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人柱姫  作者: 紫 はなな
9/13

弟(ペット)ができましたの巻。

 旅立ちは質素なものだった。牛車三台に従者は四名。歩いた方が速いのはわかっているが、体力を温存するために牛車の中でスーピー眠って時間を潰した。

 ふて寝です。

 近隣の鬼を掃討できたと聞き喜んでいたら、少しは残しとかんかとハルに怒られた。鬼の血は栄養剤というよりはガッツリどんぶり飯だったらしい。そんなに入り用ならもっと早く言って欲しかった。鬼の血を吸わなきゃ生きていられないなんて、完全に化け物じゃないか。後で聞かされた方がジンワリへこむわ。

 前方の牛車はシュンと一の宮のカップルシート、後方がハルと私。ハル曰く、次の供儀台は三層目。二つの水堀と二つの山を越えなければならないので、丸一日かかるという。


「この日のために輸血用の瓶子を開発した。感謝しろ」


 恩を押し売るな。溜め息がでるが、真ん中を走る牛車は輸血貯蔵庫だ。ひょうたん型の瓶子に魂血剣を差し込めば容易に吸収できる。


「できれば予備に一、二躰は生け捕りにしたい」


 だからあの牛車、鉄格子がついてるのか。


「いやよ、鬼つれ回すなんて」

「やむを得んのだ。供儀を前にそう寝たきりでは困る」


 嫌だわ、燃費悪いディーゼル車みたいな扱いしないでよ。それよりお腹空いた。沐浴したい。

 ちょっと待て、私。オイルとガソリン枯渇してるて、ディーゼル車よりポンコツだな。


「二層目を過ぎた辺りでいい塩梅の沼がある。一眠りすれば直ぐだ」

「はぁい」


 こてん、とハルの肩に頭を預ける。不本意だがこの体勢が一番しっくりくる。あと、何かいい匂いする。落ち着く。

 て、沼て!

 聞き逃さなかったわよ。

 今となったら池が懐かしいわ馬鹿。

 再びふて寝をきめ込みスーピー、一眠りして起きたら本当に沼に着いていた。


「やばっ、ヨダレが──まぁ、すぐ乾くか」

「聞こえとるわっ、ついでに洗ってこい!」

「ぇえー」


 バサリ、脱いだハルの上半身は意外に逞しい。真っ白なよっと文科系かと思いきや、しっかり鍛えているようだ。


「後もう少し上腕三頭筋が欲しいかな」

「触るなぁっ、さっさと入ってこい!」


 お顔が真っ赤でロウソクみたいだ。相変わらずウブなヤツよのぅ。


「これが……沼?」

「どこからどうみても沼だが」


 緑々しい稲草が生い茂る沼は邸の池よりは狭いが、水はエメラルドグリーン。夏風にそよぐ水面は虹色に輝き、まるで沖縄のプライベートビーチだ。

 沼万歳! 馬鹿にしてごめんなさい!


「いただきまーす!」

「私の前で脱ぐな!」


 ザブンと入れば、あらいい湯加減。

 背の高い草が沼縁に見えたが、草をかき分ければ奥が深く、小さな洞穴に続いているようだ。いい洗い場を見つけたと中へ入ると浅瀬になり、バリアフリー仕様な岩堀や段差がある。ご機嫌に岩に背を預け、脚をヘチマで擦っていると水底からブクブクと泡が吹き出てきた。

 亀か。ザリガニか。

 いや、赤ちゃんだ。白くてムチムチして雷様みたいなイカズチ柄パンツはいてる。


「ごはん、みつけたぁ」


 ごはん? 私のこと白飯扱いされました?

 うん、角あるね。

 鬼か!


「あんたが、私の飯じゃぁああっ」

「きゃいんっ」


 脇をつかみ上げ、たかいたかーい。


「わーい、わーい、たのしいー」

「…………」


 きゅぅうううんっ

 なにこの三頭身。可愛いすぎる。琥珀色のつぶらな瞳で睨みつけないで。がるるるって、サクランボみたいな小さなお口を開ければ、あらま可愛い八重歯。乳歯生え揃ってないやん。


「あ、あと一月もすれば首食いちぎられるようになるもんっ」

「そうかぁ、お姉ちゃんが木製じゃなくてアンパン製だったらよかったのにねぇ。ちなみに訊いちゃうけど君の一月て人間時間でどのくらい?」

「ひゃくねん」


 ああん、何がなんでも可愛いすぎるだろ。もう限界。


『ガブ』

「きゃぁああっ」


 ──ドクン。


「お、美味しい……」


 開かなかった口が開き、噛みつけば歯を伝い血液が昇ってくる。吸血鬼の食事ってこんなかんじなのかもしれない。一滴飲んだだけで、全身に脈動が走りポカポカと体温が上がった。お腹もいっぱいだ。

 でもどうしよう、自制がきかなくてボクちゃんの可愛い桃尻に歯形がついちゃった。

 あれ、もう消えてる。便利。

 罪悪感ゼロ。


「ふぇええん、いたかったよぅ」

「よしよし、お姉ちゃんのもちょっと食べていいから」

「ほんとう?」


 ちょっとだけだからね?

 て、どこ食べてるの。ヘソにかぶり付きてカブと同じスタンスなんだけど。


「すっごくおいしい!」

「ボクちゃん、昆虫? 昆虫なの? それともピッコロ大魔王?」

「ボクちゃんじゃないよう、ライちゃんだよう」

「ライちゃんていうのー、お姉ちゃんはシーナっていうの、しぃ姉って呼んでね?」

「しぃ姉?」


 いかん、鼻血でそうだ。

 可愛かった(過去形)弟を思い出し姿を重ねてしまう。もう抱き締めちゃうっ。


「しぃ姉と遊ぼー」

「うん、いいよー」

 

 捕獲完了。餌とペット同時回収しました。


「ジャン、ジャン♪」

「何がジャンジャン、だ。さっさと返してこい」


 何故だ。

 キャッキャと水遊びして一時間。

 ライちゃん片手にとったどーポーズで意気揚々と戻ったのにハルに叱られた。私が全裸だからか。


「魚でも小魚は海に返すだろうが。そんな子供では一飲みで干からびてしまう、少しはエサにも憐れめ、鬼エサが!」

「エサに鬼エサて。あぁもう、ややこしいなぁ。ライちゃんは干からびないもん、ピッコロ大魔王だもん」

「ピッコ……? 名前などつけるな、愛着がわくだろうが!」

「ライちゃんは本名だもん。餌だけど、餌じゃないもん、私のペッ……弟だもーん、ねー」

「ねー」

「お前らがややこしいわ」


 親鬼に追いかけられやしないか、それだけが心配だったが何事もなく山を超え、剣を抜くことなく目的地へと辿り着いた。

 供儀台を護るその村は山河に沿うやっぱりかな貧村。藁葺き屋根の日本家屋が十軒足らず、後は稲畑が並ぶだけで山道を隔てる外壁や外堀がない。旅客を好まないのか、人は歩いていても、私達に気付くと直ぐに家の中へ逃げ込んでいく。


「ほんとうにこの村に泊まるの?」

「供儀は明日、一晩限りだ」


 牛車を川岸に停めると、丘の上に立つ紅い鳥居を目指し急坂を登った。供儀台を祀る神社で、今日はそこで寝泊まりするらしい。お姫様連れて神社泊まりて不用心すぎやしないか。

 て、豪華絢爛!

 唐模様が彫られた豪奢な楼門を潜ると原色で彩られた鮮やかな拝殿、左右に隣接する居住用と思われる家屋は百人は宿泊できそうな広々とした畳場がみえる。税金を見事公共施設につぎ込んでるな。


「お待ちしておりました、どうぞ中へ」


 拝殿前で頭を垂れる長老の男性はどうやら神主のようだ。ハルと同じような白い無紋の狩衣を身にまとっている。通された出居は広く、御帳台のような豪華な寝所はないが、各々個室のように屏風で隔てられ快適そうだ。そして一名、畳にひれ伏す娘がいる。あなた様はもしや?


「私の孫であり、鬼に撰ばれし人柱でございます」

「ナズナと申します」


 表をあげたナズナさんは、これまた色っぽい姉ちゃんや。女子高生にはない大人の色香たっぷりで見据えている──シュンを。人柱には異国の剣士センサーが搭載されているのか。一応イケメンなハルが気の毒ではないか。


 ナズナさんは栄えた隣街の地主に嫁いでいたが、村に人柱となる娘がいない為に態々戻されたという。鬼を怒らせると川水が上流で塞き止められ、雨が降らなくなり稲畑が枯れる。被害は隣街にも及ぶので、地主は泣く泣く彼女を手離したそうな。


 ちなみに先より誰も私に感謝しないけど、これは虐めなの?

 うん、私の分の寝床ないね。こんなに広いのに。

 空気的扱いか。堪えるわぁ。


「お、お前は私と寝るんだ」

「あらありがとう、ハル」


 嬉しいんだけど赤面するな、こっちが恥ずかしくなるわ。ライちゃん挟んで川の字だってこと忘れないでほしい。


「シュンはマナちゃんとナズナさん、どっちと寝るのかなー?」

「酷いよしぃ、僕は決めた人としか床を共にしない」


 そんな凛々しい顔できっぱり弁解しなくても。そうか、そんなに一の宮が好きなのか。よかったね、運命の人に出逢えて。


 皆が膳に呼ばれている間、私はライちゃんと湯殿でゆったり湯船に浸かった。ライちゃんを抱っこして体育座りが精一杯の風呂桶だが、これはこれで実家のお風呂のようで落ち着く。

 よくこうしてシュンと入ったっけ。小六まで……いや中一、いや中二、あれ?

 思い出してはいけない黒歴史かもしれない。記憶から抹殺しよう。

 気を取り直してライちゃんの地雷を踏んでみた。餌だペットだと連れてきたものの、これって明らかに誘拐だもの。


「ライちゃんには、お父さんやお母さん、いる?」

「どっちも、いるよー」

「寂しくない?」

「寂しいよー」 DA-YO-NE!

「お家帰らなくて大丈夫? 今更だけどお手紙とかだしとく?」

「ううん。僕ね、お嫁さんみつかるまで帰れないんだ。一族の習わしなの」


 可愛い子には旅をさせよ?

 ライちゃんは口が達者だが見た目はどうみても二、三歳。鬼の自立は人間よりずっと早いようだ。


「そうかぁ、早くいいお嫁さんみつかるといいねぇ」

「うん、もうみつけた」


 そうかぁ、よかったねぇ。それで思いは通じてるの?

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………気のせいかなぁ、キラキラとした眼差しをグイッと顔ごとこちらに向けていらっしゃるんだけど。そんなキュートな瞳で懇願されたら断れないからやめてっ!


「ほら、わたくし見ての通り木製ですし、元は人間ですし」

「だいじょーぶ。しぃ姉はだいじょーぶな味がした」


 どんな味がした、私!


「きっと父上も母上もおよろこびになる」

「そ、そうなんだー、あははー」

「だいじょーぶ。ライちゃん大人になるまで、お家帰れない。それまでしぃ姉と一緒にいる」

「そうなんだー、ちなみにライちゃん、後何年で大人になるの?」

「いちねん」

「人間時間で!」

「にねん」


 計算おかしくない?

 歯が生えそろうまで百年かかって、成人が二年ておかしくない?

 ライちゃんがどんな急成長を遂げるのかドキドキしちゃうけど、取り合えず猶予は後二年あるらしい。順調にいけば鬼退治とほぼ同じ頃、それまでは婚約者として何とかやり過ごすか。

 ライちゃんの血を吸ってから頗る調子がいいし、生け捕りの鬼も不要になる。

 何より一日二日で可愛い弟を手放したくない。

 結婚したら食べられちゃう的な(お食事のほう)オチではないことを祈りながら、湯殿を後にした。出居へ戻ろうと回廊を渡っていると、灯りのついた部屋から話し声が聞こえてくる。

 シュンとナズナさんだ。


「お願いです……っ、シュン様」

「で、でも僕にはマナちゃんが──」

「側室で構いませんから」

「そ、そんなこといわれても」

「どうかお慰めをっ」

「何をっ」


 ナニをだろ。

 大人のお姉さま上級テクで襲われとるがな。また一夜でゲットとは、これはもう乙ゲーではないな、エロゲの主人公だな。

 頑張れ、ハーレム勇者。

 明日大事な試合控えてるからほどほどにねっ。




暴走は十二分自認しております……あまり読まれていないようなので、書きためていたぶん、後二、三話投稿したら、その後は自己満足用に非公開で細々と書いていこうかと思案してます。ご理解のほど宜しくお願いします。

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