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第一話:お姫様と誓いのキス

 ゆったりと闇の中で眠っていたオレを急速に引っ張る力が捕らえる。

 とは言っても熟睡モードに入っていたオレを起こすにはちと弱い。

 土日の朝とか、布団から出る気が起きない感じだ。

 地面に足がついた感覚がしたが――オレはそのまま眠り続けることにした……。

ルチア姫 view


 はぁ……やっぱり、自分の手でやるのは疲れますわ。

 今は仕方無いから我慢して差し上げますが……本当に私自身の手でやる必要があるのかしら? もう古い儀式法ですからね、改良する必要がありますわね。

 そんなことを考えながらも私は手を止めずに儀式用の短剣を振りかぶる。

 振り下ろした先には生贄の胸部。脈打ち続けるそこに勢い良く突き刺した。

 儀式法の手順に則って順番に切れ込みを入れ、骨を断ち、心臓を抉り取る。

 ふむ……色、艶、魔力濃度。問題有りませんわね。

 私は心臓を捧げるように持ち部屋の中央にある魔法陣の上に置く。

 二十一個目の心臓――これで準備は完了ですわ。

 四方の壁、床、天上に描かれた血色の魔法陣を素早くチェックして問題が無いか確認する。

 ――流石はわたくし。一部の隙もない美しい魔法陣♪

 特に床の主要魔法陣は完璧な出来ですわ!

 あぁ……この光景を保存することが出来ればいいのに!


「ん、んっ……姫様。そろそろ――」


 私が自身の作った魔法陣の出来に惚れ惚れしていると後ろから声がかかる。

 はぁ……水を差されましたわ。少しくらい空気を読んでくださらないと。


「分かりましたわ。これより勇者召喚の儀を執り行ないます。私が主要魔法陣を担当しますから、あなた方は補助魔法陣をよろしくお願いしますわ。――失敗など許されませんわよ」

「「「ハッ!!」」」


 即座に配置につく。四人の補助術者は四方の壁につくように。私は最も中央に近い円陣の中に陣どる。


「始めますわ――」


 言葉と同時に目を瞑って集中。

 魔力が魔法陣を満たし黒々とした光を漏らし出す。

 イメージするのは広大な海。その中に沈む巨大な何かを探る。

 ………………なかなかピンと来るものがありませんわね。

 どれも似たり寄ったりな感じで――――あら?

 伝わるのは他のものより少しだけ大きいその存在。

 しかし、その深さは測り知ることが出来ないほど。

 まるで――世界がいくつも詰め込まれているような、何とも言いがたい感覚。

 ふふっ……貴方に決めましたわ! さぁ、おいでませ!

 それを掴み、引き上げるイメージ。

 私が儀式の成功を確信すると同時、魔法陣から溢れる黒い光が部屋中を埋め尽くした。


「お、おぉ……」


 その声は補助術式者が漏らした声だったが、私も同じ気持だった。

 全てを飲み込んでしまいそうなほど黒々とした漆黒の髪。

 この世の一切の汚れを知らないと思われるような造形美の顔。

 バランスの取れた無駄のない肉体。

 さらには見たことのも無い材料で造られた漆黒の服を着ている。

 もし神がその存在を知ったならば、手元に置いて片時も離さないとさえ思える。

 そしてその存在を私が――支配出来る!


「――拘束具を」

「ハ、ハッ! ――ここに」


 振り返らずに、差し出された拘束具――銀色の首輪を手に取る。

 震える手で微動だにしない彼の首に取り付ける。

 ふふふ……絶対に逃がしませんわ。これで貴方は、私だけの――勇者様。

 私が感触を確かめるように頬を撫でていると、彼はゆっくりと目を開いた。


ルチア姫 view end


 頬を触る感触に目を開くと、そこは石造りの部屋のようだった。

 うわー……なんというか『す、すごい趣味ですね』としか言えない部屋だ。

 なにあれ、心臓? まだビクンビクンしてるんですけど。

 というかこの子はいつになったら離れるんだろうか。

 それにしても血でべっとりなのに良い笑顔ですねお嬢さん。これなんて猟奇的な彼女? ヤンデレ?

 ――しかし、それすら霞んで見えるほど美少女だ。

 長い金髪に赤のドレス――いや、これ元は白か? ともかく似合っている。

 全身血塗れじゃなければ引く手数多だろう。血塗れでもありそうだが。


「qawsedrftgyhhujavdfrad! favexswwlxkga?」


 ……オーケー。まぁ待て、時に落ち着けオレ。も、もう一回聞いてみよう。


「……eadgevscra?」


 さっぱりわからん。まさか異文化コミュニケーションからとは……正直覚えるのが面倒だ。

 早くも挫折しそうになる。

 あぁ、昔ジェスチャーで帝国の将校と交渉したときを思い出した。

 あの時は本から地道に学んだっけ……。

 なんて思っていたら少女が何事かをブツブツと呟く。

 それと同時にオレの首元が光が――って何で光るよ!?

 確かめてみると革でも鉄でもない妙な材質のチョーカーが嵌められているようだ。

 何でこんなものが……。普通に考えるならこの子がつけたんだよな。

 そんなことを思っていると少女がまた口を開く。

 オーケー。心の準備は出来たぜ。オレのジェスチャーテクを見て腰を抜かすなよ!?


「失礼、言語能力の付与を忘れてましたわ。改めて自己紹介を、私の名前はルチア・ブラッドリィですわ。貴方のお名前を聞かせてくださるかしら?」


 な……なんて良い子なんだ。オレが言葉を理解出来ていないのを瞬時に判断して魔法を使ってくれたのか。やべぇ、涙出そう。

 そうそう、名前だったか。オーケー、オレの名は――


「名はありません」


 ――って、えええええええぇぇぇぇぇ!?

 何故か勝手にオレの口から否定の声が出る。どういう事これ!?

 なんとか声を出そうとするが、それ以後の言葉が出てこない。

 わたわたと怪しい動きをするオレを気にせずに少女――ルチアは語りかけてくる。


「名前が存在しないと――そういうことでよろしいですね?」

「えぇ」


 待てやオレの喉! 勝手に決め付けるなよオラァ!


「では、私が名を授けます。これ以後はその名を名乗るように。よろしいですわね?」

「わかりました」


 わかってねぇよ! くっ……こうなりゃジェスチャーでこの異常を知らせるしかっ!


「もう……もう少し落ち着いて待ちなさい。今考えてさしあげますから」


 なぜか直立不動とまではいかないが、自然体に体が戻される。

 え、もしかしてこれ操られてる?

 いや、完全に乗っ取られてるってより強制力が働いてるような……。

 しかも口調まで変だ。オレはこんな丁寧に受け答えするキャラじゃないのに……。

 なんかこう……オレじゃない好青年がオレの声で喋っているような違和感だ。


「……決めましたわ。貴方はこれよりクロードと名乗りなさい!」

「はい。素敵な名前をありがとうございます。ルチア様」


 あー……うん。もういいよクロードで。

 ってか何で様?


「ふふっ……良い心がけですわクロード。さぁ、誓いのキスを――」


 キスとな!? これはアレか、それなんてエロゲーな展開でいきなりのマウストゥー……え?

 オレの期待、もとい予想を裏切ってオレの体は勝手に膝を折る。

 さらに、それに合わせるようにしてルチアが片足を上げる。

 ちょっと待て! この展開は……女王様の『お舐めなさい、この犬』って感じの!?

 あ、あぁ! ちょっと待って。流石に靴にキスするのは初めてっていうか、心の準備がですね?

 あ、あ、あ、……アッー!!!

 ――――誓いのキスは血の味しかしなかった。

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