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28.本当の血の繋がり

どれくらい時間が経っただろうか。

….手が地面の外に出た。

新鮮な空気が指先に触れる。

俺は必死に掻き続けた。


バサッ!


顔が外に出る。


「ぷはぁ!!!」


大きく息を吸い込む。酸素が肺に入ってくる感覚が、これほど心地よいものだとは思わなかった。

全身を引っ張り出す。

ようやく、地面の上に這い出た。

体中が土だらけだ。服は血で汚れている。

もちろん傷は全て治っていた。


「はぁ…はぁ…」


息を整えながら、俺は立ち上がる。

空を見上げると、まだ夜が明ける前だった。

星が綺麗に見える。生きている。


俺は土を払いながら、おばさんの家へと向かった。

途中、何人かの夜警に声をかけられたが、大丈夫だと答えて先を急いだ。


おばさんの家に着くと、静かにドアをノックする。


「…どなたかしら?」


おばさんの警戒した声が聞こえる。


「イクノ・メンです」

「まあ!」


すぐにドアが開いた。

おばさんが俺を見て、目を見開く。


「帰ってこないって心配してたのよ?…ってどうしたの!その姿は…!」

「心配かけてすみません。こんな格好ですが入っても大丈夫ですか?」

「いいわよ!すぐお風呂はいって!」

「ありがとうございます」


俺は中に入った。

おばさんが、俺の体を見回している。


「血だらけじゃない…!傷はないの?返り血!?」


確かに、血だらけなのに傷がないというのは、不可解だろう。なにか言い訳しなくては。


「食べれるものがないか、探してたんです。その時に転んじゃってトマトの山に突っ込んじゃって」

「そ、そうだったの?…トマトねぇ」

「お風呂お借りしますね」

「え、ええ」


俺は風呂に駆けこむと、急いで血や土を洗い流した。温かい湯が、疲れた体に染み渡る。

肉体的には問題ない。体力は全く減っていないし、傷も完全に治っている。でも、心が重かった。


おそらく精神的な疲労は、睡眠でしか回復しない。どれだけ体が頑丈でも、心は別だ。今日一日で、あまりにも多くのことがあった。育成院が燃えた。埋められもした。ここまで散々ひどい目にあったが、明日には多分決着がつく。


「…少し、休もう」


風呂から上がると、綺麗な服が用意されていた。

どこまでいい人なんだろう。今度お返ししないとな。

俺はおばさんにお礼を伝えてから、客間に戻った。

アリアとリュクは、まだ静かに眠っている。

俺は2人の隣に横になった。

目を閉じると、すぐに意識が遠のいていった。



「んん?」


俺は目を覚ました。

窓を見ると少しだけ明るかった。

時刻は…早朝だろうか。


「…これは!」


守護の加護が、強く反応している。

何かが起きている。俺は辺りを見回した。

リュクは隣で眠っている。

ーーーでも、アリアの姿がない。


「アリア!?」


俺は急いで起き上がった。

部屋の中を探すが、アリアはいない。

まさか、と思って玄関へと向かう。


小さな影があった。


アリアだった。

玄関のドアに手をかけている。


「アリア…どこ行くんだ?」


俺の声に、アリアがびくっと体を震わせた。

ゆっくりと振り返る。

その目には、涙が浮かんでいた。


「ぱぱ…」

「どこに行こうとしてたんだ?」


俺は優しく聞く。

アリアは、小さく震えながら答えた。


「あのひとたちの、ところ」

「…なんで?」

「わたしが、いけば…みんな、へいわに…」


その言葉に、俺の胸が締め付けられる。

アリアは、全部自分のせいだと思っているんだ。

育成院が燃えたのも、自分のせいだと。

アリアが泣きながら言う。


「イクメンも、つらそう…」

「リュクも、かなしそう…」

「ぜんぶ、わたしのせい…」

「だから、わたしが、いけば…」


俺は、アリアの前に膝をついた。

よく見ると手に俺の服を持っていた。

土で汚れて血で固まってるくしゃくしゃの服。

あとで捨てようと枕元に置いてたんだ。

起きた時に、この服を見てしまったのか?

これのせいでアリアに、色々考えさせてしまったのかもしれない。俺は小さな体を抱きしめる。


「ダメだ」

「…ぱぱ、けがした。アリアのせい」

「俺の怪我は、もう治った」

「…?」


アリアが不思議そうに俺を見上げる。


「俺の体は特別なんだ。何度でも、お前を守れる」

「…ぱぱ、いたかった…?」

「ちょっと痛かった」


俺は正直に答える。


「けど、それでもいいんだ」

「なんで…?」

「アリア」


俺は、アリアの目をまっすぐに見つめた。


「俺たちは血は繋がってない」


アリアの顔が悲しそうに歪む。


「でも、お前は俺の娘だ」

「…!」

「血が繋がってないからって、家族じゃないわけじゃない。一緒に過ごした時間。一緒に笑った時間。一緒に泣いた時間。全部の時間が、俺たちを家族にしたんだ」

「ぱぱ…」

「お前は俺の大切な娘だ。だから、絶対にアイツらには渡さない」


アリアが、声を上げて泣き始めた。

俺の胸に顔を埋めて、大粒の涙を流す。


「ぱぱ…ぱぱ…!」

「よしよし」


俺はアリアの背中を撫でる。

どれだけ怖かっただろう。

どれだけ不安だっただろう。

こんな小さな子供が、1人で全てを背負おうとしていたんだ。


「イクメン…」


背後から声がした。

振り返ると、リュクが立っていた。

目を擦りながら、でもその目には涙が浮かんでいる。


「リュク…」

「俺も家族だよな?」


リュクが震えた声で聞いてくる。


「ああ、もちろんだ」


俺は2人を抱きしめた。3人で強く抱き合う。


「…ありがとう」


俺は小さく呟いた。

こんなにも温かい家族がいる。

血の繋がりなんて関係ない。

俺たちは、家族なんだ。



翌朝。空が白み始めた頃、俺は育成院の跡地へと戻っていた。アリアとリュクは育成院敷地内の誰にも見えない場所に、空間作成トレーニング・スペースを使って、安全な空間の中に待機させている。


「おばさんが作ってくれたご飯があるから、ここで2人で食べててくれるか?」

「イクメンは?」

「用事があるんだ、終わったら迎えに来る。それまでアリアを頼めるか?」 

「…うん!任しといてよ」

「ぱぱ?」

「アリア。ご飯食べ終わったらリュクお兄ちゃんが、たくさん遊んでくれるからな?」

「うん。リュクとあそぶ!」


俺はリュクにアイコンタクトすると、お互いに頷いた。2人がご飯を食べ始めるのを見届けると、子供たちだけ空間の中に残して、俺は外に出る。

そして、育成院の焼け跡から椅子を引っ張りだして、座って待つことにした。


太陽が昇り始める。朝の光が、焼け跡を照らしていく。黒く焦げた壁が、より鮮明に見える。


ザッザッ…。


予想通りの時間に、足音が聞こえてきた。


領主のグレゴール・ヴァイス。

アリアの父親ヴィクトール・フォンブラウン。

同じく母親エリザベート・フォンブラウン。

そして、昨夜俺を襲った借金取りたちの姿もある。

…兵士もいる。数人ほど連れてきていた。

おそらく領主の兵士だろう。


俺の姿を見た瞬間、借金取りたちの顔色が変わった。


「な...なんで...!」


一人が後ずさる。


「生きてる...!?」


別の男が、信じられないという表情で叫ぶ。


「昨日、確かに埋めたはずだ...!そうだよな!?息もしてなかった!」

「本当に化け物か、こいつ!」


借金取りたちが、明らかに怯えている。

その様子を見て、ヴィクトールとエリザベートも不審そうな顔をした。


「あの男への教育は?見た感じピンピンしてるが」


ヴィクトールが借金取りたちに聞く。


「…ちゃんとしましたよ。家もご覧の通り燃やしましたし、だから報酬はしっかりいただきますよ」


後ろでコソコソ話してる集団に、グレゴールが苛立った様子で割って入る。


「お前たちなにやってる!?俺も忙しいんだ、早く用を済ませるぞ!」


グレゴールが俺を睨みつける。


「アリアはどこだ!約束の時間だぞ!」

「ここにはいない」


俺は椅子に深く腰を下ろし、視線を逸らさずに答える。


「なんだとぉ…?」

「聞こえないか?アリアは、ここにはいない」


グレゴールの顔が、怒りで真っ赤に染まった。


「貴様…隠したな!?昨日の俺の慈悲を忘れたか!この俺の情けを踏みにじるとは許さんぞ!お前ら探せ!」


兵士たちが、周辺を探し始める。

育成院の跡地はもちろん、近所の家も訪ねて回る。

でも、誰もアリアの居場所を知らない。おばさんも、他の近所の人たちも、口を揃えて言った。


「知りませんよ」

「見てません」

「朝からうるさいです!」


「くそっ…!どこにもいないだと…!」


グレゴールが激怒する。


「貴様、どこに隠した!」

「さあな」


俺は椅子に座ったまま、静かに答える。


「とっとと吐かせろ!」


グレゴールの命令で、兵士たちが俺に近づこうとした、その時だった。


ガラガラッ…。


遠くから馬車の音が聞こえてきた。

みんなが、その方向を見る。

豪華な馬車だった。

金色の装飾が施されていて、4頭の白馬が引いている。王宮の紋章が、馬車の側面に描かれていた。


ザッザッ。


馬車が止まる。

扉が開くと、1人の男性が降りてきた。

立派な衣装を身にまとい、王冠を頭に載せている。

その威厳ある姿に、誰もが息を呑んだ。


国王陛下だった。


「へ、陛下…!?」


グレゴールが、驚愕の表情を浮かべる。

他の全員も慌てて膝をつく。


国王陛下は、ゆっくりと育成院の焼け跡を見回した。その目には、怒りが宿っている。

顔は厳しく、眉間に深い皺が刻まれていた。

国王陛下は俺に視線を向けた。


「イクノ・メンだな?」


低く重い声だった。


「説明してくれ。何があった」



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【今回獲得した称号】


称号:「不屈の父」

取得条件:どんな暴力を受けても、家族を守る意志を貫いた


保有称号数:33個 → 34個


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【育児経験値+5獲得】

【育児経験値:81/500 → 86/500】


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本当はこれも27話でまとめたかったのですが、長くなっちゃったので分けました!

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