収拾着かず
観客
「おお、これは難題だ!」
観客は面白がって喜ぶが、急な難題に頭を抱え、中々誰も答えようとしない。両チームの応援合戦だけがむなしく響く。だがその時、
謎の人
「あ、出来た!
花の中目にあくやとて分けゆけば心ぞともに散りぬべらなる
(花の中に飽きるほどみられるかと期待して分け入ると、心まで花と一緒に散ってしまいそうだ)
頭は「は」で始まって、最後は「る」で終わる。『はなの、なか、めに』で『なかめに』。ちゃんと「眺め」も花を眺める心と一緒に詠みましたよ」
じょーこー
「おお! 素晴らしい! だが、そなたは一体何物だ?」
僧正聖宝
「ただの坊主でーす。名前は聖宝でーす。何かイベントやってるんで見に来ただけでーす」
みかどっち
「へ? 観客の僧? 参加者じゃないのか?」
観衆
「おお、すげー!」
聖宝
「え? 私、なんか、すっげーことした? へへっ、照れちゃうな~。ってか、歌人って意外に大したことないんだな」
聖宝の言葉に反応する歌人たち。面目つぶれたじょーこーとみかどっちは言葉もない。
聖宝
「あれ? なんか……視線が痛いなあ。私、空気読めてなかったようで……。さいならっ!」
みかどっち
「あ! 逃げた! 親父、この収拾どうすんだよ!」
じょーこー
「知るか! やめだやめだ、こんなイベント、おしまいだあ~!」
コージー
「ええ? 突然の主催者からの閉会宣言……て、私、どーしたらいいんです?」
うろたえるアナウンサーを無視して時平まで、
時平
「あ~あ、しょうもない。じゃあこれでお開きって事で。いっせちゃーん! またあとでねー」
伊勢
「うん。今日の歌のおさらいを、手取り足とりしてあげるねっ!」
じょーこー
「ちょっと待て、そうはいくか。時平はイベント失敗の責任取って、伊勢との交際禁止!」
時平
「ええ? ちょっと、なんですか、それ! こっちはゲストですよ」
じょーこー
「うるさい! 私も伊勢には前から目をつけてたんだ。この際だから私の妻に追加する!」
コージー
「おっとお! これはなぜかステージ上で三角関係勃発だあ! こうなったら、これを実況させていただきます!」
わけのわからない展開に、観客も野次馬根性で盛り上がった。
時平
「そんなあ! 伊勢ちゃんはこんなバカな話に乗らないよね?」
コージー
「時平、攻め手が分からずに伊勢に懇願!」
伊勢
「ええ~? あたし的にはどっちでもいっかな~。時平君は若いけど、じょーこー様は歌上手だし~。恋人より妻のほうが、なんか、良さそうだし~」
コージー
「伊勢、意外にあっさりしている! これはじょーこー様に分があるか?」
時平
「そんなことないよっ! 妻なんて不自由になるだけ。僕の恋人やってる方が楽しいよ! それに僕の方が教えがいあるし、若いから伸びしろだってあるよ」
伊勢
「うーん。そういわれればそっかなー」
じょーこー
「時平。その口説き方は自分で情けなくないか?」
コージー
「ここでじょーこー様がしゃしゃり出たあ~!」
時平
「あんたが言わんで下さい! こっちはそれしか手段がないんです!」
伊勢
「ん~。時平君、なーんか頼りないなあ。あたしもいつまでも遊んでられないし。いい機会だからじょーこー様の妻になっちゃおうっと」
時平
「ええー! 伊勢ちゃん、そんなあ……」
じょーこー
「うむ。女はやはり、安定した方がいいぞ」
コージー
「なんかあっけなく決着しましたね。イベントはやっぱり終了ですか?」
じょーこー
「終わりと言ったら終わりだ。なんだか雲行きも怪しくなってきた」
観客
「そういえば向こうに雷雲が見えてきたな。雨が降らないうちに帰ろうっと」
観客たちはさっさと散りはじめ、美少年たちはファンに追いかけられながら足早に去っていく。蔵人もシステムが雷にやられちゃかなわないと、せっせと後片づけをする。皆手早く撤収し、傷心の時平だけがその場に取り残された。
時平
「くっそ~! じょーこー! みかどっちに僕の女癖に注意しろなんて小言一覧表に書き渡しておきながら、自分はこれかよっ! みかどっちが惚れた僕の妹との結婚だって邪魔してるくせに! こうなったら僕はトコトンみかどっちの味方に付くぞ! じょーこーの好きにばっかりさせて、たまるかあーっ!」
時平が悲壮な決意に燃える一方、空の上では怨霊となった道真が、
道真
「あー……。俺の出番なく、終わっちゃった。俺の方が祟り神になるくらい、怨みは強いんだけど。しょーがない。一人ひとり呪い殺してやるか」
と、物騒な独り言を吐いていましたとさ。おー、コワ。
おしまい
※伊勢が時平と恋仲だったのはごく若い時。宇多天皇が上皇の時には妻となっていて、天皇が出家して法皇と呼ばれるときには一緒に尼になってます。この話は全部冗談ですからね。