白球の行方
かぁん
突き抜けるような金属バットの音と共に
白球が 高く 高く 飛んでいく
それを追いかける 背番号8
うちの高校は部活動専用のグラウンドがない。
1つのグラウンドで、野球部、ソフトボール部、陸上部が練習している。
球が転がって他の部活の邪魔にならないように、
外野手の頭を超えた打球は、野球部がすぐに取りに来る。
私たち陸上部からしたら、走っているところに球が飛んできたら危ないし
本来ならば迷惑なのだけれど
私はバッターがセンター返しする度に
こちらまで飛んでこないかそわそわしてばっかりだった。
がしゃ
鈍い音を立てて、ころころと転がってきた白球が
私の近くに置いてあったハードルにぶつかって止まった。
どきどきしているのを周りに悟られないように、平然を装ってそれを拾う。
正面から、キャップを外して額の汗をぬぐいながら井端くんが走ってくる。
球を拾い上げた私に気づくと、大きく手を振った。
「ありがとう!川崎さん、いつもごめんね―!!」
球を返そうと差し出した手が思わず止まる。
あれ、いま・・・名前で呼ばれた?
「え、と・・名前・・?」
「え?知ってるよ―!3組の川崎さんでしょ?」
見ているだけの存在だった野球部の中堅手が、目の前で笑っている。
隣のクラスの私のことなんか知っててくれると思わなかった。
どきどきする 心臓が 煩い
「あのっ、井端くん、夏大頑張ってね!」
私は渾身の勇気を振り絞ってそう告げると、白球を目の前の彼に渡した。
彼は少し驚いたように私を見たが、ありがとうと受け取り、踵を返す。
泥で薄汚れたユニフォームの背中には 8
いつの間にか 私の好きな数字
去って行く8番の背中が
くるっと 振り返った
「川崎さん!」
「え?」
「来週試合あるんだ!見に来てよ!」
こんなにも身体が熱いのは、初夏の気候のせいじゃない。
「・・・うん!!」
きらめく太陽の下
あつい あつい 夏のはじまり。
少し気が早いですが、暑くなってきたので高校野球が観たくなって書きました。
感想、アドバイス頂けると嬉しいです。