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映画館でのマナー作法

作者: 小峰瑞季

 うわー。

 やべえ。この映画つまんねえ。

 開始5分で主人公が阿波踊りを極めるためにアメリカに飛ぶというところですでにやばい匂いがしたけど、ここまでつまんないとは思わなかったな。

 というか見たいと言っていた本人が爆睡してるよ。

 すでにノンレム睡眠状態だよ。

 というか枕! 枕持ってきてるし。しかも低反発枕! ひざかけまで。

 こいつ最初から寝る気まんまんだよ。


「この映画を見るために生まれて来たっていっても過言じゃないね」


 あの言葉はなんだったんだよ。とんだ詐欺だよ。一生の願いと同系列に位置するよ。あの言葉は。


『く……どうしたらいい』


 主人公が悔しそうに言う。

 ちなみに彼は何もない白い部屋に閉じこめられている。

 阿波踊りを撲滅しようとたくらむソーラン節委員会によって彼は閉じ込められたのだった。


『あーなんか暇になってきた……』


 こっちのセリフだよ! 

 なんで30分間主人公が閉じ込めらた状態で前に進まないんだよ。構成どうなってるんだよ。というかキャッチコピーの妙なリアルティとはこのことかよ! どこでリアルティを感じさせようとしているんだよ! こっちが自分の現実世界を思いだしちゃうよ。


『爪が伸びたな……』


 もはや諦めムードじゃねえかよ。しかもわざわざカメラで寄らなくていいんだよ……。そんな伸びてねえじゃねえか!



『だが……俺には秘策がある』


 最初から使えよ!

 10分間なにやってたんだよ。こっちは見てるしかなかったんだからな。


 主人公が立ちあがって懐から何やら取り出した。


『苦しめ……苦しめ……』


 呪いのワラ人形かよ! 攻撃が地味だし暗い! もっと観客を気にしろよ! というか呪いのワラ人形を持ち歩いてる主人公なんて嫌だよ!



 ヒロインが泣きだした。

 主人公が釘を打つ手をとめて、彼女のそばに近寄った。

 そっと肩を叩く。

 あーなぐさめるのかな。

 少しはいいところがあるのかもしれない。

  

『うるせえ! 呪いの邪魔だろうが!』


 主人公のパンチがヒロインに炸裂した。

 

 どこの世界にヒロインを殴る主人公がいるんだよ! しかも八つ当たりにもほどがあるよ。



『もう嫌だわ』

『ごめん俺が悪かったよ。……気がたってたんだ』

『私たち別れたほうがいいかもね』

『許してくれよ。俺はおまえがいなきゃ阿波おどりも満足に踊れないんだ』

『……あなた』


 なんで安いメロドラマを見なきゃいけねえんだよ。

 というかまだ一回も阿波おどりおどってねえよ。ほとんど白い部屋だよ。前衛的にもほどがすぎるよ。


『私たちやり直しましょう』

『ああ』


 スタッフロールが流れる。


 やっと終った。 

 なんだろうすごく疲れた……。

 隣に座っている友人が気持よく腕を伸ばす。

「やっぱり感動したあとはすっきりするなあ」

「寝てたからだよ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったですっっ! [一言] 面白そうだったので食いつきました。 案の定面白かったです! 次回作待ってマス!!
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