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未だ見ぬ未来

作者: 黒崎エリヤ

「ただいま」

「お帰りなさい」


深波家の夜。

カイが帰宅すると同時に、その声を聞いた。


彼の最愛の妻である夕鶴の声だった。



「ご飯にするか?それとも、風呂に入るか?」

「そうだな・・・じゃぁ。先に風呂に入ってくるな」

「・・・うん」

「なんなら、一緒に入るか?」

「・・・・いや、遠慮しておく」

「そうか」

いつもの夕鶴とは思えないほどの、彼女の返事の仕方にカイは突っかかりを感じた。


いつもの彼女なら「ふざけんな!」の一言や二言を言うはずなのだが・・・・。

兎に角カイは入浴を済まし、夕食をとり終えることにした。



そして、現在・・・。

カイと夕鶴はリビングのソファでくつろいでいた。

そんな時だった。


不意に夕鶴がカイに話し掛けた。



「なぁ・・カイ・・・」

「なんだ?」

返事はしても、カイの視線はテレビに向いている。

夕鶴は何やらもぞもぞとしているが、口を開いた。



「俺・・・子供出来たみたい・・・」

「・・・・・は?」

突然の夕鶴の言葉にカイは理解できなく、

思わず口から漏れた言葉と同時に彼女の方に目線を向ける。


そして、夕鶴が再び口を開く。


「だ、だから・・・・子供が出来た・・・。俺のおなかにお前との子供が・・・

カイと俺の赤ちゃんがいるんだって・・・」


「こ、子供って・・・俺と、お前の・・・子供なのか?」

「・・・あ、当たり前だろっ!」

カイの返事に、少しムスくれながらも返事を返す。

そして、夕鶴の顔がみるみる赤くなってゆく。



最初、混乱で何を言えば良いのか変わらなかったが、

感情のまま夕鶴を抱きしめた。



「夕鶴っっ!!」

「うわぁっ!」

「やったじゃないか!子供!子供だぞ!!」

「あ。あぁ・・・」

異常なほどの夫の喜び方に、カイに抱かれている夕鶴は少し戸惑う。



「あ・・・そういえば、今何ヶ月だって?」

「さ、三ヶ月だって・・・今日病院行ってきたら、そう言われた」

「そうかぁ三ヶ月・・・。じゃぁ、産まれるのは今年の10月だな」

「そうだな・・・」

そう言い愛しそうに自分の腹に手を置く夕鶴にカイは微笑みながら言った。


「なぁ、夕鶴?」

「ん?」

「幸せになろうな。腹の中のチビも一緒に暖かい家庭作ろうな」

カイの言葉に夕鶴は頬を赤くしながら微笑みながら「あぁ」と答えた。

そんな夕鶴が愛しくて更に彼女を抱きしめる力を強くした。




□■□■


「・・・い!・・・ぉぃ。ヵィっ!・・・カイッ!!」

遠くの方で愛しい声が聞こえる。

その声にカイは閉じていた瞳をゆっくりと開ける。


「おい、起きろって!先生きてるぞ!!」

「ゆう・・づる・・・?」

まだ寝ぼけているのだろう。

カイは夕鶴をまじまじと見つめる。

そんなカイに不振を感じたのか、夕鶴が顔を歪めて言う。

「どうしたんだよ?まだ寝ぼけているのか?」

そう、夕鶴が言った瞬間だった。


「夕鶴ぅ~!!」

「うわぁっ」

がばっ、と、夕鶴を抱きしめる。

あまりの恥ずかしさに夕鶴は抵抗するが、

寝ぼけているとは言え、カイの方が力が強い訳で・・・・。

夕鶴は困ったかのような顔をする。


「夕鶴!俺、お前のこと絶対に幸せにするからさ!」

「は、はぁ?」

「だから、元気なチビ産んでくれよ!!」

「な、何言ってるんだよ?・・・・・・ってか、放せっ!・・・おい!カイっ!!」

起きたかと思えばとんでもない事を言い出すカイに

夕鶴は驚きのあまり暫く黙り込んだが、

周りの視線に恥ずかしくなったのか、流石に夕鶴も怒り出す。

しかし、寝ぼけているカイはそんなの気にも留めない。


が――・・・・。



「いてっ」

行き成り後ろから頭を何か硬いもので殴られ、カイは頭を押さえる。

そして、その衝撃で漸く目が覚めたのか、カイは先程の衝撃は何なのかと、後ろを振り向く。

すると、筒状に丸めた教科書を手に怒りの笑みを浮かべた国語科教師・岡田の姿。


「あ、先生・・・おはよう御座います」

「「おはよう御座います」じゃないだろう!深波、お前廊下に立ってろ!!」




授業中に居眠りをした挙句、寝ぼけて夕鶴に抱きつき教室中を騒がせたとして、

カイは廊下に立たされていた。


「ちぇー・・・岡田の奴、思いっきり頭を殴りやがって・・・」

未だに鈍く痛む頭を摩りながらカイは文句を言う。

しかし、元はと言えば、授業中に居眠りをしていたカイが悪いのだが・・・・。


「でも・・・俺と夕鶴の子供・・・・かぁ・・・」

ポツリと、先程見た幸せな夢を思い出し独り言を言う。

其れが現実だったら、どんなに幸せだっただろうか・・・・。


夢の中の自分は、隣に最愛な夕鶴が居て、その夕鶴との間に子供が出来て、

幸せな家庭にしようと彼女と約束し、まさにそのスタートを歩もうとしている姿だった。


所詮は唯の夢だと、普通ならそう思う所であるが、

しかし、先程見た夢は「唯の夢」ではない――・・・・・。

そう、カイは薄々と感じた。


今はまだ見えない先の未来ではあるが、きっとこの先・・・。

何年、十何年と先の事になるとは思うが、

きっと、そんな幸せな未来が自分を待っている・・・・そんな気がした。


「(だが、その未来を手に入れる為には、まずは夕鶴自身を手に入れないとな・・・)」

そう、未だ気持ちが伝わっていない想いの人物に対しある決心をすると、

カイは薄く微笑み廊下の窓から空を見上げた。


窓から見えるのは、雲ひとつ無い青空が広がる平凡な平日の午後の空。

カイの見た夢が現実の物となるのも、そう遠い未来の話ではないのかもしれない――・・・・。


                          <END>

=あとがき=


最後までお付き合い誠に有難う御座います。

今回、カイと夕鶴が恋人同士になる前と言う設定で書きました。

ネタとしては、本当にどのジャンルでも有りがちのネタではありますが、

基本的に、死ねたや悲恋・ダークシリアスなど、

暗い話を書く事が主となる当方としては、

こう言った明るく幸せなお話はとても新鮮に感じられて、

とても楽しく書く事が出来ました。


お話の感想やご意見など、随時募集しております。

宜しければ是非、ご意見・ご感想等頂けたら幸いに存じます。

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