プロローグ
ガシャン、ガシャンと足音を立てながら魔動機人が用途不明のケーブルむき出しの機械が設置された無機質な部屋の出入り口を塞ぐ様に立ちはだかっている。
「魔力で動くロボットか……」
『はい。センサーにも反応したので間違いありません』
俺は手に持った剣から聞こえる音声と会話しながら周りを囲み始めたゴーレムを観察する。
魔力は生物が持っているもので物質に宿る事は無いと聞いたが――
「あいつらの研究所だしな……」
『ええ。他人を役立つか立たないかでしか判断していない彼女達の辞書に人道などと言う言葉は載ってすらいないでしょう』
間違いないな。あいつらの事だ、このゴーレムを作る為だけにどれほどの犠牲を出したか、考えるだけで虫唾が走る。
「全部で――ちょうど十体か……」
『全身機械で出来ていますが機動性重視の様ですね。これなら時間を掛けずに済むかと思います』
「そうか」
なら方針は一つ。
「ここで時間かけてられない。素早く終わらせるぞ」
『了解ですマスター』
マスターか。そう呼ばれるのもすっかり慣れたな。
「行くぞ! シューティングスター――」
俺は天井まで跳躍して――
「キィイイイイイイック!」
天井を蹴った反動を利用してゴーレムに向かって飛び蹴り喰らわせた。
***
ゴーレムを全てスクラップにした俺は部屋を出て廊下の先に向けて歩みを進める。
コツ、コツと小さい足音が無機質に反響する。
「…………」
俺は灯りも最低限しかない廊下を黙々と進み続ける。この先に待っている彼女の事を考えながら。
『マスター。どうやらゴールに辿り着いたようです』
「みたいだな」
やがて廊下の先に強い光が見えてきた。どうやらようやく目的地に着いたようだな。
廊下の先に有ったのは広い部屋だった。床には巨大な魔方陣が描かれている。魔方陣は心臓の鼓動にも近い不気味な音を立てながら禍々しく光りながら魔力を集めている。
『よく来た。星屑の救世主。いや天動星司』
その魔方陣の中心には一人の少女が立っていた。全ての光が吸収されるかの様な漆黒の髪、それを左右でまとめ、服装は黒を基調としたフリルの付いた服とミニスカート。それだけなら普通の少女だが、両腕にはナックルガードを装備し杖を持っている。おまけに少女らしくない性格の悪さを滲ませる様な笑みを浮かべている。
『それとも他の呼び方をすべきか?』
――その顔でそんな笑みを浮かべるな。俺は黙って少女を見据える。
『何時まで黙り込んでいる? 今更怖気づいたか? それとも――』
そして少女は俺の気持ちを知ってか知らずか本人の物ではない声で話を続ける。
『私と戦うのを躊躇っているのか?』
「黙れ」
俺は本来の彼女に対して出さないであろう低い声で呟く。
「お前と戦う事を躊躇いはしない」
『ほう』
『…………』
俺は手に持っていた剣を構え、戦闘態勢に入る。
「勝利する為の手段を考えていただけだ」
『考える時間は与えたはずだが?』
少女は相変わらず笑みを浮かべながら疑問を投げかけてくる。
「何、一つでも多く用意した方が良いからな。それに――」
俺は魔力を滾らせて魔法の準備を始める。それに合わせて目の前の少女も杖に魔力を込め始める。
「勝利条件は一つではないからな」
『ふむ?』
いや、実際は一つか……。俺にとっては。
「――じゃあ、そろそろ行くぞ」
『その前にお主は何か言う事は無いのか? 確か――ステラと言うたな』
『私からあなたに言う事は何も有りません』
『つまらんのう』
少女は杖を構えて戦闘態勢に入る。
『せめて戦いぐらい楽しませるが良い!』
『あなたを楽しませる為には来た訳ではないので』
「ああ、俺達は勝つ為に来たんだ」
楽しむ余裕は与えない!
「元に――」
俺は剣に魔力を込めて――
「戻れぇええええええええええ!」
少女に向けて振るった。
時は五月上旬、進級し新しいクラスメイト達にも慣れた頃まで遡る。
その日も俺は何時も通りの時間に起きて登校の準備をしていた。