表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/27

7. 陰湿な嫌がらせと、優しさの力



ある日の朝、育成院の玄関を開けると、ゴミが置かれていた。


「…またか」


これで1週間連続だ。

生ゴミ、空き缶、破れた布。

わざわざ汚いものを選んで、玄関前に積んでいる。


「ぱぱ、くさい…」


アリアが鼻を押さえた。


「ごめんな、すぐ片付けるから」


俺は黙々とゴミを片付ける。

これは、隣の家に住むバルドという男の仕業だ。

最初は、庭に石が投げ込まれた。

次は、窓に卵が投げつけられた。

その次は、夜中に玄関を蹴る音。

そして今は、毎朝のゴミ置き。

でも、それだけじゃない。





午前中、洗濯物を干していると、隣の家の窓からバルドが顔を出した。


「おい、男のくせに洗濯なんてやってんのか。気持ち悪ぃな」


俺は無視する。


「なぁ、その子。本当にお前の子か?どうせ、金目当てで預かってんだろ?」


「…」


「そのうち飽きて、捨てるんじゃねぇのか?」


アリアが、洗濯物の陰から不安そうに俺を見ている。


「ぱぱ…」


「大丈夫だよ、アリア。あのおじさんは、嘘を言ってるだけ」


「へっ、いい子ぶりやがって」


バルドが嘲笑う。


「そんな子供、どうせすぐダメになる。お前みたいな半端者に、まともな育児ができるわけねぇ」


俺は、グッと拳を握った。

ここで怒ったら、アリアが怖がる。

教育的にもよくない。


「行こう、アリア」


「うん…」


午後、公園に行こうとすると、道にガラス片が散乱していた。

育成院の前だけ。


「…っ」


明らかに、わざとだ。


「ぱぱ、これなに?」


「危ないから、触っちゃダメだよ」


俺は、アリアを抱き上げて、ガラス片を避けて歩いた。後ろで、バルドの笑い声が聞こえた。





その夜、アリアがなかなか寝付けなかった。


「ぱぱ…」


「どうした?」


「アリア、じゃまなの…?」


「え?」


「おじさん、いってた。アリアがいると、ぱぱ、こまるって…」


「…っ」


俺は、アリアを抱きしめた。


「違うよ。アリアは、俺の大切な家族だ」


「ほんとう…?」


「本当だよ。あのおじさんが、間違ってるんだ」


「…」


アリアは、不安そうに俺の服を握った。


「ぱぱ、すき…」


「俺も、アリアが大好きだよ」


でも、心の中では、怒りが燃えていた。


「…このままじゃ、アリアの心が壊れる」



翌日の昼。

公園から帰ると、育成院の壁に、泥が投げつけられていた。

そして、赤いペンキで文字が書かれていた。


『詐欺師の家』


『子供がかわいそう』


『出て行け』


「…ッ」


俺は、歯を食いしばった。


「ぱぱ…これ…」


アリアが、涙目で見ている。


「大丈夫、すぐ消すから」


「でも…」


「大丈夫だよ」


俺は、笑顔を作った。

でも、心の中では、限界が近かった。





その夜、アリアを寝かしつけた後、俺は一人で壁を洗った。ペンキは、なかなか落ちない。


「…くそ」


何度も、何度も、擦る。


「俺は…俺は間違ってないはずだ」


アリアを育てること。

それは、間違ってない。

でも、こんな嫌がらせを受けて、アリアを傷つけて…


「…無力だ」


そう思った、その時。

窓から、小さな声が聞こえた。


「ぱぱ…」


振り向くと、アリアが窓から顔を出していた。


「アリア!?寝たんじゃ…」


「ねむれなかった…ぱぱ、ひとりで、がんばってるから」


「…」


「アリアも、てつだう」


「いや、大丈夫だよ。アリアは—」


「アリア、ぱぱと、いっしょがいい」


「…っ」


俺は、涙が出そうになった。


「…ありがとう、アリア」


「うん!」


アリアが、小さな手で布を持って、一緒に壁を洗ってくれた。


「ぱぱ?アリアぜんぜん、じゃまじゃないよね?」


「当たり前だ」


「よかった…」


アリアが、嬉しそうに笑った。

その瞬間、俺は決意した。


「…アリア、明日、おじさんのところに行こう」


「え?」


「話をしないと、何も変わらない」


翌日の昼。

俺とアリアは、バルドの家の前に立っていた。

ドアをノックする。


「…誰だ」


低い声。


「イクメンです。少し、お話ししたいんですが」


「…話すことなんてねぇよ。帰れ」


「お願いします」


「うるせぇ!帰れって!」


その時、アリアが一歩前に出た。


「おじさん」


「…あぁ?」


ドアが少し開いた。

バルドが、怪訝そうな顔で覗いている。


「アリアね、おじさんに、きいてみたいことがあるの」


「…何だよ」


「おじさん、さみしいの?」


「…はぁ?」


バルドが、一瞬固まった。


「いつも、まどから、みてるよね」


「…」


「おそとに、でないの?」


「…うるせぇな。子供が偉そうに」


「アリアね、まえは、すっごく、さみしかったの」


アリアが静かに言った。


「おとうさんも、おかあさんも、いなくなっちゃって」


「…」


「だれも、はなしかけてくれなくて、ごはんもなくて、さむくて、さみしかった」


アリアの目が、少し潤んでいる。


「でも、ぱぱが、たすけてくれたの」


「…」


「ぱぱはね、やさしいの。ごはんつくってくれて、あそんでくれて、だきしめてくれる。だから、アリアね、もう、さみしくないの」


アリアが、バルドを見上げる。


「おじさんも、さみしいんだよね?」


「…っ」


バルドの顔が、歪んだ。


「だから、いじわるするの?」


「…ち、違う…俺は…」


「アリアね、わかるよ。さみしいと、こころが、いたくなるの」


「…」


「だから、だれかに、あたりたくなるの」


アリアが、小さな手を差し出した。


「いっしょに、あそぼ?」


「…え?」


「ぱぱと、アリアと、おじさんで」


「…なんで、俺なんかと」


「だって、おじさん、さみしいんでしょ?」


「…っ」


バルドの目から、涙がこぼれた。


「…う、うう…」


「おじさん…?」


「…す、すまなかった…」


バルドが、ドアを開けて、膝をついた。


「俺は…ずっと、独りで…誰も、話してくれなくて…」


「…」


「お前たちを見て、羨ましくて、妬ましくて、嫌がらせをした…!こんな、優しい子に俺はなんてことを」


バルドが、顔を覆った。


「…俺は、最低だ…子供相手に、何やってんだ…!」

  

アリアは、バルドに近づいて、小さな手を乗せた。


「だいじょうぶだよ」


「…?」


「おじさん、いま、ないてるもん」


「…っ」


「ないたら、こころ、すっきりするって、ぱぱがいってた。だから、おじさんも、かわれるよ」


バルドは、声を上げて泣いた。

俺は、アリアの頭を撫でた。


「…アリア、ありがとう」

「えへへ」


アリアが、満面の笑顔を見せた。





その日の夕方、バルドは俺たちと一緒に、壁のペンキを落としてくれた。


「…本当に、すまなかった」


「もういいですよ」


「いや、許されることじゃない」


バルドが、真剣な顔で言った。


「だから、これから、償う」


「…?」


「近所の奴らに、全部話す。俺がやったこと、全部」


「そこまでしなくても」


「いや、する。陰でお前の悪口も言ってたんだ。このままじゃお前の評判が悪いままだ」


バルドが、俺を見た。


「お前は、いい育児師だ。あの子を見れば、分かる」


「…ありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとう」


バルドが、アリアを見た。


「お前のおかげで、俺は変われた」


「えへへ、どういたしまして!」


アリアが、笑顔で答えた。


-----


【称号獲得!】


称号:**「心を繋ぐ者」**

取得条件:子供の優しさで、他人の心を変えた


保有称号数:6個 → 7個


-----


【経験値+12獲得】

【育児経験値:197/200】



数日後、バルドは近所を回って、自分の行いを謝罪した。そして、俺とアリアのことを、皆に話してくれた。


「あの育児師は本物だ。俺が保証する」


おかげで、近所の人々の俺への信頼は、さらに深まった。


【経験値+3獲得】

【育児経験値:200/200】


-----


【レベルアップ!】

【育児師 Lv.2 → Lv.3】


-----


その夜、アリアを寝かしつけた後、俺はステータスを確認した。


「レベル3か…」


ふと、気になった。


「そういえば、自分のステータスって、見たことなかったな」


俺は、ステータス画面を開いた。


-----


【イクノ・メン 】


レベル:3

職業:育児師


**基礎ステータス**


- 体力:5

- 筋力:8

- 器用さ:12

- 知力:15

- 精神力:18

- 魅力:10


**未振り分けステータスポイント:200**


-----


「…200?」


俺は目を疑った。


「こんなに、ポイントが溜まってたのか…」


そして、基礎ステータスを見て、驚く。


「全部…めちゃくちゃ低いじゃないか」


体力5、筋力8。

これじゃあ、一般人どころか、子供並みだ。


「転生した時の体が、相当ひ弱だったのか…?」


いや、そもそも育児師は、戦闘職じゃない。

ステータスが低くても、不思議じゃない。

むしろ、孤児院育ちで栄養状態も悪かったんだろう。


「でも、200ポイントもあれば…」


俺は、試しに振り分けてみることにした。


「まず、体力は絶対に必要だ。アリアを抱っこするし、長時間の育児は体力勝負」


体力に50ポイント。


「筋力も、少しは欲しい。重いものを持つこともある」


筋力に30ポイント。


「器用さは、料理や育児で使う。これは重要だな」


器用さに40ポイント。


「知力は、知育に必要だ。アリアに色々教えるには」


知力に40ポイント。


「精神力は…育児はメンタルも大事だ」


精神力に20ポイント。


「魅力は…子供に好かれるために、少しは」


魅力に20ポイント。


-----


【ステータス振り分け完了】


- 体力:5 → 55

- 筋力:8 → 38

- 器用さ:12 → 52

- 知力:15 → 55

- 精神力:18 → 38

- 魅力:10 → 30


-----


「…おお」


瞬間、体が軽くなった気がした。

いや、気がしただけじゃない。

明らかに、体が変わった。


「これが、ステータスアップか…」


立ち上がると、以前より体が動きやすい。

試しに、アリアのベッドを持ち上げてみる。


「…軽い!」


以前は両手で必死に持ち上げていたのに、今は片手で楽々だ。

筋力が8から38。

約5倍になったんだから、当然か。


「すごいな、これ…」


少し歩いてみる。

体が軽い。疲れを感じない。

体力が5から55。

11倍だ。


「これなら、もっと長時間アリアと遊べる」


鏡を見ると、顔色も良くなっている気がする。


「魅力が20上がったからか?こんなシステムがあるなんて…知らなかった」


つまり、育児師としてレベルが上がれば、自分自身も強くなれる。


「育児だけじゃなく、俺自身も成長できるのか…」


これなら、もっと重い荷物も持てる。

もっと、アリアを守れる。


「まだまだ、知らないことがたくさんあるな」


でも、それが楽しい。

俺は、ステータス画面を閉じた。


「さて、明日も頑張るか」


窓の外を見た。

星が、綺麗に輝いていた。

新しい力を手に入れた今、俺はもっと強くなれる。

アリアを、もっと幸せにできる。


「待ってろよ、ペルカ」


2ヶ月後の対決。

その時、俺はもっと強くなっている。

そう、確信した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ