32.初恋と成長
とある日の昼下がり。
午後1時。昼寝の時間だ。
子供たちは、リビングの布団に横になっている。
俺は【父の温もり(コンフォート・オーラ)】を発動させて、部屋全体を優しい空気で満たした。
フワァ…
温かく、柔らかい感覚が広がっていく。
子供たちが、次々と眠りについていく。
「…すー」
「…んー」
レオも、エマも、トーマスも。
みんな、安心したような表情で眠っている。
リュクとアリアも、隣の部屋で休んでいるはずだ。
静かな午後。
子供たちの寝息だけが、部屋に響いている。
俺は子供たちを見守りながら、時計を確認する。
だいたい1時間から2時間は眠るだろう。
その間に、片付けや準備を済ませておこう。
その時。
「…せんせい」
小さな声が聞こえた。
振り返ると、ソフィアが布団から起き上がっていた。
「ソフィア?どうした、眠れないのか?」
俺は優しく声をかける。
ソフィアは6歳の女の子だ。
おっとりしていて、優しくて、少し泣き虫。年長組のリーダー的な存在でもある。
「うん…あのね」
ソフィアが小さな声で答える。
表情がいつもと違う。
何か、悩んでいるようだ。
「どうした?何かあったのか?」
俺はソフィアの隣に座る。
ソフィアは、少し恥ずかしそうに俯いた。
「せんせい…あのね…」
「ああ、ゆっくりでいいぞ」
俺は優しく待つ。
ソフィアが、ゆっくりと口を開いた。
「わたし…リュクお兄ちゃんが…すき」
顔を真っ赤にして小さな声で言う。
俺は少し驚いたが、すぐに微笑んだ。
「そうか。リュクのことが好きなんだな」
「うん…」
ソフィアが頷く。
恥ずかしそうに、でも真剣な表情だ。
「リュクお兄ちゃん、かっこいいし、やさしいし…」
ソフィアが言葉を続ける。
「でも…わたし、リュクお兄ちゃんに…どうやって話しかけたらいいかわかんない」
「話しかけるのが難しいのか?」
「うん…私、恥ずかしくて…」
ソフィアの目に、涙が滲んでいる。
「ねぇ、好きって言ったほうがいいのかな?それとも…言わないほうがいい?せんせい、リュクお兄ちゃんの好きな子って、どんな子?」
ソフィアが質問を投げかけながら、俺を見上げる。
6歳の女の子にとって、これは大きな悩みなのだろう。
俺は、ソフィアの頭を優しく撫でた。
「ソフィア、教えてくれてありがとう。ちょっと真剣に話そうか」
「うん…」
ソフィアが顔を上げる。
俺は、ソフィアの目をまっすぐ見つめた。
「ソフィアの気持ちは、とても大切なものだ。好きっていう気持ちは、素敵なことだからな」
「ほんとう…?」
「ああ。幼い頃に感じた『好き』という気持ちは、大人になってもずっと覚えているんだ。それくらい、大事な感情なんだよ」
俺は前世の経験を思い出す。
ソフィアくらいの年齢の時、俺も初恋をした。
同級生にバレて、からかわれたのを今でも覚えている。子供ながら結構傷ついてたっけな。
幼い頃の恋愛感情は、心の成長にとって大切なものだ。
否定したり茶化したりするんじゃなくて、その気持ちをちゃんと認めてあげる。
そうやって寄り添うことが、大人にできる唯一の支えだと俺は思っている。
「私の…気持ち…大事?」
「ああ、とても大事だ。ソフィアが、リュクのことを好きだと思う気持ち。それは、ソフィアだけのものだからな」
俺は優しく言葉を続ける。
「でもな、ソフィア。好きになってもらおうと、無理に自分を変える必要はないんだ」
「え…?」
ソフィアが首を傾げる。
「ソフィアは、ソフィアのままでいい。自分らしくいることが、一番大切なんだ」
「自分らしく…?」
「ああ。リュクはな、頑張ってる人を応援する子なんだ。だから、ソフィアも自分の好きなことを頑張ってみたらどうだ?」
「好きなこと…」
ソフィアが考え込む。
「ソフィアは、絵を描くのが好きだったよな?」
「うん、好き!」
ソフィアが目を輝かせる。
「じゃあ、それを頑張ってみるといい。絵を描いて、楽しんで、一生懸命になる。そうすれば、リュクも『ソフィアは頑張ってるな』って見てくれるはずだ」
「ほんとう?」
「ああ。それに、好きなことを頑張ってるソフィアは、きっともっと素敵になる。笑顔も増えるし、自信もつく。それが一番だ」
俺はソフィアの頭を撫でる。
「話しかけるのが恥ずかしいなら、無理に話しかけなくていい。ソフィアが自然に笑顔でいれば、それでいいんだ」
「自然に…?」
「ああ。『好き』って言葉も、今は言わなくていい。ソフィアが楽しく過ごして、リュクと一緒にいる時間を大切にする。それだけで十分なんだ」
「…うん」
ソフィアが小さく頷く。
目に浮かんでいた涙が、消えていた。
「いつか、ソフィアがもっと大きくなったら、自然に気持ちを伝えられる日が来る。だから、焦らなくていい」
「せんせい…」
ソフィアの目が、少しずつ明るくなっていく。
「今は、ソフィアらしく、好きなことを頑張る。それが、一番リュクに伝わる方法なんだ」
「私らしく…がんばる…」
「そうだ。ソフィアは、素敵な女の子だ。自信を持っていいんだぞ」
「うん!」
ソフィアが笑顔になった。
俺も微笑む。
「せんせい、ありがとう」
「どういたしまして。ソフィアの気持ち、ちゃんと受け取ったからな」
「うん!」
ソフィアが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もう少し休むか?」
「うん。眠くなってきた」
ソフィアが布団に戻る。
俺は【父の温もり】を少し強めに発動させた。
フワァ…
「…すー」
ソフィアが、安心したように眠りについた。
俺は小さく息を吐く。
初恋か。
微笑ましいな。
でも、ソフィアにとっては真剣な悩みだ。
だから真剣に向き合った。
それでよかったと思う。
◇
午後5時。
お迎えの時間が近づいてきた。
子供たちは片付けを手伝っている。
ソフィアも、いつも通り明るく笑っていた。
さっきの相談のことは、誰にも言わない。
それが、俺とソフィアの秘密だ。
「せんせー、おわったー」
レオが報告してくる。
「ありがとう。みんな偉いぞ」
玄関のベルが鳴った。
リンリンリン。
「お迎えだな」
俺は玄関に向かってドアを開けると、保護者たちが立っていた。
「ママー!」
「パパー!」
子供たちが嬉しそうに駆け寄っていく。
「バイバイ、せんせー」
「またね、リュクお兄ちゃん」
ソフィアが、リュクに手を振る。
リュクも笑顔で手を振り返した。
「またな、ソフィア」
ソフィアの顔が、少し赤くなる。
でも、嬉しそうに笑っていた。
みんなが帰っていく。
最後の子供が帰ると、育成院が静かになった。
◇
夕方。午後6時。
俺は夕食の準備をしている。
リュクとアリアは、リビングで遊んでいた。
「イクメン」
リュクが声をかけてくる。
「ん?どうした」
「ちょっと、話したいことがある」
リュクの表情が、いつもより真剣だ。
俺は手を止めて、リュクの方を向いた。
「わかった。何だ?」
「俺、もっと強くなりたい」
リュクがまっすぐ俺を見つめる。
「アリアも、みんなも守れるように。だから、もっと訓練したい」
「訓練か」
俺は少し考える。
リュクは今10歳。
基礎体力はついてきたし、剣術の基礎もできている。
でも、まだまだ成長の余地はある。
「イクメン、お願いだ。俺に、もっと強くなる方法を教えてくれ」
リュクの目が、強い意志を持っている。
俺は微笑んだ。
「わかった。リュク専用の訓練メニューを作ろう」
「ほんとうか!」
リュクの顔が明るくなる。
「ああ。でも、その前に少し確認させてくれ」
俺は育児眼を発動させた。
リュクのステータスが、視界に浮かび上がる。
-----
【リュク・セラド / 10歳】
- 魔力: D+(数値60)
- 剣術: C++(訓練で上昇中)
- 知力: C+
- 器用さ: C
- 精神力: B+
- 体力: C(上昇中)
【特記事項】
- 才能は平凡だが、努力でカバーしている
- 「守りたい」という強い意志を持つ
- 適切な訓練を継続すれば、家庭騎士として覚醒する可能性
- 愛情促進の効果で成長速度が通常の2倍
-----
ふむ。
全体的に上がっている。
体力の項目も追加されてるな。
順調に成長している。
でも、まだまだ伸びる。
「よし、リュク。明日から本格的な訓練を始めよう」
「ありがとう、イクメン!」
リュクが嬉しそうに笑った。
◇
翌日。午後1時。
子供たちが昼寝をしている時間。
俺はリュクを連れて、育成院の裏庭に来た。
「ここで訓練するのか?」
リュクが聞く。
「いや、もっといい場所がある」
俺は【空間作成】を発動させた。
シュゥゥゥ…
空間が歪む。
次の瞬間、俺たちの周りに見えない壁のようなものが現れた。外から見ると、俺たちの姿は完全に消えている。
「もしかして、イクメンのあの魔法?」
「ああ。即席の訓練用空間だ。外からは見えないし、音も漏れない。安全に、思いっきり訓練できる」
「やっぱり凄いよね、イクメン…」
リュクが周りを見回す。
「じゃあ、始めるぞ」
「ああ!」
「まず、基礎体力の強化だ。腕立て伏せ60回、スクワット50回、素振り50回。いけるか?」
「いける!」
リュクが力強く答える。
「よし。じゃあ、腕立て伏せから。俺が数えるぞ」
「わかった!」
リュクが地面に手をつく。
そして、腕立て伏せを始めた。
「1…2…3…」
俺が数を数える。
リュクは真剣な表情で、一回一回丁寧にこなしていく。
「30…31…32…」
リュクの呼吸が荒くなってくる。
腕が震えている。
「あと28回だ!頑張れ!」
「…っ!」
リュクが歯を食いしばる。
「50…51…52…」
腕が限界に近づいている。
でも、リュクは諦めない。
「あと8回!お前ならできる!」
「…ああ!」
リュクが最後の力を振り絞る。
「58…59…60!」
「できた!」
リュクが腕立て伏せを終えて、地面に倒れ込む。
汗が滲んでいる。
「よくやった。少し休んでいいぞ」
「ありがとう…」
リュクが息を整える。
俺は水を渡す。
「飲め。水分補給は大事だ」
「ああ」
リュクが水を飲む。
「次は、スクワットだ。準備はいいか?」
「いける!」
リュクが立ち上がる。
「よし。じゃあ、始めるぞ」
スクワットも同じように、50回こなす。
リュクは途中で苦しそうだったが、最後までやり遂げた。
「素晴らしいぞ、リュク」
「まだ…いける…」
リュクが笑顔で答える。
「よし。じゃあ、素振りだ。100回、いけるか?」
「余裕だよ」
リュクが木剣を構える。
「フォームを意識しろ。力だけじゃなく、正確さも大事だ」
「わかった!」
リュクが素振りを始める。
「1…2…3…」
俺が数を数えながら、リュクのフォームを確認する。
振り下ろす角度、足の位置、体重移動。
基礎はできている。
でも、まだ改善の余地がある。
「リュク、ちょっと待て」
「ん?」
リュクが手を止める。
「振り下ろす時、この角度だと力が逃げる。もう少し、こう…」
俺はリュクの手を取って、角度を調整する。
「こうか?」
「ああ、そうだ。この角度で振ると、力が剣先に集中するはずだ」
「なるほど…」
リュクが何度か試してみる。
「あ、本当だ!さっきより振りやすい!」
「だろ?基礎を正確にすることが、一番の近道だ」
「ありがとう、イクメン!」
リュクが嬉しそうに素振りを再開する。
今度は、さっきよりも綺麗なフォームだ。
「50…51…52…」
リュクが黙々と素振りを続ける。
汗が滴り落ちる。
でも、リュクの目は輝いている。
「90…91…92…」
「あと8回だ!」
「…ああ!」
「98…99…100!」
「終わったあああ!」
リュクが木剣を下ろす。
全身が汗でびっしょりだ。
「よくやった、リュク。素晴らしい素振りだ!」
俺はリュクの頭を撫でる。
「ありがとう、イクメン」
リュクが笑顔で答える。
「次は魔力のコントロール訓練だ」
「魔力…か」
「ああ。リュクの魔力値は低い。でもな、量より質なんだ」
「質…?」
「そうだ。少ない魔力でも、効率的に使えれば強くなれる。それを教える」
「お願いします!」
リュクが真剣な表情で頷く。
俺はこの前、本屋で買った参考書を思い出しながら、リュクに魔力の流し方を教える。
体の中にある魔力を、どう動かすか。どこに集中させるか。どのタイミングで放出するか。
リュクは真剣に聞いて、何度も練習する。
「…こう?」
「そうだ。もう少し、ゆっくりと」
「…できた!」
リュクの手に、小さな光が灯る。
魔力が、形になった。
「すごいぞ、リュク!上出来だ!」
「本当か!」
リュクが嬉しそうに笑う。
◇
訓練が終わった。
「今日はここまでだ。よく頑張ったな、リュク」
「ありがとう、イクメン!」
リュクが充実した表情で答える。
「明日からも続けるぞ。毎日少しずつ、強くなっていこう」
「ああ!」
俺は空間作成を解除した。
シュゥゥゥ…
見えない壁が消える。
元の裏庭に戻った。
その時。
「あ…」
リュクが何かに気づく。
「どうした?」
「ソフィアがいる」
俺が振り返ると、ソフィアが立っていた。
少し離れた場所から、こちらを見ている。
「ソフィア?どうしたんだ?」
俺が声をかけると、ソフィアが駆け寄ってきた。
「あ…あのね…」
ソフィアが顔を赤くする。
「リュクお兄ちゃん、練習してたの?」
「ああ、そうだけど」
リュクが少し照れくさそうに答える。
「すごい…」
ソフィアの目が輝く。
「リュクお兄ちゃん、汗かいてる。頑張ってたんだね」
「あ、ああ…」
リュクが顔を赤くする。
「かっこいい…」
ソフィアが小さな声で呟く。
「え?」
リュクが驚く。
「リュクお兄ちゃん、頑張ってて、カッコいい」
「あ、ありがとう…」
リュクが照れくさそうに笑う。
俺は2人のやり取りを見ながら、ニヤニヤしていた。
微笑ましいな。
「ソフィアも、頑張りたい事あるんだよな」
俺が聞くと、ソフィアが目を輝かせた。
「うん!私、絵を描くの頑張る!」
「そうか。それはいいな」
「リュクお兄ちゃんみたいに、頑張るから!」
ソフィアが力強く言う。
リュクが少し驚いたような顔をしていた。
「ソフィア、頑張れよ」
「うん!」
ソフィアが嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、リュクも少し照れくさそうに笑った。
◇
夜。午後7時。
夕食の時間だ。
「今日も、お疲れ様」
俺はリュクとアリアに言う。
「疲れたけど、充実してた」
リュクが笑う。
「リュク、つよくなった?」
アリアが聞く。
「ああ、だけどもっと強くなる」
リュクが力強く答える。
「すごい!」
アリアが目を輝かせる。
「アリアも、魔法がんばる!」
「ははは、2人とも頑張り屋だな」
俺は2人を見ながら、温かい気持ちになった。
リュクの成長。
ソフィアの決意。
アリアの笑顔。
子供たちは、毎日少しずつ成長している。
その成長を見守れることが、俺の幸せだ。
「さあ、ご飯にしよう」
「いただきまーす!」
-----
【今回獲得した称号!】
**称号:「初恋の理解者」**
取得条件:子供の初恋を真剣に受け止め、適切なアドバイスをした
**称号:「成長の導き手」**
取得条件:子供の個性に合わせた訓練メニューを作成し、成長を促した
**保有称号数:35個 → 37個**
(次回称号付加まで:あと13個)
-----
【育児経験値+50獲得】
【育児経験値:256/500 → 306/500】
-----




