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赤瞳の竜  作者: ぼここ
島にある村
7/25

夕食にしようね

 ユキにとって初耳である。くりかえし聞こうとしたが口に出なかった。


「すまん、ちょっと驚かしてみたかっただけだ。別に魔物になった奴なんていない。魔物の発生をまだ誰も知らないんだ、もしかしたらって意味でそういうことがあるかもしれないってだけ。普通の生き物がどうして白くなって凶暴化するなんてわからないだろ?」

「なら僕は大丈夫なの?」


 うなずく。サザリとしては冗談を言って和ませたかっただけなのだが予想以上にユキが真に受けてしまった。不安がるユキをなだめるためもっと明るい話をしてやる。


「ちなみにな、俺たち魔物を相手にする討伐者はその健康診断を必ず受けている。どう意味だと思う?」

「どういうこと?」

「おまたせー」


 シイナの後ろにはジンがついている。


「連れてくんの早くねえか?」

「うちにかかればこんなもんよ」


 ユキの横を通り過ぎてどすと音を立て座り込みまるでサザリに対峙するような顔で見ている。ジンも次いで座った。


「俺に何か用が? せっかく昼寝してたのにな」

「またサボってたんだ。その度胸凄いね、怒られたばっかなんだよね」

「当り前だろう。……えっと、反省してますよ?」


 伺いを立てる先はもちろんサザリ、反省の色は見えない。


「てめぇ、面倒おこしたら次はねえからな」


 サザリに許しの伺いを立てるがはねる、だがジンには反省の色は見えない。ユキはそのやり取りに割り込み先ほどの続きを聞こうとする。


「さっきの事ってどういうこと? 診断の受ける意味」

「なんだなんだ、俺は話が分からないぞ」

「当り前じゃないの、うちだって聞いてないんだから。それで何?」


 先ほどの説明を簡単にユキがする。魔物のくだりは冗談なので抜いている。この時にユキは思う、ずっと魔物の竜といただろうクランは大丈夫なのだろうか。今の今まで問題なさそうだから大丈夫なのかと思い至り安心する。

 

「診断結果次第でもしも、もしもだぞ。念を押しておく。特にジンにだ、どう考えても早とちりしそうだかなら」

「早くしてくれよ」


 ジンの催促にムッとしたようだがそこは大人、ちゃんと流す。クランがユキの膝の上に乗っかるとシイナがにらみつけてくる。それだけ触りたいのだろう。

 サザリが一息つくと話し始める。三人はまず黙って聞く。


「俺たちはその診断で魔物の毒気に耐性がある事がわかってな。その耐性があればある程度魔物に近づいても平気だし、魔物でなくても毒気のあるような所に潜っていける。つまりな探索者にも討伐者にもなれるってことだ」

「おおっ!」

「先に言っておくぞお前らはまだ決まったわけじゃない。ただ人手不足だから耐性があれば俺らは誘うことになっているんだ」

「おおっ! まじかよ!」


 一人だけジンが立ち上がり拳を握る。この村で十分暮して行けるとはいえ都に対する魅力に取り付かれているジン。いつも俺も向こうに行くと言っていた、その為の機会が今ここにある。


「俺も討伐者になれるんだろ! 都に行くんだろ! よしっ俺はこの名をはせるために有名になる」

「ほら、せっかちだって。たった今結果次第って言われたでしょ」

「そうだよジン。でもうちも一度は都に行ってみたい」


 検査は昨日魔物に近づいたユキとジンだけ行う。毒性の検査は実際に触れてみなくてはわからない、場合によっては著しく体調を崩し、危険な状態に陥ることもあるため二人のような場合に限って検査が行われる。当然なりたいが故に自ら毒気に飛び込む者もいる。

 ユキは検査を受ける事になったが、前に一度検査をしておりその結果を知っている、適性はなし。シイナもだ。


「思ったより暴れなかったな。まあ、いいや。それじゃ始めるぞユキからやって結果は後で教える」


 簡単な検査である。木でできたよくわからない箱のようなものを押し付けられておしまい。そんなもんで終わってしまいジンがそれだけかよとがっかりしている。その後は三人でサザリが話す都の事や、討伐者のことを話してもらい時間が流れる。クランは喋りもせずにずっとユキの腕の中に納まっていた。




 その後にサザリが解散を宣言して検査の解析をするために奥の部屋に入っていった。三人はそれぞれも元のところに戻るように言われたがジンが元も場所に行くと言うのでついて行くことにする。

 集会所を出てすぐ横の共同の倉庫。辺りを見回して人が見てないことを確認してからその中に入る。三人の秘密の場所がその屋根裏にある。


「なんだよお前ら検査うけてたのかよ。残念だったなサザリさんみたく探索者にも討伐者にもなれないとか」

「ジンだってなれると決まったわけじゃないでしょうが」

「俺はなるんだよ。見ておけシイナ。俺はきっと有名になって帰ってくるからさ」

「頑張ってねー」


 適当に返すシイナに、ユキも同様の感想を持つ。

 たとえ何かの間違いでもジンに適性があったとしてもやっていけると思えない。きっと耳をふさいで聞き流していたと思うが憧れの討伐者にも探索者になるにしても勉強と言うものが必要だ。

 前に地守りのハーミルトと仲の良いユキたちはいろいろと教えてもらいこの村にいる限り必要ないであろう文字も覚えたがジンは途中で投げ出してしまった。


「ねえユキ、クランって喋るんでしょ?」

 

 膝の上で名前を呼ばれびくりと反応する。


「喋るんだけどそういえば今日はほとんど黙ってるね。多分知らない人が怖いんだよ、朝もみんなに囲まれた時ずっと僕の背に隠れてたし」

「お前も知らない人だったろ」

「いわれてみればそうだけど、そばにいるけどろくに話してないんだよね。ねえクランは僕の事どう思ってる?」


 ジンとシイナの方を見てから口を閉ざす、きっとしゃべりたいのだろうけど二人を気にしすぎて引っ込んでしまっているんだと思う。


「これじゃ誤解とけないぞ」

「誤解?」


 ジンの言葉に疑問を持つ。しかしクランの事が誤解されているのに思い当たる節ばかりだ。ユキはハーミルトから竜の事も存在をわずかながらに存在を知っていたが、他の村人はそうではない。


「俺はお前と一緒にいたから知ってるけど、他の奴はそいつの事よく知らないからな、あれと同じ魔物だって思い込んでるやつもいる。ルイのちびとかは殺してやるとか言ってたぞ」

「ルイ? あの子まだそんなこと言ってるんだ」

「ジン、それって本当?」

「まあ、あいつ一人じゃ何にもできないだろ。もう大人も相手するほどじゃないみたいだしな」


 ジンは薄暗い屋根裏の梁の上に登り横になる。

 ユキとシイナは村の子供たちの中から少し孤立している。ジンが橋渡しをしているため衝突と言うようなことはないが溝は深い。


「何もないといいね」

「やめてよシイナ。その言い方だと何か起きそうだよ」

「もう起ってるだろ。昨日」

「忘れてた! ねえ昨日の話聞かせてよ。私を誘ってくれないで二人だけで行っちゃってさ。クランの事もいっぱい聞きたい」

「良いぞ」

「僕もいいけど手伝いに戻らなかったら怒られちゃうよ」


 ジンも手伝いに駆り出されているはずなのだが、当然の如くさぼっている。今日もここで寝て過ごそうとしていたらしい。


「真面目君だなユキは。手伝い頑張ってくれたまえ、俺はシイナとここで話してるから」

「ユキもさぼっちゃえば?」

「それは駄目だよ」

「ならうちも戻ろうかな。頼まれごとあったし」


 梁の上で姿勢を変え二人を見下ろす。ジンは行くつもりはない、秘密の予定がある。

 なんやかんや言ってユキとシイナは降りて出て行ってしまった。物寂しそうな表情をして取り残される。




 


 壁の建築。ユキやシイナたちが生まれた頃、まだわずかに一部にしか存在しなかった白い体に赤い目を持つ凶暴化した生き物、魔物と呼ばれるものの数が急激に各地で目撃され数を増やしていく。

 当然被害も多くなり対策として魔物がよりやすい森の近くの村などは守るための壁をたてることとなる。それでもこの村に現れることはしばらくはなかったが数年前に現れたことをきっかけに壁の建築がはじまった。まだ完成していない、この分だとまだかかるだろう。


 手伝いの最中、クランはユキの後ろにぴったりとくっつき離れることはない。用事で呼ばれれば後ろに隠れ、隣に住む白髪交じりの髪の長いおじさんにじろじろ見られれば服を掴み引っ張る。邪魔はしないで愛くるしさだけを振りまいてるのをユキは見ると誰が見ても上機嫌になっていた。

 シイナもサザリもクランに対して好意的であるがそれ以外の人が距離を取っているのはジンに言われなくても気づいていた。


「今日は多分だけどウドが帰ってくると思うんだ。家にいる犬だよ、賢くてよく言うこと聞いてくれるんだ。だけどよく出かけてるから家にいなくてさ、帰ってきてくれれば家族みんなで夕食にしようね」

 

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