5.スキルアップ
午後、アリアが起きると、魔力の基礎訓練を始めた。
「アリア、今日は特別なことを教えるぞ」
「とくべつ?」
「うん。魔法の練習だ」
「まほう!」
アリアの目が輝く。
この世界では、魔法は憧れの対象だ。
俺も魔法の仕組みはよく分かってないが、最低限の知識は転生した時点で備わっていた。
「魔法を使う前に、大事なことがあるんだ」
「なに?」
「集中すること。そして、体の中の力を感じること」
俺はアリアを座らせて、自分も向かい合って座る。
「目を閉じて、ゆっくり息を吸って…」
「すー…」
「そして、ゆっくり吐いて…」
「はー…」
呼吸法。
これは魔法の基本でもあり、集中力を高める方法でもある。前世でも、子ども落ち着かない時に、一緒に深呼吸をしていたっけな。
「いい感じだ。もう一回」
何度か繰り返すうちに、アリアの呼吸が安定してくる。
「次は、目を閉じたまま、体の中を感じてみて」
「からだのなか?」
「うん。何か温かいものが、あるかな?」
アリアは真剣な顔で、じっと集中している。
「…ある!」
「本当か?どこにある?」
「ここ!」
アリアは自分の胸のあたりを指差した。
「それが魔力だよ。アリアの中にある、大事な力」
「まりょく…」
「そう。これから、少しずつその力を大きくしていこうね」
「うん!」
まだ2歳。本格的な魔法は使えない。
でも、魔力の感覚を掴ませることはできる。
これが、将来の才能開花に繋がると信じて。
【経験値+5獲得】
◇
夕方、雨が止んだので、少しだけ外に出た。
「ぱぱ、おそと!」
「ああ、でも水たまりがあるから、気をつけてな」
アリアは俺の手を握りながら、嬉しそうに歩く。
雨上がりの空気は、清々しい。
「見て、虹!」
アリアが空を指差す。
確かに、薄く虹がかかっていた。
ふと死ぬ前にみた虹が頭によぎった。
あの時見た虹も今の虹も綺麗なのは変わらなかった。
生きる世界が変わっても、変わらない美しさはあるんだなと改めて実感した。
「きれいだな」
「きれい!」
こういう何気ない経験も、子供の感性を育てる。
「アリア、あそこに花が咲いてる」
「あー!かわいい!」
「綺麗だね。何色か分かるかい?」
「あか!」
「すごいな!正解。じゃあ、あっちの花は?」
「きいろ!」
色の認識も、遊びながら学べる。
2人で家に帰るまで、それをやりながらすごした。
散歩から帰ると、夕食の準備に取りかかる。
アリアは目の届く範囲で遊んでもらっていた。
お気に入りの絵本を眺めている。
なんて微笑ましいのだろうか。
「さてと、やりますか」
【必要食】で出現した新鮮な野菜を使って、栄養満点のスープを作る。スピーディーに、だけど正確に。
俺がアリアに出来ることは限られている。
その出来ることを全うするのが俺の役目だ。
「いいにおい!」
「もうすぐできるからな」
夕食を食べ、お風呂に入り、寝かしつける。
忙しくて時間があっという間だった。
今日も終わろうとしている。
「ありあ、たのしかった…」
「そうか、良かった」
「ぱぱ、だいすき…」
「俺も、アリアが大好きだよ」
アリアは満足そうに目を閉じた。
【経験値+6獲得】
それからというもの、アリアと充実した日々が毎日のように続いた。
晴れた日には、市場に買い物に行き、公園で遊ぶ。
他の子供たちとも少しずつ交流させる。
社会性を育てるのも、大事な教育だ。
雨の日は、室内でじっくりと知育と運動。
毎日、朝から晩まで、アリアと向き合う。
食事、遊び、学び、睡眠。
その全てが、アリアの成長に繋がっている。
【育児経験値:98/100】
ある日の午後。
「ぱぱ、見て!」
アリアが両手を前に出す。
呼吸を整え、集中する。
「…できる、かな?」
「大丈夫、ゆっくりでいいから」
すると…ふわり、と。
アリアの手のひらに、小さな光の玉が浮かんだ。
「…!」
俺は息を呑んだ。
間違いない、あれは魔法だ。
魔法には適性があり、才能がある子でも5歳以降にようやく出せるのがこの世界での常識だ。不完全な形のエネルギーを球体にするのは簡単ではない。
だがアリアはたった2歳でそれをやってのけたのだ。
「すごいじゃないか、アリア!」
「えへへ…できた!」
アリアが嬉しそうに笑う。
その瞬間、視界にメッセージが表示された。
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【称号獲得!】
称号:**「成長の目撃者」**
取得条件:子供の初めての魔法発動を見届けた
保有称号数:1個 → 2個
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称号なんてどうでもいい。
今はアリアを抱きしめる。
「アリア、本当にすごいぞ」
「ぱぱも、すごい!」
アリアが抱きついてくる。
その温もりを感じながら、アリアの成長を見れた感動で涙が溢れて止まらなかった。
【経験値+5獲得】
【育児経験値:98/100】
◇
その日の夜、アリアを寝かしつけた後、ステータスを確認している時だった。
アリアが横で寝言を言った。
「ぱぱ…だいすき…」
温かいものが胸に広がった。
なんて、愛おしいのだろうか。
【経験値+2獲得】
【育児経験値:100/100】
ーーーその瞬間、視界が光に包まれた。
【レベルアップ!】
【育児師 Lv.1 → Lv.2】
【全スキル レベルアップ!】
- 育児眼Lv.1 → Lv.2
- 父の温もり(コンフォート・オーラ)Lv.1 → Lv.2
- 愛情促進Lv.1 → Lv.2
【新機能解放】
スキル追加効果付加システムが利用可能になりました。
【育児経験値上限増加】
次のレベルまで:0/200
「レベルアップした…!」
体の中に、力が満ちていく感覚。
スキルの効果が強化され、視界がクリアになる。
「これが、レベル2か…」
窓の外を見る。
夜空に、星が輝いていた。
「…まだ始まったばかりだ」
ペルカとの勝負まで、まだまだ時間がある。
「全力で、アリアを育てる。そして、この世界に証明してみせる…育児の、本当の価値を!」
俺の決意は、さらに固まった。
 




