36.リュクの夢
いつものように朝食の準備をしていると、リュクがリビングに降りてきた。
少し緊張した面持ちだ。
「おはよう、リュク」
「おはよう、イクメン」
リュクが席に座る。
アリアはまだ寝ているようだ。
「どうした?何か言いたそうな顔してるぞ」
俺が声をかけると、リュクは少し躊躇してから口を開いた。
「イクメン、相談がある」
「何だ?」
俺は手を止め、リュクに向き直った。
「俺…家庭騎士になりたい」
リュクの声は真剣だった。
「家庭騎士?」
俺は少し驚いた。
聞き慣れない職業名だ。
「昨日、本で見つけたんだ。家族や子供を守る騎士で、育児や家事もできる職業。剣を持つ育児師とも呼ばれてる」
リュクの瞳は真っ直ぐだった。
「俺、それになりたい。イクメンやアリア、それにここの子供たちを守りたい。でも、ただ強いだけじゃなくて、優しくて、子供たちと遊べて…そういう存在になりたいんだ」
リュクの言葉を聞いて、俺は胸が熱くなった。
この子は、本当に成長したな。
「変かな?」
リュクが少し不安そうに聞く。
「いや、全然変じゃない」
俺は微笑んだ。
「むしろ、素晴らしい目標だ。家庭騎士か…いい職業だな」
「本当?」
「ああ。お前なら、きっとなれる」
俺はリュクの肩に手を置いた。
「俺も全力で応援するぞ」
「ありがとう、イクメン」
リュクの顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、今日から家庭騎士になるための訓練を始めよう」
「今日から?」
「ああ。剣術だけじゃなく、育児や家事も学ぶ。それが家庭騎士だろ?」
俺が笑うと、リュクも嬉しそうに頷いた。
「うん!頑張る!」
その時、階段から小さな足音が聞こえた。
「ぱぱ、リュクおはよー!」
アリアが眠そうな顔で降りてくる。
「おはよう、アリア」
俺がアリアを抱き上げると、アリアは俺の肩に顔を埋めた。
「まだ、ねむい…」
「ははは、もう少ししたら目が覚めるさ」
リュクがその様子を見て、小さく笑っていた。
◇
午前中。
子供たちが育成院に集まってきた。
レオナルドも昨日に続いて、時間通りにやってきた。
「おはよう、イクメン」
「おはよう、レオナルド」
「今日もよろしくお願いします」
レオナルドが頭を下げる。
「ああ。今日もよろしくな」
子供たちはすぐにレオナルドに駆け寄った。
「おにいちゃん、おはよー!」
レオが元気に叫ぶ。
「おはよう、レオ」
レオナルドが笑顔で頭を撫でる。
マルコも真面目な顔で近づいてきた。
「レオナルド、今日は何して遊ぶ?」
「うーん、何がいいかな」
レオナルドが考えていると、ソフィアがおっとりとした足取りで近づいてきた。
「おはよう、レオナルドさん」
「おはよう、ソフィア」
ソフィアは少し頬を染めながら、チラリとリュクを見た。リュクはそれに気づいたようで、少し目を逸らした。
ソフィアは最近、リュクの絵ばかり描いている。
リュクもそれに気づいているようだ。
ソフィアが近づいてくると、リュクは少し目を逸らす。困ったような、戸惑ったような表情だ。
「…ごほん。リュク、今日から訓練だな」
俺が声をかけると、リュクは気を取り直したように頷いた。
「あ、うん!」
リュクが俺のもとへ向かってくる。
◇
庭に出ると、俺はリュクと向かい合って立っていた。
「家庭騎士になるには、剣術、育児、家事の全てが必要だ」
「うん」
「まず剣術は、レオナルドに協力してもらおう」
「レオナルドに?」
リュクが驚く。
「ああ。俺は剣術の専門家じゃない。レオナルドの方が教えるのが上手いはずだ」
俺が振り返ると、レオナルドが庭の入口に立っていた。
「呼んだか、イクメン?」
「ああ。リュクに剣術を教えてやってくれないか」
「剣術?いいぞ、俺なんかでよければ」
レオナルドが笑顔で近づいてくる。
「リュク君、一緒に頑張ろう」
「ありがとう、レオナルド」
リュクが頭を下げる。
「じゃあ、午前中は剣術訓練。午後は育児と家事を学ぶ」
俺がそう言うと、リュクは力強く頷いた。
「わかった!」
こうして、リュクの新たな訓練が始まった。
レオナルドがリュクに基礎を教えている。
「剣の持ち方、まずはそこからだ」
レオナルドが自分の剣を構える。
「手首の角度、足の位置、体重の乗せ方。全部が大事だ」
「わかった」
リュクが真剣な顔で剣を構える。
レオナルドが細かく指摘していく。
「もう少し足を開いて。そう、そのくらい」
「こうか?」
「うん、いい感じだ」
俺はその様子を少し離れた場所から見守っていた。
レオナルドは教えるのが上手いな。
さすがは英才教育を受けてきただけある。
リュクも真面目に聞いているし、いいコンビだ。
その時、アリアが俺の服を引っ張った。
「ぱぱ、リュクおにいちゃん、がんばってる!」
「ああ、頑張ってるな」
「わたしも、がんばる!」
アリアが拳を握りしめる。
「アリアは何を頑張るんだ?」
「まほう!」
「ははは、そうか。じゃあ、後で一緒に練習しような」
「うん!」
アリアが嬉しそうに笑った。
◇
昼食後。
子供たちが昼寝をしている間、俺はリュクを呼んだ。
「リュク、次は育児だ」
「育児?」
「ああ。子供たちが起きたら、お前が世話をしてみろ」
「俺が?」
「そうだ。家庭騎士は育児もできなきゃいけない。実践で学ぶのが一番だ」
俺が言うと、リュクは少し緊張した様子で頷いた。
「わかった。やってみる」
しばらくして、子供たちが目を覚まし始めた。
まず起きたのはオリバーだった。
「せんせー、おなかすいた…」
眠そうな顔で起き上がるオリバー。
「リュク、任せた」
俺が言うと、リュクは慌てて駆け寄った。
「オリバー、おやつ食べるか?」
「うん…」
オリバーが眠そうに頷く。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
リュクがキッチンへ向かい、おやつを準備する。
俺が事前に用意しておいたクッキーを皿に盛り、牛乳を注ぐ。
「はい、どうぞ」
リュクがオリバーにおやつを渡す。
「ありがとー」
オリバーが嬉しそうに食べ始めた。
次に起きたのはエマだった。
人見知りな3歳の女の子だ。
ぬいぐるみを抱えて、きょろきょろと周りを見ている。
「エマ、大丈夫か?」
リュクが優しく声をかける。
「…うん」
エマが小さく頷く。
「喉、乾いてない?」
「…うん」
「じゃあ、お水持ってくるね」
リュクがコップに水を注いで持ってくる。
「はい」
「…ありがとう」
エマが小さな声で礼を言い、水を飲んだ。
俺はその様子を見守りながら、微笑んでいた。
リュク、いい感じだな。
優しく接しているし、子供たちも安心している。
このまま続けていけば、きっといい家庭騎士になれる。
その時、ソフィアが目を覚ました。
「…あ」
ソフィアがリュクを見て、少し頬を染めた。
リュクは気づいたようで、少し戸惑った表情になった。
「ソフィア、起きたか」
リュクが優しく声をかける。
「…うん」
ソフィアが恥ずかしそうに俯く。
「喉、乾いてない?」
「…ちょっと」
「じゃあ、お水持ってくる」
リュクが再びコップを持ってくる。
「はい」
「ありがとう…リュク君」
ソフィアが上目遣いでリュクを見る。
リュクは少し目を逸らした。
リュクの表情が困ったように揺れている。
優しくしたいが、どう接していいかわからない。
そんな葛藤が、表情に現れていた。
俺はその様子をそっと見守ることにした。
リュクも大変だな。
でも、これも成長の一部だ。
自分で考えて、答えを見つけていくしかない。
◇
午後。
レオナルドが子供たちと遊んでいる間、俺はリュクに家事を教えていた。
「家庭騎士は家事もできなきゃいけない」
「家事か…」
「ああ。掃除、洗濯、料理。全部大事だ」
俺がそう言うと、リュクは真剣な顔で頷いた。
「まずは掃除からだ」
俺はリュクに箒とちり取りを渡した。
「リビングを掃除してみろ」
「わかった」
リュクが箒を持ち、床を掃き始める。
最初はぎこちなかったが、すぐに慣れてきた。
「いい感じだな」
「これくらいなら、できる」
リュクが少し自信を持った様子で答える。
「次は洗濯だ」
俺はリュクを洗濯場へ連れて行った。
「洗濯物を干す時は、シワを伸ばしてから干すんだ」
「シワを伸ばす…?」
「ああ。こうやって」
俺が実演すると、リュクは真剣な顔で見ていた。
「やってみろ」
「うん」
リュクが洗濯物を手に取り、シワを伸ばしてから干す。
「いい感じだ」
「意外と難しいな」
「慣れれば簡単だ。毎日やってれば、すぐに覚える」
俺が言うと、リュクは頷いた。
「次は料理だ」
「料理!?」
リュクが驚く。
「ああ。家庭騎士なら、料理もできなきゃいけない」
「でも、俺…」
「大丈夫だ。簡単なものから始めよう」
俺はリュクをキッチンへ連れて行った。
「今日は、サンドイッチを作ろう」
「サンドイッチ?」
「ああ。簡単だし、子供たちも好きだ」
俺がパンとハム、野菜を並べる。
「まず、パンにバターを塗る」
「こう?」
リュクがナイフを持ち、ぎこちなくバターを塗る。
「いい感じだ。次にハムと野菜を挟む」
「わかった」
リュクが真剣な顔でハムとレタスを挟む。
「最後に、斜めに切る」
「斜め?」
「ああ。こうやって」
俺が包丁を持ち、サンドイッチを斜めに切る。
「やってみろ」
「うん」
リュクが慎重に包丁を動かし、サンドイッチを切る。
「できた!」
リュクの顔が明るくなった。
「いい感じだな。これが家庭騎士の基礎だ」
「料理も、意外と楽しいな」
リュクが笑顔で言う。
「だろ?料理は楽しいぞ」
俺も笑顔で答えた。
◇
夕方。
子供たちのお迎えが始まり、レオナルドも帰る時間になった。
「今日もありがとう、イクメン」
レオナルドが頭を下げる。
「こちらこそ。リュクを教えてくれて、ありがとうな」
「いえ。リュク君は真面目だから、教えがいがあります」
レオナルドが笑顔で答える。
「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日」
レオナルドが育成院を出ていく。
リュクはその背中を見送りながら、何かを考えていた。今日一日のことを振り返っているんだろう。
剣術、育児、家事。
全部を学んだ。
リュクの表情は真剣だった。
拳を握りしめ、小さく頷いている。
決意を新たにしているんだな。
俺は微笑みながら、リュクを見守っていた。
◇
その夜。
夕食を終えて、俺は郵便受けを確認した。
すると、一通の手紙が入っていた。
王宮の紋章が押されている。
クリストファーからか。
俺は手紙を開いた。
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**イクノ・メン殿* *
お世話になっております。クリストファーです。
アルフレッドの様子をご報告します。
おかげさまで、アルは順調に成長しています。
最近は、よく笑うようになりました。
リリアナと私で協力して世話をしています。
アルの様子を見て、母上は涙を流して喜んでおられました。父上も、あなたに深く感謝しておられます。
私も、育児を学び続けています。
まだ不慣れですが、アルのためなら何でも頑張れます。
あなたに教わったことを、忘れません。
本当に、ありがとうございます。
またお会いできる日を楽しみにしております。
**クリストファー・フォン・リヒテンシュタイン**
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俺は手紙を読み終えて、微笑んだ。
クリストファー、頑張ってるな。
アル様も順調に成長しているようだ。
王妃様も喜んでいる。
何より、クリストファーが兄としての自覚を持っている。
それが一番嬉しい。
俺は手紙を大事に仕舞い、後日返事を書くことにした。
◇
翌日。
買い物のため、俺はリュクとアリアを連れて街へ出た。
街は賑わっていた。
商人たちが声を上げ、人々が行き交う。
俺たちは市場を歩いていた。
その時、ふと視界に入ったものがあった。
獣人の子供が、道端に座り込んでいた。
年は5、6歳くらいだろうか。
耳と尻尾が生えている。
服はボロボロで、顔には泥がついている。
その子供の前を、人々が避けるように通り過ぎていく。誰も声をかけない。誰も助けない。
俺は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「イクメン、どうした?」
リュクが声をかけてくる。
「…いや、何でもない」
俺は視線を逸らし、歩き続けた。
でも、心の中には引っかかるものがあった。
あの子、どうして一人なんだろう。
親は?家は?
そして、どうして誰も助けないんだ。
俺は考え込みながら、買い物を続けた。
ーー帰り道。
俺はまだあの獣人の子供のことを考えていた。
「イクメン、さっきから黙ってるけど、大丈夫?」
リュクが心配そうに聞く。
「ああ、大丈夫だ」
俺は微笑んだ。
でも、心の中では決意していた。
もし、また会ったら。
もし、助けを求められたら。
俺は、絶対に助ける。
それが、俺のやり方だ。
◇
アリアが寝た後、俺はリュクと二人でリビングにいた。
「リュク、今日の訓練、どうだった?」
「大変だったけど、楽しかった」
リュクが笑顔で答える。
「レオナルドの教え方もわかりやすかったし、料理も意外と楽しかった」
「そうか。それはよかった」
俺が微笑むと、リュクは少し考えてから口を開いた。
「イクメン、一つ聞いていい?」
「何だ?」
「ソフィアって…まだ俺のこと、好きなのかな」
リュクが恥ずかしそうに聞く。
「ああ、たぶんな」
俺は正直に答えた。
「だよな…」
リュクが頭を抱える。
「あれからずっと考えてたんだけど、今だにどうしたらいいかわからないんだ。ソフィアはいい子だけど、まだ6歳で、俺は10歳。どう接したらいいか…」
俺も少し考えた。
「リュク、お前はどう思ってるんだ?」
「ソフィアは可愛いし、優しいと思う。でも、まだ俺子供だし、恋愛とかよくわからない」
リュクが正直に答える。
「なら、今は普通に接していればいい」
俺が言うと、リュクは驚いた様子で聞き返した。
「普通に?」
「ああ。無理に意識する必要はない。優しく接して、困ってたら助けて、普通に友達として接すればいい」
「それだけでいいの?」
「ああ。いずれソフィアも大きくなる。その時に、自分で気持ちを整理するさ。今は、お前が変に意識しすぎない方がいい」
俺の言葉に、リュクは少しホッとした様子だった。
「そっか…じゃあ、今まで通りでいいんだな」
「ああ。それが一番だ」
「わかった。ありがとう、イクメン」
リュクが笑顔で答えた。
俺も微笑みながら、リュクの頭を撫でた。
「お前も大変だな」
「ははは、そうだな」
二人で笑い合った。
温かい夜。
穏やかな時間。
これからも、こんな日々が続いていってほしい。
俺はそう思いながら、お茶を飲み干した。
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【今回獲得した称号!】
称号:「未来の導き手」
取得条件: 子供の新たな道を全力で応援した
称号:「恋心の見守り人」
取得条件: 子供の初恋を優しく見守った
保有称号数: 42個 → 44個
(次回称号付加まで: あと6個)
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【育児経験値+32獲得】
【育児経験値: 409/500 → 441/500】




