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プロローグ:仕事の出来ない神様

 あぁ、この長ったるい廊下を歩くのもこれで最後かー。長かったな。

 オレは延々と続く真っ白な廊下を進む。

 この先に在るのはこの世界を創った神がいる場所。

 クライアントであるそいつに会うために、まっすぐに歩いていく。

 まぁ一本道なんですけどね。

 ――ようやくついた。ここまで来るのに一瞬だった気も、途方も無い時間が立った気もする。


「よぉ神様。ミッションコンプリートですよっと」


 オレは何の遠慮もなく真っ白の扉を押し開く。

 真っ白の壁に真っ白の床。机も椅子も調度品も――ついでに言えばこの部屋の主も白だ。


「……随分と、仕事が早いね」


 白い髪に白い瞳の少女。白い肌に白いローブっと……相変わらず白白白。

 自分は潔白ですよアピールしたいのかもしれん。

 まぁ、ちっこくて可愛いからいいか。ジャスティスですよ、ジャスティス!


「仕事は正確で、楽に、早くやるのが一番だ。設置には手間が必要だったが、邪魔する存在なんてそうそう無かったしちょろいもんさ」

「君が目覚めてから約43年――人類の、いや、生物の歴史を白紙に戻すのには少々短すぎるね」


 そんなに経ってたのか。そういや時間なんて全く気にして無かったしな。


「そう、早過ぎる。私は――君がどんなに頑張っても数百年、ないし千年はかかるとさえ思っていた」

「見くびるなってことさ。人間やるときゃやるってね」


 火事場の馬鹿力。背水の陣。上げればキリないんじゃねーの?


「そして、私が君に支払う対価――報酬についてだが」


 待ってました! オレはようやくこの最低最悪の――


「結論から言おう――――無理だ」


 ………………は?


「君が先刻倒した勇者。アレは私が用意した者だ」

「っ……どういう自作自演だよ」


 あーやばい、キレそう。何で!? お前はオレに世界を滅ぼしたいって言ったよな?

 その対価に報酬――オレの望みを叶えてくれるって……。


「当初のシナリオではこうだ。君は私の依頼を受けて世界の破滅を進めて行くが、人類には『勇者』という守護者がいた。君は勇者の圧倒的な力に負けるが諦めず、各国の戦争を助長する形で破滅を推し進めてゆく。さらに、勇者は人間ゆえ代替わりする。寿命はもはや存在しない君が、千年後に最終決戦を仕掛けても対応出来ていたはずだ。最終的に君は勇者に勝利するが、致命傷まではいかずとも重傷くらいにはなるはずだった。」

「後はボロ雑巾のオレと数の減った人間つーか生物を掃除して完了ってわけか」


 神様は無表情でコクリと頷く。可愛らしい動作だが、今のオレには苛立ちしか湧いてこない。


「オレの能力は知ってたよな? 何であの程度で勝てるなんて思ったよ」

「そもそも、君が異常すぎるのだ。あの『煉獄』を世界規模で召喚、維持することが出来るなんて――」

「おい――寝言言ってんじゃねぇぞクソガキ」


 無理だ。耐えられない。何コイツ? ふざけ過ぎだろ。

 神様は依然として無表情のまま椅子から下りてオレと対峙する。


「いつごろ無理だって気づいた」

「……君が最初の勇者と接触した時からだ」

「あぁ、適当に転がして周りの奴らだけ殺ったんだっけな。それで?」

「それで、とは……?」

「何で神様は無理だって気づいた時に言わなかったんだ?」

「勇者も代替わりするごとに強くなるから、それでなんとか出来ると――」

「だとしたら! 勇者には手を出すなって指示が必要だよな。何でそれを……」

「私は……外界に直接干渉は出来ないから」


 呆れた。コイツ本当に神様か? 神様って言ったらもっとこう何でも出来て、何でも知ってる、って感じのだと思ってたんだがな。 

 あ、もしかしてコレってオレのミス? こんななんちゃって神様の言う事を信用するからこうなるんですよーってヤツですか。


「はぁ……代案よこせ」


 神様の頭の上に?マークが浮かぶ。ハッ……オレが怒りに任せて襲ってくるとでも思ったか? そんなワケが無いだろ。


「――オレの存在を消す方法の代案だよ。それくらい考えてるだろうな?」

「……怒ってないのか?」

「残念ながら怒り心頭だ。だが、オレも多少の年月は生きてきた。バケモノと崇められ、兵器として使われる毎日で覚えたのはほんの少しの我慢だ」

「…………」


 そんな目で見るなよ。同情なんざ要らないっての……。


「今ココでお前を殺るってのは案外簡単なんだろうさ。きゅっとしてドカーンってな。だけど、たとえオレが無抵抗でも逆は無理なんだろ?」

「……うむ。君の能力は魂に依る力だ。そのままの状態で殺せば、輪廻の輪に捕らわれて転生。その先でまた目覚めるというわけだ。君の人格と、能力そのままにね」


 そうかい。オレって自分が思ってた以上にやっかいな代物だったのね。


「代案は――無いわけではない。二つある」

「一つは私の力を使って、この世界に封印するというものだ」


 封印、か。だけどそれって……


「……意識とかあったりするのか?」

「……多分、ある」


 却下したいところだな。退屈で死ねるし……。

 何かの拍子で封印が解けないとも限らないしね。


「もう一つは?」

「もう一つは君を異世界へと転移する」

「……ほう?」

「正直な話、私はコレをやりたくない。結局は君と向こうの人々に丸投げする形だからね」

「だが、封印よりは可能性あるな」

「うむ……君はそこで――自分と同等の魂を持つ存在に殺されるか、相討ちにならなければならない。神でも人でも魔物でもいい。けど、それは魂すら砕く必殺の一撃でなくてはならない」


 なるほどね……勇者と死闘。神様の乾坤一擲か。


「しゃーねぇ。それに賭けるしかなさそうだな……分かりやすく魔王とか勇者とかいる世界だと楽そうだな」

「言っておくが、どの世界に飛ばされるかはランダムだ」

「本当に神様って微妙な仕事しか出来ないのな」

「……ごめんね」


 ってなんか微妙な表情して白い部屋から出ようとしやがる。

 まさか逃げるんじゃ……。


「逃げはしないよ。この部屋を私の力で崩壊させる。ここは世界から少し外れた位置にあるから……運がよければすぐどこかに拾われるはずだよ」


 ちょっとー転移ってそんな偶発的要素でやるものかよ?

 こう……魔法とか奇跡でなんとかしろや。


「それじゃ……」

「待てよ神様。お前この後どうすんだよ。世界なんてもう再起不能なんだから付いてくるくらいのサービスはいいんじゃねーの?」


 冗談半分期待半分で声をかけてみるが、神様は首を横に振った。残念。


「オーケー。今度はしっかり仕事しろよ。サボってたら喝くれてやるよ」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 あらら……あっさりと扉を開いて出て行っちまった。

 つーか殆ど表情動かなかったな。実はロボット……は無いか。


 しばらく待っていると、ゴゴゴという音と共に白い部屋のあちこちに亀裂が走る。

 壁が剥がれ落ち、次いで床が抜け落ちていく。

 待つのも面倒なのでオレは壁が剥がれ落ちて出来た大穴に身を躍らせる。

 ……何も無い。上も下も右も左も。星のない宇宙空間のような感じだろうか。いや、行ったこと無いけどさ。しかし、案外と快適だ。

 とりあえず待ってみるかな。すぐに拾われるとは言ってたけど……あの残念な神様が言うことだ。信じるのは程々にしておくとしよう。

 オレはしばしの休息を取るため、意外と居心地の良いこの空間で居眠りすることにした。

神様 view


 扉を閉めて深呼吸して集中する。そして、予め仕掛けてあった自室の強制崩壊魔法を発動させた。


「……これで、よし」


 崩壊が始まるのは大分後だ。この程度の魔法を動かす力すら全力で挑まないとかなわない事実に不満が残るが、これ以後やるべき事など残っていないから何の問題はない。

 せめて転移の成功までサポートしたかったが――自身の世界を終わらせられないほどのこの老体では到底不可能。


「せめて後500年若ければ……。いや、そんなことを言っても仕様がないか」


 既に崩壊を始めていた白い廊下はかなり短くなっている。

 少し歩けば端へ着く。眼下には未だに燃え盛り続ける灼熱の世界『煉獄』とそれに体のほとんどを喰われた私の世界が見える。

 決心して虚空に足を踏み出そうとするが、直前に扉へと振り返ってしまう。


「ふふ……私は、こんな未練がましい奴だったかな?」


 そう、君だけが心残りだ。もしやり直せるのなら……今度こそ君を、私の手で――――

 たった一つの未練を残して。私は『煉獄』へと墜ちていった。

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