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赤瞳の竜  作者: ぼここ
島にある村
4/25

わからないか、俺だ

  ユキに引っ張られるがままに走るジン。クランを抱いておりさらに足場の悪い夜の森のせいで距離を詰められてしまう。

 ジンだけがすぐ背後に迫った瞬間にユキを追い越し逃げる。あっけなくユキはつかまってしまった。


「よくやったモス!」


 そう呼ばれた小男は嬉しそうな表情を浮かべユキを強引に引き寄せる。だがユキはすぐに表情が変わった気がした。同時に掴む腕の力が緩み、その瞬間を逃さずに振り払い逃げ出す。

「てめっ!」


「大丈夫だったかユキ」

「うん、何とか」


 どうしてかすぐに二人組は追ってこなかった。だが安心はできない、助けてくれる人のいる村まではまだ距離がかなりある。そのうちに追い付かれてしまうだろう。

 何とかしなくてはならないがこの状況で隠れるくらいの案しか二人には出てこなかった。


 ただ走り続ける二人、クランがユキに揺れると文句を言う。状況がわかってないようだ。ごめんとユキは謝りそれを聞いたジンが走りながら振り返ると速度を緩めた。同様に足を止めると後ろからは足跡も二人組が持っていた明かりもない。


「おっしゃ! 諦めてくれたぜ、ユキ、いい走りだったぞ」

「本当に来てない?」


 耳を澄ませて森の向う側を確認する。誰も追いかけてこないようだ。今になって虫の鳴き声が聞こえた。


「諦めてくれたのかな?」

「そうだろうぜ。と言うかお前に一言、いやたくさん、星の数ほど言いたいことがある!」

「さっさと帰ろうね。クラン」

「うん、でもどこにかえるの?」

「僕のうち、お母さんは驚くかもしれないけどきっと可愛がってくれるよ」

「そいつ言葉話せるのかよ、本物の竜ってすげえな。で、とりあえず俺を無視するな」


 言われてユキはジンの存在を忘れるところだったと危うく思った。きっとこのままだったらジンに恥ずかしいところを見られていたかもしれない。一応申し訳ない気持ちが少しだけ湧いてきた。


「ごめんジン」

「ごめんじん」


 クランがユキの言葉を繰り返す。しっかりと身振りの真似までしていて「おお」と一人で歓声をあげる。


「よくできました」


 頭をなでてやると「えへへ」と喜ぶ。ジンの事はそっちのけで気づいたころには拗ねていた。




 ジンにまた謝って許しを得てからまた村に向けて足を進める。

 

 会話はない。ユキは考え事をしていた。

 今日の昼に討伐隊が倒した大型の魔物は竜だった。クランと同じ白い体で目だけは魔物の象徴と言える赤。魔物が魔物じゃない生き物を育てるわけがないがその魔物がクランの親だったとしか考えられない。それを知っていたからクランを見つけて連れて帰ろうとした。でなければきっと一人ぼっちで食べるものも取れずに弱って死んでしまったはず、あるいはあの二人組に見つかってしまう。

 

 討伐隊がクランの親を殺した、ただその魔物の竜に襲われてしまったユキを助けてもくれた。クランの親の仇がすぐそばにいるがユキにはどうすることもできそうにない。

 クランは親が死んでしまったことに気づいていないはず。だが最初に「おかあさん?」と聞いてから今まで忘れてしまったのかのようにその存在について口にしない。ユキもそのことを告げられるわけがないためそのままでいる。


 ユキには重すぎる事である。自らそれに触れることができない。


 わからないことがたくさんある。あの二人組の事だ、クランを探していたって言っていた。二人組にクランが必要な事情があるのかも知れないがどちらにせよユキにはクランを手放す気はない。


「シイナがそいつの事見たらなんていうだろうな?」

「きっと驚くでしょ、腰抜かしたりするかも」

「あいつがそんなことになるわけないだろ。度胸は据えてるしな」

「そうかな?」

「しいな?」

 

 ユキが黙っていたため何も言えなかったクランがここで口を開いた。クランもユキと話したいのだ。


「帰ったら紹介してあげるね。友達の女の子だよ」

「意外とかわいいぞ」


 ジンが嬉しそうしている。


「あれ?」

「どうしたのクラン?」

「なにかいる」


 クランは茂みの方へ小さな指を指す。ユキは歩みを止め静かに目を凝らす。


「なんだよ、脅かすなよ。足音すら聞こえてないんだぜ」

「ちょっと黙ってて」

 

 しゅんとした。

 暗がりにユキにも気配を感じることができた。先ほどまで何もなかったはずの茂みに突如わずかだが気配を感じる。

 気付いてすぐにジンの手を取りその場から駆け出す。


「待て! 行くな!」


 まるで気配なんて感じなかったそこから小柄な男が飛び出してきた。ジンが引っ張られながら振り返ると片手に刃物を持っている事に気づく、慌ててユキを抜き去り駆けていく。


 後から駆けてくるが先ほどと違い明かりを持っていないため小男も速度をだせずに距離の縮む速度が緩い。足元だけに気を付けてがむしゃらにかけていくジンの後について行くと森が途絶えて開けた場所が見えてくる。


 それは今日の昼に討伐隊が魔物の竜と戦った場所である。いくつもかの木々が倒され、地面がえぐれている箇所がある。どれも大量に使われた罠によるものだ。

 まだいくつかの罠が残っている。人が一人が入れるほどの円の中に複雑に模様が走っておりそれらすべてが薄く蛍光石と同様に弱く光っている。その上を魔物が通ると起動する仕組みだと聞いているため、基本的に人が通っても発動はしない。


 とにかく月明かりがさして走りやすいそこに駆けていくが途中の木陰から大男が飛び出す。待ち伏せされていたようだ。こちらは刃物は持っていないが代わりに見たことのない黒光りするものを持っている。

 それを構え足を止めた二人の方へ向けると何かを放った。


 ユキのそばを何かが感じることしかできない速度ですれ違っていく。


 見たことはない形だがユキたちにはそれが獣を狩るための猟銃と似たようなものとだけわかる。頭の中をとにかくやばいとだけ理解する。


 方向を変えて走ろうとしたが目の前に危機に足がすくみ転んでしまう、クランを振り落してしまった。

 ジンはそれに気づくのが遅れ大男が既にユキの前に立っている。


「クランっ」


 手を伸ばしてとにかくクランを手元に引き寄せようとするが伸ばした腕は大男に掴まれてしまう。そのまま立ち上がるように引き上げられる。


「放してよっ」

「暴れるな」

「ユキ!」


 ジンが声を上げる。視線がユキの後ろにむかい、それに連れられて振り返れば小男もそこにすでにいる。

 刃物も猟銃のようなものもユキには向けられていない。大男に向くと思いっきりにらみつける、その目は涙目になっている。


「落ち着いてくれ」


 何とかもがこうとするが小さなユキの力ではありえないほど強靭に掴まれたその腕を振りほどくことができない。この時にしまっていた蛍光石を思いだした。

 ユキは前に教えてもらっていた。先ほどまで持っていた明かりにも使われている力をため込んだ石である。叩きつけて壊そうとすればそれが火薬のようにはじけ飛ぶことも知っている。


 すぐさま取り出し地面の堅そうなところにたたきつけた。地面で砕けると光も放ち破片がはじけ、目くらましのようなになる。


「ぐっ」


 一瞬つかまれていた腕の圧力が無くなりジンの方へ駆け出した。


「逃がさねえよ、いい加減にしろ。動くな」


 二歩目にならないうちに再び腕を掴まれた。

 ユキの視線の中クランがこっちに来ようとしている、そして大男の腕が上がる。手には猟銃のような弾を飛ばすものをもちジンの方へ上がる。


「逃げてジン!」


 目の前でジンがそれに気づき逃げようと駆け出す。大男はためらうことなしに弾を放つがジンには当たらなかった。舌打ちがなり、さらにはじける音が響く。それも幸運にもジンにかすめることはなかった。

 木の陰に入りユキには見えなくなった。


「モス、行ってくれ!」

「まかせろ」


 腕を引き寄せられ、見慣れない色の目が見える。

 

「わからないか、俺だ、マサだ。お前は――く」


 今度こそ腕が離れた。見てみるとクランが大男の足に強烈に噛みついている。内心よくやったと思い、身を掲げ大男が掴もうとするのをしっかり見てよけるとクランを抱えて木々のない方へ走り出す。


 ジンの事が心配だがとにかく大男から逃げ出すために必死にかけるがあっという間に距離を詰められる。


「すばしっこいな! 一度寝てろ」


 一瞬何が起きたかわからないかったが視界が落ち着くと地面に押し付けられ馬乗りにされていた。今度はクランを落としていない。

 遠くで悲鳴が聞こえた。


 クランを抱えていた腕は自由だ。しまっていた蛍光石をひとつまた取り出す。かなり危険な賭けだったが逃げてもすぐに追いつかれてしまうユキが思いついた唯一の方法。馬乗りにされてよく見えないが倒れた木々の向う側に薄く光る目的のものが見える。

 

 蛍光石を投げた。

 大男は先ほどの破裂を見ているためその効果にタカをくくって止めなかった。


 昼に見た討伐隊の戦い。罠の起動の仕組みもハーミルトに一度教わっているため大体の方法はわかっていた。


 直接は見えないが蛍光石が落ちシャンと小さな音だけが聞こえる。

 ユキはクランを片手で覆うように抱きしめる。


 さすがにそれに違和感を感じたのか大男は「何をした!」と焦る。が答えるわけもなくひたすらに次に来るだろう衝撃に身を固める。


 昼かと思うような強烈な光が覆い、一呼吸おいてから激しくたたきつけるような膨大な勢いがユキたちを含めあたりのものを押し流した。


 

 

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