誰でもなれるものですが
冒険者。
こう聞くと、何かロマンあふれる職業に聞こえるが、実質何でも屋である。
便宜上職種として、戦士だとか斥候だとか魔術師だとか書かれているが、
実はこれ、登録者が得意とするものによる分類に過ぎない。
戦士ならば武器戦闘が得意、中でも主に剣を使えば剣士と呼ばれる。
斧なら斧使い、大剣なら大剣使い、槍なら槍使い、大鎌なら大鎌使い。
変わったものだと鞭とか投げ縄とかもある。
斥候だと大半は短剣、あるいは小剣、副武器に弓や投擲武器使用が多い。
中には大型武器を使う者もいるが、かさばるので少数派。
魔術師はその絶対数が少ない。前提知識が半端なく必要になるからだ。
魔術が使えるなら魔術師ではあるのだが《付き従う灯り》が使えます、
程度では普通名乗らない。名乗る者は最低限、攻撃魔術は複数覚えている。
貴族出身の嫡子以外が、身を立てるために冒険者となる場合に多い。
治癒術師は魔術師に比べれば多い。大半は還俗した神官や伝道師なのだが、
稀に「呪曲」と呼ばれる、音楽を使った回復を行える吟遊詩人も含まれる。
職種の中には、通常なら戦闘に関わらなさそうものも存在する。
例えば獣使い。例えば踊り子。例えば人形使い。つまりは大道芸人である。
町と町、国と国の移動が楽に行えるため、冒険者登録を行っている。
商人も商業圏間の移動が必須だが、彼らは互助組織として商工会がある。
国際商業免状があれば、相互許可がある国家間の移動も可能なのである。
中には冒険者組合にも商工会にも所属する変わり者もいるが。
冒険者になるには極端な話、登録時に「犯罪歴さえなければいい」。
性別も年齢も問われない。さすがに正式登録できるのは九歳からとなる。
八歳以下は見習い扱い、これは孤児の自立救済の意味もある。
孤児院の子供だと五歳ぐらいから登録し、町の雑用をこなしていたりする。
現役を退いた老人で、清掃やら雑用やらで日銭を稼いでいる者もいる。
そんな者達は職種に「雑役」と書かれている。
◆
現在、冒険者組合にいるこの人物。
先程より、冒険者の新規登録で書類記述中、職種の欄で頭を悩ませている。
名前はドン。性別は男。年齢は十六。職種は戦士…と書くつもりなのだが。
職種の横に書く得意武器でつまずいている。
ドンは元々農家のせがれである。三男。上にも下にも兄弟姉妹がいる。
農家は長女夫妻が継ぎ、長男次男次女三女は近くに婿入り嫁入りしたが、
自分は常々、農家で収まる器ではない!と思い込んでいた。根拠はない。
ああ、多少腕力はあるかもしれない。狐を追い払った事はある。
この国では、一般人も基礎的な読み書き計算は教わることになっている。
ある孤児院出身の一人の少年が、齢九歳で一代騎士に、十歳前に準男爵に、
十歳で男爵にまで成り上がる、という冗談みたいな事を成し遂げてしまい、
それ以降国家方針として、各領主邸で五歳より教育がされるようになった。
庶民にも宝石の原石の如き才能の持ち主がまだいる事を期待されて。
ドンもそれに伴い、当時十四歳だったが多少基礎的な学力を身につけ、
自分の名やものの名称程度であれば読み書きできる。読解力は怪しい。
武器と言われても、彼は剣も槍もまだ使ったことはない。
きこりなら斧、猟師なら弓と短剣、鉈あたりは使うのだが、農家である。
扱った刃物といえば…手鎌ぐらいだろうか。鋤は槍に近いかもしれない。
妄想の上では、ドンは伝説の剣を振り回し魔獣を仕留めているのだが…
受付近くの机で登録書類を前にさんざん唸り悩み続けていたドンだが、
意を決して受付嬢の前に行く。
「すみません、得意なものはなんですか?」
聞いたドンに対し、問いかけの意味がわからない受付嬢。
「え?わたしのですか?
ご質問はよく分かりませんが…強いて言えば事務作業でしょう…か?」
答えの意味が分からないドン。口下手で意思の疎通ができてない。
ドン自身が得意なものーつまり武器ーが何なのか聞きたかったのだが、
そもそも本日初対面の受付嬢にそんな事が分かろうはずもない。
「ええと、ここに得意武器って書くところがあるんですけど、
オレ何を書いたらいいのかが分からないんですが」
重ねて問うたドンに、ようやく言葉足らずなのかと気づいた受付嬢、
「そうですね…今までどんな武器を使われましたか?
得意とまでではなくても、経験があるなら書かれてよいのでは」
「いや…オレ農具以外は使ったことないので、どう書けばいいか」
受付嬢は少し考え、こう勧めてみた。
「では、訓練場に練習用武器があるので試してみませんか?
それで得意な武器が分かるかもしれませんよ」
◆
受付嬢に案内されて、ドンは組合の裏にある訓練場までやってくる。
そこでは、十名前後の者達が様々な得物で戦闘訓練を行っていた。
受付嬢は、奥で腕組みをしつつ訓練の様子を見ていた男に声をかける。
しばし会話したのち、男が受付嬢と共にドンの元へやってきた。
「武器を使ってみたいんだって?どんなもんがいいかね」
どうやら指導員らしいその男に、ドンは答える。
「オレ、剣がいいんですが」
「剣か。こっちに来てくれ」
入り口付近では見えなかったが、向かった先の壁には大きさの異なる剣が
二十数本は掛かっていた。訓練用だからか刃は潰されている。
「これを」
ドンか指さす剣は、掛けられた中で最大のものである。かっこいいから。
刃渡りだけで割と背は高いドンの身長に匹敵するだろう。
苦笑いしつつ、指導員は剣を外してドンに渡す。
「うわっ!?」
剣の柄を渡されたドンだが、持った直後からその重たさにふら付いた。
かろうじて落とさなかったものの、こんなもの到底振り回せない。
「すっ、すいませんっ、もっと軽いものでっ」
よたよたとしながら、ドンは指導員に剣を返す。使うどころじゃない。
指導員は受け取りながら、
「まあ、はじめて持ったら重量に驚くわな。意外と重たいだろ。
慣れないうちは片手でも姿勢が安定するやつの方がいいぞ」
「うう…そうします…」
最初の洗礼を受けるドン。
次々試してみたが、姿勢が安定したのは軽い方から三番目の剣であった。
他の武器も試したが、似たり寄ったりで上手くは扱えそうになかった。
農具のようにはいかないのだ。
◆
結局ドンは登録書類の得意武器には使えそうな「小剣」と書いたのだが、
後日晴れて冒険者となっても、まだ剣を使えていない。持ってない。
下積みの雑用や採集依頼、力仕事では武器を振るう機会などなかった。
下積み期間を終えても、武器屋で見た剣の価格に呻き声しか出なかった。
ひと月飲まず食わずで、中古品ならどうにか買える価格。
最低限の防具まで揃えるならば、まだまだドンの活躍は遠そうである。
初期費用が掛かるものって結構ありますから。彼は見栄を張らず棍棒でも使えばいいと思う。




