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プロローグ:煉獄召喚 世界の破滅

 目の前の全てが燃える、焼ける、灼ける。

 人も、家も、地面も、空気も、何もかもが燃える。

 先程までここは都市だった。この国で一番と言い切れるほどの大都市。最先端の防衛機構を備え、最大数の軍隊と『勇者』が守る都市。


「なのに、このザマだ……どう言い訳するのさ、勇者様?」

「っく!」


 オレの目の前にいる男は歯噛みしながらこっちを睨んでくる。

 でも、ただそれだけ。初撃で足を一本、追撃で両腕を炭化させたから立ち上がれるはずもない。

 案の定、勇者は灼熱の地面に這い蹲りながら叫ぶ。

 普通、そこまでヤラれたらショック死するか気絶しそうなものだけどね。


「よくも……よくも皆をっ!」

「悲しいけど、これ戦争なのよね……なーんて」

「貴様――ぐっうぅ……!!」


 少しからかってみると面白いくらい激昂する。でも空気すらかなりの熱量なのに本当によく吼えるわ。

 勇者の正体は結局わからなかったけど……案外サイボーグだったりしてね。


「ごめんごめん。でも本当のことでしょ? 戦争だし殺すのは当然。一般市民とか街もまとめてなのは……なんて言ってたかな、確かゴミ掃除がどうのって――」

「ッ! ライトニングブリッツ!」

「おっと」


 オレは一応避けようとしたが、流石に光の速さで迫る雷撃は避けれないよ。直撃した。

 かなり痛いし手足が痺れる。心臓も――数秒止まったけど問題無いみたいだ。


「ぅ、あー……この程度?」

「バケモノめ……」


 バケモノ扱いか。一応人間だし憤慨する場面かな?


「やっべ。今の一言のほうがさっきの電撃より痛かったかもしれん」

「はぁ……はぁ……」


 勇者様は息が上がってらっしゃる様子。そんなにやってると喉が先に死ぬぞー。


「はぁ……何故だ!?」

「え?」


 まだ元気なのか……驚いた。


「何故、帝国に与する! 戦争は終わるはずだった! 帝国は無茶な侵略を止め、世界は仮初といえど平和を手に入れるはずだった」

「平和ねぇ……」


 背中がむずむずしてきた。なにこれ、説得したいの?


「貴様さえ……貴様さえ現れなければ!」

「あのさ……ぶっちゃけていい?」

「何を――」


 いいよね、言っちゃって。クライマックスだし。こう、悪役が真相をポツリポツリと語ってナ、ナンダッテーみたいな展開。


「そんなん関係無いんだわ。帝国とか平和とかさ」

「なっ……」

「帝国がさ、一番効率よかったんだわ」


 あ、勇者の頭の上に?マークが一杯浮いてる。そりゃそうか。


「オレの目的ってのはさ、世界を滅ぼすことだよ」

「………………」


 な、なんだってー! って言われたかったなぁ……残念。


「その手段として帝国の尖兵としてへーこら働いてたワケですよ。いや、これで終りだと思うと胸がすくよ」

「どういう――」

「――オレの能力は『異世界召喚』。読んで字の如く、異なる世界を召喚することが出来る」


 オレは大袈裟な動作で腕を広げながら辺りを見回す。目に入るのは見慣れた灼熱地獄。


「ただまぁこの能力。ご存知の通り、範囲は広くて十数km……頑張れば数十kmいける程度なんだよ。普通なら十分だが、世界を――ってか人類を滅ぼすにはちょいと足りない。足りなさすぎる」


 あれ、勇者様の反応が無い……あ、でも目が動いてるし生きてはいるか。オッケー頑張れ勇者様!


「そ・こ・で! とりあえずある程度この『煉獄』――あぁ、この異世界のことね。を馴染ませておいて放置しておくってわけですよ。後は――」


 言葉を切ってパチンと指を鳴らす。

 予定では拳大の炎がボッと燃え上がるはずだったけど、タイミング良くどこか遠くで爆音が轟きキノコ雲が上がる。

 やべー。今のオレ、すっごい悪役みたいに見えてない?

 カメラがこの熱に耐えれれば良い絵が取れたのになー。


「――同時に『召喚』してやるっと。召喚する前の弊害といえば多少気温が上がる程度だしね、まず一番広大な土地を持つ帝国を終わらせる。後は帝国の侵略に合わせて俺も他国に移動。侵略と異世界の設置をするっていう地味ーなことやってたわけだ。これが帝国についた理由かな。……何か質問ある?」


 オレがさらっと説明してやると、勇者は口をパクパクさせるだけで声が出ない。

 終りかなーと勝手に思っていると、ぼそぼそと何かつぶやく。


「……ぜ……を……す?」


 聞こえません。もっと大きな声でよろしくお願いします。


「なぜ……せか……を……ぼす?」


 埒があかん。近づいてやるかな。

 オレはまだ若干痺れが残る足を動かして勇者に近づく。大体5mくらいの位置でちゃんと聞き取れた。


「何故……世界を……滅ぼす?」


 あー、そこ気になりますか。そういや言ってなかったね。それはな……


「全ては神の御心のままに……ってヤツかな」

「そうか…………おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 って嘘!? ちょっ……足動くはず無いっしょ。勇者補正か!? チートか!?


「エクスカリバー!」


 あ、エクスカリバーって実物の剣じゃなくて魔法なんですね。え、もしかしてやばい?

 かなり接近してたのが災いして勇者の手に生まれた光の剣――エクスカリバーが急速に胸へと迫る。

 お、おー? 死ぬんじゃねコレ。なんたって伝説の聖剣エクスカリバーですしね。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


 オレの体をかなりの勢いで剣が貫通する。骨も内蔵も見事に真っ二つ。いてぇ。


「貴様は……生まれてくるべきでは……無かった」

「ぐは……ま゛……ごぷっ」


 ちょっと待ってくれ勇者様。なんでまた剣に力込めるの? 斬るの? オーバーキルなの!?


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」


 ちょっと待ってえええええええぇぇぇぇぇ!!!!


 勇者の剣は心臓の辺りからまっすぐに急降下。

 まるで豆腐を斬るかのように滑らかにオレの体を斬り裂きやがった……ちくしょうめ。


「やったよ……セリーヌ……ヴァイン……」


 誰よそれ。クソ、油断した。最後にやられるラスボスの気持ちがよく分かった。

 満足そうな顔しやがって……その綺麗な顔を――絶望に染めてやるよ。


 体内に『逆行世界』を召喚! 瞬時に傷を修復して体勢を立て直す。


「な……!?」


 痛い。とんでもなく痛い。傷は治ったはずなのにまだ斬られてる感じが残ってる。

 オレはもう足に力を篭めることのできない勇者の襟首を掴んで持ち上げる。

 その顔には火傷と幾つかの傷があるが、元々の美形が損なわれることは無い。

 だが、表情は完全に絶望しきっている。光の剣は既に消えているし、本当に奥の手だったのだろう。

 あーあ。良い気味だよ。自然と顔がにやけてくる。


「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「ぁ……」

「勇者様程度で、このオレを殺せると思ったの? バカなの? 死ぬの!?」


 本当に悪役の気持ちが分かる。今のオレなら自然に高笑いが出来る。


「まぁ――死ぬのはお前だけじゃないからさ」


 皆一緒なら怖くないってね。


「待……て……」

「じゃあな。来世は学生でもやって暮らせよ。残念な勇者様」

「あ、あ、あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 召喚。世界を『煉獄』が覆い尽くす。その僅か数分後――世界は滅びた。

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