33.おませなソフィア!てんやわんや!
午前8時。
預かりの開始時間になり、玄関のベルが鳴り始めた。
リンリンリン。
「さーて、今日もやりますか!」
俺は玄関に向かってドアを開けると、保護者たちと子供たちが立っていた。
「おはようございます、イクノ・メンさん」
最初に来たのは、ソフィアと母親だった。
「おはようございます。さあ、どうぞ」
母親が育成院の中に入る。
ソフィアも後ろからついてくる。
「…ん?」
俺は少し違和感を覚えた。
ソフィアの様子が、いつもと違う。
髪を頑張って、丁寧に結び直している。
服も、いつもより少しオシャレだ。
リボンまでつけている。
「ソフィア、今日は髪型を変えたんだな」
「うん!お母さんがやってくれた!」
ソフィアが嬉しそうに答える。
母親も微笑みながら喜んでいた。
「今日は張り切ってますのよ。可愛くしてって朝から言ってまして」
「そうなんですか、似合ってますね」
「ええ本当!私に似て可愛いんです、この子!」
俺は微笑み返す。
でも、心の中で少し引っかかるものがあった。
昨日の恋愛相談。
もしかして、それが関係してるのか?
「それでは先生、よろしくお願いします」
「はい。お任せください」
母親が去っていく。
ソフィアは、キョロキョロと周りを見回していた。
「リュクお兄ちゃん、いる?」
「ああ、リュクなら隣の部屋にいるぞ」
「わかった!」
ソフィアが嬉しそうに駆け出していく。
俺は少し心配になった。
まさか、何か企んでないだろうな…。
◇
午前10時。
子供たちは、リビングで遊んでいる。
リュクとアリアも一緒だ。
俺は少し離れたところから、子供たちを見守っていた。
「リュクお兄ちゃん!」
ソフィアがリュクに駆け寄っていく。
「ん?どうした、ソフィア」
リュクが振り返る。
「これ!お母さんに作ってもらったの!」
ソフィアが小さな袋を差し出す。
中には、クッキーが入っていた。
「えっと…ありがとう」
リュクが受け取る。
「リュクお兄ちゃんのために、作ってもらったの!」
「そ、そうか。ありがとう」
リュクが少し戸惑いながらも、笑顔で答える。
俺は遠くから見ていて、思った。
これは…アピールか。
昨日の恋愛相談の影響だな。
ソフィアなりに、頑張ってるのか。
微笑ましいな。
◇
午前11時。
レオが走り回っている。
「レオ、走りすぎると危ないぞ」
リュクが注意する。
「だいじょぶー!」
次の瞬間、レオが転んだ。
「いたーい!」
リュクが駆け寄る。
「ほら、言ったろ。大丈夫か?」
「うん…」
レオが膝を押さえる。
少し擦り傷ができている。
「リュクお兄ちゃん!」
ソフィアが飛んでくる。
「リュクお兄ちゃん、大丈夫!?疲れてない!?」
「え?俺?俺は大丈夫だけど…」
リュクが困惑する。
「お水飲む?座る?」
「いや、レオの方が…」
「レオはいいの!リュクお兄ちゃんが心配なの!」
ソフィアが過剰に心配する。
リュクは完全に困っている様子だった。
「…だ、大丈夫だよ」
俺は遠くから見ていて思った。
ちょっとやりすぎだな、ソフィア。
◇
時計が正午をまわる。
お昼ごはんの時間だ。
「みんな、手を洗って集合ー!」
俺が声をかけると、子供たちが次々と洗面所へ向かう。手を洗い終わったら、みんなでテーブルに座る。
今日の昼ごはんは、野菜たっぷりのシチューだ。
「じゃあ、みんな手を合わせて。いただきます」
「いただきます!」
みんなで手を合わせる。
リュクがスプーンを持って、シチューを食べ始める。
「リュクお兄ちゃん、すごーい!」
ソフィアが突然叫びだした。
「え?」
リュクが驚く。
「スプーン、上手に持ってる!」
「いや、これくらい普通だけど…」
リュクが困惑する。
「かっこいい!」
「え、ええ…?ありがとう…」
リュクが完全に戸惑っている。
アリアが首を傾げて尋ねた。
「ソフィア、げんきだね」
「そんなことないよー、普通だよ」
ソフィアが笑顔で答える。
俺は少し離れたところから見ていて、頭を抱えそうになった。
これは…かなりやりすぎだな。
リュクが完全に困ってる。
周りの子供たちも、不思議そうに見ている。
このままだと、まずいか?
◇
昼ごはんが終わった後。
ソフィアが庭に出た。
そして、花を摘み始める。
「ソフィア、何してるの?」
エマが聞く。
「お花、摘んでるの」
「なんで?」
「リュクお兄ちゃんに、あげるの」
「えー!えー!」
エマが目を輝かせる。
「ソフィア、リュクお兄ちゃん好きなの?」
「うん!好き!」
ソフィアがはっきりと答える。
「わー!わー!」
エマが叫ぶ。
他の子供たちも集まってくる。
「エマちゃん、どうしたのー?」
「ソフィア、リュクお兄ちゃん好きなんだ!」
「ええー!」
「ひゃあー!」
「きゃー!」
子供たちが騒ぎ始める。
ソフィアが花を束にして、リュクのところに持っていく。
「リュクお兄ちゃん、これあげる!」
「え?」
リュクが驚く。
「ソフィアが作ったの!」
「は、生えてたんじゃなくて?…ありがとう」
リュクが受け取る。
顔が少し赤くなっている。
周りの子供たちが、一斉に騒ぎ出す。
「わー!」
「ソフィア、リュクお兄ちゃん好きなんだー!」
「きゃー!」
リュクの顔が真っ赤になる。
「え、ちょ、ちょっと…」
リュクが完全に混乱している。
俺は見ていて、思った。
これは介入しないとまずいかもしれない。
あまりこういうのに、大人が首を突っ込むべきではないが…。
困り果ててるリュクを、放っておくわけにもいかない。なによりも、ソフィアが暴走しすぎている。
でも、次は昼寝の時間だ。
もう少し、もう少しだけ様子を見よう。
◇
午後1時。
昼寝の時間だ。
子供たちは、リビングの布団に横になっている。
俺は、父の温もり(コンフォート・オーラ)を発動させて、部屋全体を優しい空気で満たした。
フワァ…
温かく、柔らかい感覚が広がっていく。
子供たちが、次々と眠りについていく。
「…すー」
「…んー」
みんな、安心したような表情で眠っている。
リュクとアリアも、それぞれの部屋で休んでいるはずだ。
静かな午後。
子供たちの寝息だけが、部屋に響いている。
俺は子供たちを見守りながら、時計を確認する。
その時だ。
「…ふぅ」
ソフィアが、布団から起き上がった。
なんだ?眠れないのか?
ソフィアがキョロキョロと周りを見る。
そして、静かに立ち上がった。
俺の方を確認する。
俺は咄嗟に目を閉じて、寝ているフリをした。
「ぐー、ぐー…」
薄目になると、ソフィアがリビングから出て行くのが見えた。廊下を歩く音が聞こえる。
…どこに行くんだ?
俺はそっと目を開けて、ソフィアの後を追った。
「あの方向は」
ソフィアは、リュクの部屋に向かっている。
まさか…嫌な予感がした。
俺はソフィアの後をそっと追う。
ソフィアが、リュクの部屋のドアをゆっくりと開ける。中を覗き込んでいた。
「…すー…すー…」
リュクは、布団で熟睡している。
静かな寝息が聞こえる。
完全に眠っている。
ソフィアが、部屋の中に入る。
そして、リュクの布団に近づいていく。
「…っ!?」
俺は目を見開いた。
ソフィアが、リュクの横にしゃがむ。
そして、顔を近づけていく。
明らかに、キスしようとしている!
「ソフィア!」
俺は慌てて駆け寄った。
「きゃ!せんせい!?」
ソフィアがビクッと飛び上がる。
顔が真っ赤だ。
「ちょ、ちょっと来い」
俺はソフィアの手を取って、部屋から連れ出す。
リュクは熟睡していて、気づいていない。
「…すー…すー…」
よかった…間に合った…。
◇
俺はソフィアをリビングの隅に連れて行った。
他の子供たちに聞こえないように、声を落とす。
「ソフィア」
「…はい」
ソフィアが俯く。
自分がやろうとしたことが、ダメだと分かっているようだ。
「リュクお兄ちゃんに、なにしようとしてた?」
「…キスしようとしてた」
「やっぱりそうか」
俺は優しく、でも真剣に言葉を続ける。
「ソフィア、キスっていうのはな、とても大切なものなんだ」
「…うん」
「好きな人にするものだけど、それは相手も同じ気持ちの時にするものなんだ」
「同じ気持ち…?」
ソフィアが顔を上げる。
「そうだ。リュクは、ソフィアにキスされたいって思ってるか?」
「…わかんない」
「だろ?分からないのに、勝手にしたらダメなんだ」
俺はソフィアの頭を優しく撫でる。
「それに、リュクは今、寝てる。起きてない時に、そういうことをしたら…」
「…ダメ?」
「ああ。相手が気づいてない時に、そういうことをするのは、良くないことなんだ」
「ごめんなさい…」
ソフィアの目に、涙が滲む。
「謝らなくていい。ソフィアは、まだ6歳だ。知らなかっただけだからな」
俺は優しく言葉を続ける。
「好きな気持ちは素敵だ。でも、相手の気持ちを考えるのも大事なんだ」
「相手の…気持ち…」
「そうだ。リュクが『いいよ』って言ってくれるまで、待つんだ」
「待つ…?」
「そうだ。それが、本当に好きな人を大切にするってことなんだよ」
ソフィアが小さく頷く。
しかし今日の行動は、自分で考えたにしては少しおかしい気がする。誰かに変なことを吹きこまれたか?
「ソフィア、誰かになにか教わったのか?」
「…お母さんと、お友達」
「お友達?」
「うん。お友達が言ってた。『好きな人には、キスすればいいんだよ』って」
「お母さんは?」
「お母さんは、『好きな人には積極的にね』って」
俺は頭を抱えそうになった。
お母さんの言葉と、友達の情報を組み合わせたのか…。そりゃ、こんなことになるわけだ。
「ソフィア、お友達の言ってたことは、ちょっと違うんだ」
「ちがう…?」
「ああ。キスは、相手が『いいよ』って言った時にするものなんだ。絶対に忘れないでくれ」
「…うん」
「あとお母さんの『積極的に』って言葉も、確かに大事だけど、それは相手に向かって突っ走れって意味じゃなくて、自分の好きなことを一生懸命頑張るって意味なんだと思うぞ。」
俺はソフィアの目をまっすぐ見つめる。
「昨日も言ったけど、ソフィアは絵を描くのが好きだろ?」
「うん」
「それを頑張るんだ。一生懸命描いて、楽しんで、上手になる。それが、お母さんの言ってた積極的なんだよ」
「絵…を、がんばる…?」
「そうだ」
ソフィアが考え込む。
「今日、ソフィアはリュクに色々してたよな」
「…うん」
「クッキーをあげたり、心配したり、褒めたり」
「うん…」
「それも悪くないけど、ちょっとやりすぎだったんだ。リュクが困ってたの、気づいてたか?」
「え…気づいてなかった」
ソフィアがショックだったのか、小さな声で答える。
「相手の気持ちを見るのも、大事なんだ。リュクが嬉しそうか、困ってるか。それを見ながら接するんだよ」
「…うん」
「だからまずは、ソフィアが自分の好きなことを頑張ってる姿を、リュクに見てもらう。それが一番良いよ」
「それだけ…?」
「ああ。それだけで十分なんだ」
俺は優しく微笑む。
「リュクはな、頑張ってる人を応援する子だ。だから、ソフィアが頑張ってたら、きっと見てくれる」
「…そうなの?」
「それが、本当の好きの伝え方なんだよ」
「わかった…」
ソフィアは真剣な表情をしていた。
よかった。どうにか伝わったみたいだな。
「…よし!じゃあ、少し休むか?」
「うん」
ソフィアが布団に戻る。
俺は父の温もり(コンフォート・オーラ)を少し強めに発動させた。
フワァ…
「…すー」
ソフィアが、安心したように眠りについた。
俺は小さく息を吐く。
危なかった…。
もし、あのままキスしてたら…。
リュクは気づかなかったかもしれないが、それでも良くない。
相手の気持ちを考える。
それが、恋愛の第一歩だ。
ソフィアは、まだ6歳。
これから、たくさん学んでいくだろう。
◇
午後3時。
子供たちが昼寝から起きてきた。
おやつの時間だ。
「今日のおやつ、一緒に作るか?」
「やるー!」
子供たちが一斉に手を挙げる。
「よし。じゃあ、キッチンに行こう」
俺はキッチンに向かう。
リュクとアリアも一緒だ。
リュクが昼寝から起きてきた。
「ん…よく寝た」
「おはよう、リュク」
「ああ、おはよう」
リュクはソフィアに気づく。
「ソフィア、元気か?」
「う、うん!」
ソフィアが慌てて顔を隠す。
顔が少し赤くなっている。
「そっか。じゃあ、いいけど」
リュクが優しく笑う。
ソフィアの顔が、さらに赤くなった。
俺は2人のやり取りを見ながら、微笑む。
よしよし。
いい感じだ。
◇
おやつの時間。
今日は、ホットケーキを作ることにした。
「ソフィア、手伝ってくれるか?」
「うん!」
ソフィアが元気よく答える。
「じゃあ、生地を混ぜてくれ」
「わかった!」
ソフィアが一生懸命、生地を混ぜる。
真剣な表情だ。
リュクが横を通りかかる。
「ソフィア、頑張ってるな」
「え?」
ソフィアが顔を上げる。
「生地、上手に混ぜてるじゃん」
「ほ、ほんと?」
「ああ。すごいな」
リュクが笑顔で言う。
ソフィアの顔が、パッと明るくなった。
「ありがとう、リュクお兄ちゃん!」
「おう」
リュクが軽く手を振って、去っていく。
ソフィアは、嬉しそうにホットケーキの生地を混ぜ続けた。
俺はその様子を見ながら、微笑む。
これだ。これが、正しいアピールなんだ。
無理に褒めたり、押し付けたりしない。
ただ、自分の好きなことを頑張る。
それを見てもらう。
それが、一番自然で、一番伝わる方法なんだ。
ソフィアも、それを少しずつ学んでいる。
◇
午後5時。
お迎えの時間が近づいてきた。
子供たちは片付けを手伝っている。
ソフィアも、いつも通り明るく笑っていた。
「せんせー、おわったー」
レオが報告してくる。
「ありがとう。みんな偉いぞ」
玄関のベルが鳴った。
リンリンリン。
「お迎えだな」
俺は玄関に向かってドアを開けると、保護者たちが立っていた。
「ママー!」
「パパー!」
子供たちが嬉しそうに駆け寄っていく。
「バイバイ、せんせー」
「またね、リュクお兄ちゃん」
ソフィアが、リュクに手を振る。
リュクも笑顔で手を振り返した。
「またな、ソフィア」
ソフィアの顔が、少し赤くなる。
でも、嬉しそうに笑っていた。
今日の朝とは違う。
押し付けがましくない、自然な笑顔だ。
みんなが帰っていく。
最後の子供が帰ると、育成院が静かになった。
◇
夜。午後7時。
夕食の時間だ。
「今日も、お疲れ様」
俺はリュクとアリアに言う。
「今日、ソフィアがすごかったな」
リュクが言う。
「ああ」
俺が答える。
「朝から、なんか張り切ってた」
「そうだな」
「でも、午後は普通だった。何かあったのかな?」
「…ちょっとな」
俺は曖昧に答える。
ソフィアの秘密は、守らなければならない。
「リュク、困ってなかったか?」
「え?」
「朝、ソフィアが色々してただろ」
「ああ…まあ、ちょっと驚いたけど、大丈夫だったよ」
リュクが笑う。
「ソフィア、俺のこと好きなのかな」
リュクが首を傾げる。
俺は少し驚いた。
「気づいてたのか?」
「やっぱり?なんとなく。みんなも言ってたし」
「そうか」
「でもまだ6歳だし、歳離れてるから分かんないや」
リュクが照れくさそうに笑う。
アリアが首を傾げる。
「ソフィア、リュクお兄ちゃん好きなの?」
「みたいだな」
リュクが答える。
「わー!」
アリアが目を輝かせる。
「リュクお兄ちゃん、もてもて!」
「いや、そういうんじゃ…」
リュクが顔を赤くする。
俺は2人のやり取りを見ながら、笑った。
リュクは、ソフィアの気持ちに気づいている。
でも、まだどう対応していいか分からないみたいだ。
それでいいんだ。焦る必要はない。
2人とも、これから成長していく。
その過程で、色々なことを学んでいく。
俺は、その成長を見守り続ける。
「さあ、ご飯にしよう」
「いただきまーす!」
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【今回獲得した称号!】
**称号:「恋心の守護者」**
取得条件:子供の暴走を止め、正しい恋愛観を教えた
**称号:「境界線の教師」**
取得条件:相手の同意の重要性を子供に教えた
**保有称号数:37個 → 39個**
(次回称号付加まで:あと11個)
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【育児経験値+40獲得】
【育児経験値:306/500 → 346/500】
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