34.変わる心、繋がる絆
午後4時。
昼寝から目覚めた子供たちが、おやつを食べ終え、リビングには笑い声が満ちていた。
レオが走り回り、エマはぬいぐるみを抱きしめ、ソフィアは黙々と絵を描いている。
リュクとアリアも輪の中に入り、子供たちと一緒に遊んでいた。
俺は少し離れた場所から、その光景を見守っていた。
穏やかで、温かい午後。
いつも通りの、何気ない幸せな時間。
――その時。
玄関のベルが鳴った。
「ん?」
迎えの時間にはまだ早い。
誰だろうと思いながら、俺は玄関へ向かい、ドアを開けた。
「……!」
そこに立っていたのは、ペルカとレオナルドだった。
ペルカは以前のような豪奢なドレスではなく、落ち着いた服装に身を包み、髪も控えめにまとめられている。
レオナルドも、凛々しい顔立ちはそのままだが、表情には柔らかさが宿っていた。
「お久しぶりです、イクノ・メンさん」
ペルカが深々と頭を下げる。
その姿に、かつての高圧的な雰囲気はなかった。
レオナルドも、静かに頭を下げる。
「お久しぶりです」
「どうしたんですか、お二人とも」
思わず声が漏れる。
まさか、彼らがここへ来るとは思ってもみなかった。
「いきなり来てすみません。今、お邪魔してもよろしいでしょうか」
ペルカが丁寧に尋ねる。
「ああ、もちろん。どうぞ」
俺は二人を育成院の中へ招き入れた。
リビングに入ると、子供たちの視線が一斉に集まる。
「……あ!」
アリアが目を見開き、リュクの表情が一瞬固まる。
レオナルドは二人を見て、深く頭を下げた。
「アリアちゃん、リュク君。お久しぶりです」
アリアが首を傾げる。
「だれ…?」
「覚えてないか?あの時の…」
リュクが言葉を濁す。
「俺はあの日、あなたたちに、ひどいことをした」
レオナルドの声は真剣だった。
「アリアちゃんに魔法を撃ち、リュク君も傷つけた。…本当に、すみませんでした」
震える声で、深く頭を下げる。
「許してほしいとは言いません。ただ、謝りたくて」
リュクが少し考え、口を開いた。
「もう気にしてないよ」
「え…?」
レオナルドが顔を上げる。
「あの時は驚いたけど、俺もアリアも無事だった。それに…お前も、辛かったんだろ」
リュクの言葉は優しかった。
アリアも頷く。
「うん!だいじょうぶ!」
レオナルドは拳を握りしめ、目を伏せた。
「ありがとうございます…」
ペルカがそっと肩に手を置いた。
「レオナルド、よかったわね」
「…はい」
そのやり取りを見ながら、俺は微笑んだ。
レオナルドは、本当に変わったのだ。
俺は二人をリビングの隅へ案内し、子供たちには少し離れた場所で遊んでもらった。
「イクノ・メンさん。今日は、お礼を言いに来ました」
ペルカの表情は真剣だった。
「お礼…ですか?」
「はい。あの日、あなたに敗れて…私は初めて気づいたんです」
「育児とは何か。何が本当に大切なのか。それは子供の笑顔。心に寄り添うこと。その意味をあなたから教わりました」
ペルカの瞳は揺れていた。
「私は結果ばかりを求めて、子供の心を見ていなかった。でも、あなたの育児を見て、変わることができました。本当に、ありがとうございます」
深く頭を下げるペルカに、俺は少し戸惑いながら言った。
「ペルカさん、顔を上げてください」
「…はい」
「俺は、自分のやり方でやってきただけです。変わったのは、あなた自身の力です」
「いえ。あなたがいなければ、私は今も間違ったままだったと思います」
「そうですか…でもよかったです。ペルカさんが変わったこと、俺も嬉しく思います」
ペルカが微笑む。
以前とは違う、柔らかな笑顔だった。
レオナルドも、俺を見つめていた。
「レオナルド、お前も変わったな」
「…はい」
「ペルカさんと一緒に、色々学び直してます。笑顔の大切さ、相手の気持ちを考えること…イクノ・メンさんの言葉、ずっと考えてました」
「そうか」
俺はレオナルドの頭を撫でた。
「いい顔してるぞ」
「…本当ですか?」
「ああ。以前より、ずっといい顔だ」
レオナルドが小さく笑った。
その笑顔を見て、俺は心から思った。
この子は、変わったんだ。
するとペルカが、静かに口を開いた。
「イクノ・メンさん。お願いがあります」
「何でしょう?」
「レオナルドに、ここで子供たちと過ごさせていただけませんか?」
「……え?」
「彼は今まで、ずっと訓練ばかりでした。子供らしく遊んだことも、笑ったことも、ほとんどありません。あなたの育成院で、子供たちと触れ合うことで…失われた時間を、少しでも取り戻してほしいのです」
ペルカが深く頭を下げる。
俺は少し考えた。
ペルカは変わった。
レオナルドも、変わろうとしている。
なら、俺にできることは――。
「わかった。来週から来ていいぞ、レオナルド」
「本当ですか!」
レオナルドの瞳が輝く。
「ただし、条件がある。子供たちと同じように遊ぶこと。楽しむこと。子供らしく笑うこと。いいな?」
「…はい!」
レオナルドが力強く頷いた。
ペルカの目に、涙が滲んでいた。
「イクノ・メンさん…本当に、ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は微笑んだ。
その後、レオナルドは子供たちの輪に加わった。
「ねえねえ、お兄ちゃん、遊ぼう!」
レオが駆け寄る。
「ああ、いいぞ。何して遊ぶ?」
レオナルドは優しく応える。
「おにごっこ!」
「よし、じゃあ俺が鬼だ」
笑顔でそう言うと、マルコが手を挙げた。
「俺も!」
真面目な性格のマルコは、年長組のリーダー格だ。
「ああ、一緒にやろう」
「やったー!」
子供たちはキャーキャーと逃げ回る。レオナルドは優しく追いかけ、マルコは真剣な顔で走り、リュクも笑顔で参加していた。
その笑顔は、以前とは違う。
心から楽しんでいる、温かい笑顔だった。
ペルカがその様子を見守っている。
「レオナルド、変わりましたね」
俺が声をかけると、ペルカは静かに頷いた。
「はい、本当に。以前は、全然笑わなかったのに。今は心から楽しんでいます」
ペルカの目に、涙が滲んでいた。
「イクノ・メンさん。あなたの言葉が、レオナルドを救いました」
「『貴族として笑えばいい』。その言葉を、レオナルドはずっと考えていました」
「そうですか」
俺は微笑む。
「レオナルドは、いい子ですね。とても素直な子だ」
「はい…」
ペルカは涙を拭いながら、静かに言った。
「私も、もっと頑張ります」
「ペルカさんは、もう十分頑張ってますよ」
「いえ、まだまだです」
首を横に振るペルカの目は、真剣だった。
「あなたのように、子供たちの心に寄り添える育児師になりたいです」
「ペルカさんなら、きっとなれますよ」
「…ありがとうございます」
ペルカが微笑む。
しばらくして、レオナルドが息を切らしながら戻ってきた。
「はあ…はあ…」
「お疲れ様、レオナルド」
「ありがとう」
俺が水を渡すと、レオナルドは礼を言って飲み干す。
「楽しかったか?」
「ああ!すごく楽しかった!」
レオナルドの笑顔は、心からのものだった。
「子供たち、みんな元気だな」
「だろ?元気すぎて大変なくらいだ」
俺が笑うと、レオナルドも笑った。
「でも、それがいいんだよな。子供たちが元気で、笑顔で…それが一番大事なんだよな」
「そうだな」
その時、オリバーが駆け寄ってきた。
三歳の食いしん坊だ。
「せんせー、おなかすいた!」
「ははは、さっきおやつ食べただろ」
「もっとたべたい!」
「食いしん坊だな、オリバーは」
レオナルドが横で笑っている。
「お兄ちゃんも、たべる?」
「……ああ、後で少しもらおうかな」
レオナルドが優しく答える。
その時、アリアが駆け寄ってきた。
「レオナルドおにいちゃん、またあそぼう!」
「……お兄ちゃん?」
レオナルドが驚く。
「うん!レオナルドおにいちゃん、やさしいから!」
アリアの笑顔に、レオナルドは一瞬目を伏せた。
唇を噛み、感情を抑えているようだった。
「アリアちゃん…」
「また来てくれる?」
「…ああ、必ず来る」
レオナルドが笑顔で答える。
◇
午後5時すぎ。
お迎えの時間が近づいてきた。
ペルカとレオナルドが帰る準備をしている。
「イクノ・メンさん、本当にありがとうございました」
ペルカが深く頭を下げる。
「いえ、こちらこそ。来週から、よろしくお願いします」
「来週から楽しみだ」
レオナルドが元気に答える。
「ペルカさんも、また来てください」
「はい。私も、またお邪魔させていただきます」
「一緒に学びましょう」
「……ありがとうございます」
2人が育成院を出ていく。
俺は玄関で手を振って見送った。
「ばいばーい!」
アリアが手を振る。
「またな、レオナルド」
リュクも手を振る。
「また来てねー!」
レオやマルコ、他の子供たちも手を振る。
「うん!また来るよ!」
レオナルドが大きく手を振り返す。
遠ざかっていく二人の背中を見ながら、俺は考えていた。人は、変われる。
ペルカも、レオナルドも。
その姿を見届けられたことが、何より嬉しかった。
◇
夜。午後七時。
夕食の時間。
「きょう、たのしかった!」
アリアが言う。
「ああ。また来るみたいだぞ」
「やったー!」
アリアの目が輝く。
「レオナルドおにいちゃん、やさしかった!」
「そうだな。レオナルド、いい人になってたな」
リュクが言う。
「最初は怖かったけど、今は全然違う」
「ああ。人は、変われるんだ」
俺は微笑む。
「かわれる…?」
アリアが首を傾げる。
「ああ。間違ったことをしても、反省して、頑張れば、変われるんだ」
「レオナルドおにいちゃんみたいに?」
「そうだ。レオナルドは、本当に頑張ったんだろうな」
「すごい!」
アリアが笑顔になる。
「俺も、レオナルドを見習わないとな」
リュクが言う。
「リュクも十分頑張ってるぞ」
「でも、もっと頑張れる」
リュクの言葉に、俺は微笑んだ。
レオナルドの変化が、リュクにも影響を与えている。
アリアも、優しい心で受け入れている。
子供は本当に素晴らしい。
新しい仲間が増えた。
新しい絆が生まれた。
それが、何より嬉しい。
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【今回獲得した称号!】
称号:「和解の仲介者」
取得条件:過去の対立を乗り越え、新たな絆を作った
称号:「変化の導き手」
取得条件:人の変化を認め、新たな道を示した
保有称号数:39個 → 41個
(次回称号付加まで:あと9個)
【育児経験値+35獲得】【育児経験値:346/500 → 381/500】




