35.新たな道標
時刻は朝の8時すぎ。
育成院の玄関前で、俺は腕を組んで立っていた。
今日はレオナルドが初めて通ってくる日だ。
「ぱぱ、レオナルドおにいちゃん、くる?」
アリアが俺の服を引っ張る。
「ああ、もうすぐ来るはずだ」
「たのしみ!」
アリアの目が輝いている。
リュクも玄関の脇に立ち、少し緊張した面持ちで外を見ていた。
「リュク、大丈夫か?」
「ああ。ちょっと、どんな感じか気になってさ」
リュクが小さく笑う。
あの対決の時とは違い、今のリュクにレオナルドへの敵意はない。むしろ、少し期待しているようにも見えた。
しばらくして、遠くから人影が見えた。
「あ!きた!」
アリアが指を差す。
レオナルドが一人で歩いてきた。
以前のような鋭い目つきではなく、穏やかな表情をしている。
「おはよう、イクノ・メン」
レオナルドが育成院の前で立ち止まり、頭を下げた。
「おはよう、レオナルド」
「おはよー!」
アリアが駆け寄る。
「おはよう、アリアちゃん」
レオナルドが優しく微笑む。
「リュク君も、おはよう」
「おはよう」
リュクが軽く手を挙げる。
レオナルドは少し緊張した様子で、育成院を見回した。
「今日から、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ。じゃあ、中に入ろう」
俺が育成院のドアを開けると、中からは既に子供たちの声が聞こえてきた。
◇
リビングに入ると、子供たちが一斉にレオナルドを見た。
「わあ、きた!」
レオが駆け寄ってくる。
「おにいちゃん、きょうもあそぶ?」
「ああ、もちろん」
レオナルドが優しく答える。
マルコも真面目な顔で近づいてきた。
「レオナルド、俺と一緒に積み木しよう」
「積み木?いいな、やろう」
レオナルドが笑顔で応える。
ソフィアはおっとりとした表情で絵を描いていたが、チラリとレオナルドを見て、小さく微笑んだ。
オリバーが駆け寄ってきた。
「おにいちゃん、おなかすいた?」
「今は大丈夫だよ、オリバー。ありがとう」
レオナルドが優しく頭を撫でる。
オリバーが嬉しそうに笑った。
リュクはその様子を少し離れた場所から見ていた。
レオナルドの優しい笑顔、子供たちに向ける温かい眼差し。
そのどれもが、以前とは全く違っていた。
人は、本当に変われるんだな。
リュクはそう思った。
レオナルドは子供たちと一緒に遊んでいた。
積み木を積み上げるマルコを手伝い、レオが倒してしまうと笑いながら「もう一回やろう」と言う。
ソフィアが描いた絵を褒め、オリバーが「おやつまだ?」と聞くと「もう少し待とうね」と優しく答える。
その姿を見ながら、リュクは考えていた。
子供と遊ぶ年上って、かっこいいな。
イクメンもそうだ。
いつも子供たちと一緒に笑い、遊び、優しく接している。その姿は、リュクにとって憧れだった。
そして今、レオナルドも同じようにしている。
強くて、優しくて、子供たちを守れる存在。
俺も、そうなりたい。
リュクは拳を握りしめた。
「リュク、どうした?」
イクメンが声をかけてくる。
「あ、いや。何でもない」
リュクは慌てて首を横に振った。
「そうか?…レオナルド、いい感じだな」
「うん。すごく優しくなってる」
「ああ。人は変われる。レオナルドがその証明だ」
イクメンが微笑む。
リュクは頷きながら、再びレオナルドを見た。
◇
昼食の時間。
テーブルを囲んで、みんなで食事をする。
レオナルドは子供たちと一緒に座り、楽しそうに会話をしていた。
「レオナルドおにいちゃん、つよいの?」
アリアが聞く。
「うーん、少しは強いかな」
「すごい!」
アリアの目が輝く。
「でも、強いだけじゃダメなんだ」
レオナルドが真剣な顔で言う。
「強さは、誰かを守るために使わなきゃいけない。ただ強いだけじゃ、意味がないんだよ」
「まもる…?」
「ああ。大切な人を守るために、強くなる。それが本当の強さなんだ」
レオナルドの言葉に、リュクは心を動かされた。
守るために、強くなる。
それは、リュク自身が目指していることだった。
イクメンを守る。
アリアを守る。
この育成院の子供たちを守る。
そのために、強くなりたい。
「リュク君も、そう思うだろ?」
レオナルドが視線を向けてくる。
「……ああ」
リュクは力強く頷いた。
「俺も、守りたいものがある」
「うん、知ってる。イクメンとアリアちゃんだろ?」
「ああ。そして、ここの子供たちも」
リュクの言葉に、レオナルドが微笑んだ。
「いい目標だな」
「レオナルドもそうなのか?」
「ああ。俺も、大切な人を守りたい。だから、訓練を続けてる」
レオナルドの瞳は真剣だった。
二人は視線を交わし、小さく頷き合った。
イクメンがそれを見て、温かく微笑んでいた。
◇
午後。
子供たちが昼寝をしている間、リュクは一人で外に出た。
育成院の庭で、いつものように剣の素振りをする。
一振り、二振り。
汗が滲む。
でも、止めない。
イクメンやアリアを守るために。
この育成院の子供たちを守るために。
俺は、もっと強くならなきゃいけない。
そう思いながら、リュクは剣を振り続けた。
「頑張ってるな」
声をかけられ、振り返るとレオナルドが立っていた。
「レオナルド」
「見学してもいいか?」
「ああ、別に構わない」
リュクは再び剣を構えた。
レオナルドは腕を組み、リュクの動きを見ている。
しばらくして、レオナルドが口を開いた。
「リュク君、剣の才能は正直言って平凡だ」
「…知ってる」
リュクは動きを止めずに答えた。
「でも、努力でカバーしてる。それはすごいことだ」
「そうか?」
「ああ。才能がある奴は、努力を怠る。でも、才能がない奴が努力すれば、才能がある奴を超えることもある」
レオナルドの言葉は真剣だった。
「俺も、才能だけに頼ってた時期があった。でも、それじゃダメだって気づいた。努力し続けることが、一番大事なんだ」
「……そうだな」
リュクは剣を止め、レオナルドを見た。
「俺、レオナルドみたいになりたい」
「え?」
「子供たちと遊んで、優しくて、でも強くて。そういう人になりたい」
リュクの言葉に、レオナルドは少し驚いた様子だった。
「リュク君…」
「イクメンもそうだ。いつも子供たちと笑って、優しくて、でも誰よりも強い。俺も、そうなりたいんだ」
リュクの瞳は真剣だった。
レオナルドは少し考え、微笑んだ。
「リュク君なら、なれるよ」
「本当か?」
「ああ。君はもう十分優しい。そして、努力も惜しまない。あとは、強くなるだけだ」
レオナルドが拳を握りしめる。
「俺も協力するよ。一緒に頑張ろう」
「ありがとう」
リュクが小さく笑った。
レオナルドも笑顔で頷く。
二人は、そこで拳を軽く合わせた。
◇
夕方。
子供たちのお迎えが始まり、レオナルドも帰る時間になった。
「今日は楽しかった。ありがとう、イクメン」
レオナルドが深く頭を下げる。
「こちらこそ。また明日も来るか?」
「ああ、もちろん。毎日来たい」
レオナルドが笑顔で答える。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日」
レオナルドが育成院を出ていく。
リュクはその背中を見送りながら、心の中で決意を固めていた。
自分もレオナルドやイクメンみたいになりたい。
子供たちと遊んで、優しくて、強い大人に。
でも、どうすればいいんだろう。
リュクは考え込んだ。
◇
夜。
夕食を終え、アリアが先に寝た後、リュクは一人でリビングに残っていた。
本棚から何冊か本を引っ張り出し、ページをめくっている。
職業について書かれた本だ。
戦士、魔法使い、騎士、盗賊…。
色々な職業が載っている。
でも、どれもしっくりこない。
俺がなりたいのは、ただ強いだけじゃない。
子供たちを守れて、優しくて、育児もできて…。
そんな職業、あるのか?
リュクがページをめくり続けていると、ふと目に留まる記述があった。
**「家庭騎士」**
リュクは目を見開いた。
家庭騎士?
何だ、それ。
リュクは食い入るように文章を読み始めた。
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**家庭騎士**
家族や子供を守ることに特化した騎士職。
戦闘能力だけでなく、育児や家事、子供との接し方なども学ぶ。
マイナーな職業であり、従事する者は少ない。
主な役割:
- 家族や子供の護衛
- 育児の補助
- 家事全般
- 子供の教育
求められる能力:
- 戦闘技術(剣術、魔法防御)
- 育児知識
- 優しさと忍耐力
- 冷静な判断力
家庭騎士は「剣を持つ育児師」とも呼ばれる。
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リュクは息を呑んだ。
これだ。
これが、俺の目指すべき道だ。
剣を持つ育児師。
強くて、優しくて、子供たちを守れる存在。
レオナルドのような強さと、イクメンの育児の優しさを両方兼ね備えた職業。
リュクの心臓が高鳴った。
「家庭騎士…」
その言葉を口にすると、不思議と胸が熱くなった。
俺は、これになる。
リュクは拳を握りしめた。
イクメンやアリアを守る。
この育成院の子供たちを守る。
そして、いつか俺も、誰かの家族を守れる存在になる。
そのために、俺は家庭騎士を目指す。
リュクは本を閉じ、深呼吸をした。
新たな目標が、はっきりと見えた。
明日イクメンに相談しよう。
リュクはそう決めると、本を本棚に戻し、自分の部屋へ向かった。
ーーーその夜。
俺は一人でリビングに残り、お茶を飲んでいた。
リュクが何やら本を読んでいたが、今は部屋に戻ったようだ。
レオナルドが来て、育成院はより賑やかになった。
リュクも、何か刺激を受けたみたいだな。
俺はそう思いながら、窓の外を見た。
月が綺麗だ。
穏やかで、温かい夜。
これからも、こんな日々が続いていくといいな。
俺は微笑みながら、お茶を飲み干した。
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【今回獲得した称号!】
称号:「憧憬の導き手」
取得条件: 子供に新たな目標を示した
保有称号数: 41個 → 42個
(次回称号付加まで: あと8個)
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【育児経験値+28獲得】
【育児経験値: 381/500 → 409/500】
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