在、少なくとも魔法少女の存在意義を奪いかねない存在をただ黙って放置する理由も無いのだろう。次に存在を確認すれば躊躇いなくするために魔法少女に命令する事は間違いない。


「それにしても……」


 女性は机に有る資料の内の一枚を取って内容を確認する。どうやらもう一つ懸念事項が有るのだろう。先程と違い憂鬱そうな表情をしている。


「最初の通報で聞いた魔獣と火之浦さんが戦った魔獣が違うとは……」


 まだ安寧は訪れそうにない。




***




 報告を終えた赤理は寮にある自分の部屋に戻っていた。服も部屋着に着替えてベッドの上で四肢を投げ出すように寝転がっている。その姿は寛いでいると言うよりも肉体的にも精神的にも疲れて動けないと言った様子だ。


「……は~」


 赤理は溜息を吐き、星司が魔獣の足止めをした後の事を思い出していた。


 星司がオーガを店先のオリーブオイルを使って動きを止めた後、赤理は意気消沈していた。


(魔法少女なのに一般人に助けられるなんて……)


 自らの役目を全うするどころか一般人の少年に助けられてしまった自分の不甲斐無さを嘆いていた。

 だがすぐに気持ちを切り替えた赤理は魔獣を倒す為に動く。


(ここで魔獣を倒さないと……!)


 赤理は杖に魔力を込めて魔法の準備をし、構える。その眼に余裕は無く焦りすら感じられる。


(何の為に魔法少女になったか解らなくなる!)


 赤理は必勝の意思を込めて魔法を唱えた。


「《マジック・ブラスト》!」


 白い魔法の光線がオーガの背に直撃する。『マジック・ブラスト』は赤理の使える攻撃魔法の中で火属性魔法を除いて最大威力の魔法である。火属性が通用しない今回のオーガに対してこれ以上の手段を今の赤理は持ち合わせていない。つまりこの魔法で倒せなければ赤理に為す術は無い。


「《マジック・ブラスト》! 《マジック・ブラスト》! 《マジック・ブラスト》!」


 爆煙によってオーガの姿が隠れるが、それに構わず赤理は魔法を連発してオーガに攻撃を続ける。なんとしても自分の手でオーガを倒すつもりなのだろう。鬼気迫る雰囲気を纏っている。


(私が……魔法少女だから……皆のために魔獣を倒さないといけないの!)


 魔法少女として一般人を守り魔獣から助けなければいけない、それなのに一般人に手助けさせてしまった事が後ろめたく感じた赤理は自分の力で魔獣を倒す事を決心した上での行動の様だ。

 しかし想いだけでは勝つことはできない。


「はあ、はあ、はあ」


 魔力をほとんど使い果たした赤理は息を切らしながら膝を突く。煙でオーガの姿は見えないがこれだけ魔法を撃ち込めばさすがに、そう考えていた赤理の目の前に映ったのは――


「グルルルルルルルゥ……」


 煙の中で唸り声を上げるほぼ無傷のオーガだった。


「そ、そんな……!」


 今、自分の使える魔法の中でこのオーガに唯一通用する攻撃魔法が効いてなかったのを見た赤理は絶望が入り混じった声を上げる。もはや立つ気力も無い様だ。


「グウウウウ」


 赤理の攻撃魔法によって体に付いていたオリーブオイルが飛んだのか呆然として動かなくなった赤理に近づくオーガ。力が尽きて動けない赤理はその光景を呆然と見ていた。


「……あ」


 目の前まで近づいたオーガにも赤理は反応を示さずに顔を伏せている。


「グルウ!」


 オーガは赤理の体を掴み振り回す。自らの体が宙に浮いたタイミングで漸く赤理は正気に戻ったが時遅く、オーガは振り回した勢いそのままの赤理を思いっきり投げ飛ばした。


「きゃああああ!」


 投げ飛ばされた赤理は桜花達のいる公園の近くまで飛び――


「がっ! ぐふ……」


 家屋に背中からぶつかりそのまま意識を失った。

 その後、目を覚ました赤理が見たのは両手両足に銀色の防具を身に着けたの少年だった。魔力が小さな銀色の光の粒子となり少年に付き従う様に周りに集っている。その光景を見た赤理は思わず「……星…………空……?」と呟いていた。


 そして少年は銀色に輝く拳をオーガに叩き込み、オーガを人間に戻した。


 その一部始終を見ていた赤理は衝撃を受けた。当然と言えば当然だ。人間に戻す事ができないと言われた魔獣が目の前で、少年の手によって戻ったのだから。当り前だった常識を壊されたのだ、むしろそこで夢と判断して現実逃避してもおかしくないレベルだ。しかし彼女は目の前で起きた出来事を受け入れた。そして『希望』を見出した。


「彼なら……きっと……!」


 彼女の目指す本当の魔法少女、いや正義の味方・・・・・と言う希望を。

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