表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら伝説の育児師になってた件~現代育児知識で異世界の子供たちを最強に育てます~  作者: ならやまわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

24.兄の決意



その日の夕方、俺は育成院に戻った。

玄関のドアを開けると、アリアが駆け寄ってくる。


「ぱぱ、おかえり!」


でも次の瞬間、アリアが固まった。


「…ぱぱ?」

「イクメン、それ…!」


リュクも、俺を見て目を見開く。俺の服はボロボロだった。焼け焦げて血で染まった服。切り裂かれた跡。2人の視線が、俺の服に釘付けになる。


「ぱぱ…こわい…」


アリアの目に涙が滲む。


「イクメン、何があったんだよ!」


リュクが、慌てて近づいてくる。


「大丈夫だ」


俺は、2人を安心させるように微笑む。


「怪我はもう治ってる」

「でも…この服…」

「ああ。ちょっと、色々」

「色々…?」


リュクが驚いた表情を浮かべる。


「クリストファーか?」

「…ああ」


どうせ隠してもいつかバレる。

俺は正直に答えた。


「あいつ!」


リュクの表情が曇る。


「ぱぱ…いたかった?」


アリアが、俺の服をそっと触る。


「痛かったよ。でも、もう大丈夫」


俺はアリアの頭を撫でる。


「イクメン…本当に怪我してないの?」

「ああ。ほら」


俺は、服をめくって見せる。

傷一つない肌が現れた。


「…本当だ」


リュクが安心したように息を吐く。


「でも…ひどい…」


服についた血を触りながら、アリアが心配そうに俺を見上げる。


「俺は、お前たちを守るために強くなったから」


そう言って2人を抱きしめる。


「心配するな」

「…うん」

「ぱぱ、わかった」


2人とも、俺に抱きついてくる。温かい。この温もりはずっと守らなくちゃいけない。

しばらくして俺は服を着替えた。血まみれの服はボロボロだからもう捨てて、新しい服に。アリアとリュクはソファに座って待っている。


「ぱぱ」

「ん?」

「クリスって人…悪い人?」


アリアが不安そうに聞く。


「んー。悪い人…ではない」


俺はゆっくり答える。


「アリアには難しいと思うけど、アイツは苦しんでる人なんだ」

「くるしんでる?」

「クリストファーが、苦しんでるの…?」


リュクが呟く。


「ああ。母親を失って、心が壊れちゃったんだ」


2人とも何かに気づいたのか、黙り込む。


「でも、今日少し変わった。泣いてたんだ」

「ないちゃったの?」


アリアが驚いた表情を見せる。


「15歳の男の子が、子供みたいに泣いていた。その涙を見たら放っておけなかった。だから、俺は救うんだ」


俺は2人を見る。


「お前たちも、手伝ってくれるか?」

「…うん」


アリアが頷く。


「俺も手伝うよ」


リュクも頷く。


「ありがとうな」


その後リュクが真剣な顔で俺を見た。


「イクメン」

「ん?どうした」

「やっぱり只者じゃないよな」

「え?」

「だって、普通じゃないもん」


リュクが俺の目をじっと見つめる。


「何度も斬られて…それでも平気なんておかしいよ」

「…特別な体質なんだ」


俺は曖昧に答える。


「すごいな」


リュクが小さく笑う。


「でも、痛いんだろ?」

「ああ。痛いよ」

「だったら…無理するなよ」


リュクが心配そうに言う。


「俺も、もっと強くなる。イクメンを守れるように」

「…ありがとうな」


俺はリュクの頭を撫でた。この子は、本当に優しい。

その夜、2人を寝かせたあと。

俺はリビングで一人考えていた。

アル様の部屋の掃除は大変だっただろうな。

傷は塞がっても、流れた血はそのままだ。

床に。壁に。カーペットに。俺の血が、大量に飛び散っていた。

リリアナは「床はカーペットを取り替えればすむ」と言っていたが、楽な作業ではないだろう。壁の血痕も、拭き取るのは大変だ。

クリストファーの様子を見る限り、多分手伝ってるとは思うが…。

自分が流させた血を拭いている。

それも、一つの償いなのかもしれない。

俺は天井を見上げた。明日も頑張ろう。





3日後、俺は再び王宮を訪れた。今回は、アリアとリュクも連れてきた。

前回のことがあったから、2人は少し緊張している。特にアリアは、俺の服を握りしめたまま離さない。


「大丈夫だ」


俺はアリアとリュクに言う。


「クリストファーは、もう変わってる」

「…本当?」


リュクが、不安そうに聞く。


「ああ。信じてくれ」


馬車が王宮に到着する。リリアナが出迎えてくれた。その表情は、前回よりもずっと明るい。


「イクノ・メン様、アリアちゃん、リュクくん。お待ちしておりました。おはようございます」

「リリアナさん、おはようございます。アル様は…」

「はい。とても元気です」


リリアナが嬉しそうに微笑む。


「それに…クリス様も」

「クリストファーも?」

「はい。あの日から、変わられました」


リリアナの目に涙が滲む。


「お部屋の掃除も、自分から手伝ってくださって…」


ああ、やっぱり。


「アル様のお世話も、見よう見まねで…」


リリアナが、感極まったように言葉を詰まらせる。


「それは…良かったです」


俺は微笑んで言った。


「では、行きましょう。こちらです」


アル様の部屋に入ると、まず目に入ったのは真新しいカーペットだった。前回の血痕は完全に消えている。床も壁も、綺麗に拭き取られていた。


「前より綺麗になってる」


リュクが呟く。


「きれい」


アリアも感心している。

そして、ベッドの横にクリストファーが立っていた。


「…っ」


アリアが、俺の服を握る手に力を込める。リュクも身構える。

でも、クリストファーの表情は前回とは違っていた。鋭い目つきは変わらないが、そこには敵意がない。代わりに、戸惑いと…何か別の感情が混ざっている。


「…来たのか」


クリストファーが、小さく呟く。


「もちろん」


俺はクリストファーに近づく。


「アル様の様子を見にきた。まだ完全には治ってないからな」

「…そうか」


クリストファーが目を逸らす。


「その…すまなかった」


小さな声で言う。


「前回は…お前を…」

「もういい」


俺はクリストファーの肩を叩く。


「それより、掃除を手伝ってくれたんだってな」

「え?…ああ。当然のことだ」


クリストファーが頷く。


「リリアナが大変そうだったからな。それに…俺が流させた血だし…」


その言葉に、俺は胸が温かくなった。

この子は変わり始めている。


「ありがとうな」

「…別に」


クリストファーがそっぽを向く。

でも、その耳が少し赤くなっているのが見えた。


「あうあう!」


ベッドの上で、アル様が声を出す。


「おはよう、アル様」


俺はアル様を抱き上げた。


「えへへ」


アル様が腕の中で飛び跳ねながら、嬉しそうに笑う。


「おお!凄い元気ですね」

「はい。クリス様が、夜中に泣いたら抱っこしてくださったりして…常に誰かが構ってるかんじですので、多分喜ばれてます」


リリアナが感動したように言う。


「…い、言うな」


クリストファーが顔を赤くする。


「夜中に?」

「はい。アル様が泣き出したら、すぐに駆けつけてくださって。最初は、どうしていいかわからない様子でしたが…」


リリアナが微笑む。


「一生懸命、あやしてくださいました」


俺はクリストファーを見る。

クリストファーは、恥ずかしそうに俯いていた。


「やるじゃないか、クリストファー。夜中にあやすのは大人でもキツい。愛がないとできないことだ」

「…うるさい」

「本当に、よくやった」


俺はもう一度、クリストファーの肩を叩く。


「お前は…いい兄だ」

「…っ」


クリストファーの目に涙が滲む。


「俺は…兄なのか…」

「ああ。前も言っただろ?」

「本当に…?」

「お前は、アル様の兄だ」


クリストファーが、アル様を見つめる。

小さな弟。病弱だった弟。でも、今は笑っている。


「…そうか…そうだよな」


クリストファーが、小さく笑った。

初めて見る本当の笑顔だった。

それから、俺はアル様のチェックをした。

クリストファーも、横で見ている。


「クリストファー。今日は、お腹のマッサージを教えるから見ててくれ」

「マッサージ?」

「ああ。赤ちゃんは、お腹にガスが溜まりやすいんだ」


俺はアル様のお腹を優しくさする。


「こうやって、時計回りに…円を描くようにマッサージするんだ」


俺は実演して見せる。


「…こうか?」


クリストファーが恐る恐る真似をする。ぎこちない。でも優しい手つきだった。


「あう…」


アル様が、気持ちよさそうにしている。


「いいぞ。そのまま続けて」

「…あ、ああ」


クリストファーが真剣な表情でマッサージを続ける。その姿を見て、リリアナが涙を流している。

アリアとリュクも、驚いたように見つめている。あの怖いクリストファーが、こんなに優しく弟の世話をしている。


「くりすとふぁ、やさしいね」


アリアが小さく呟く。


「…うん。前とは大違いだ」


リュクも隣で頷いていた。


「イクメン。アイツ変わったんだな」

「ああ。人は、変われる」


俺は2人に言った。


「どんなに壊れていても、救えるんだ」


それから、しばらくクリストファーに育児を教えた。授乳の仕方。ゲップの出させ方。オムツの替え方。

クリストファーは真剣に聞いている。メモも取っている。


「アイツ覚えがいいな。俺あんな一気に覚えれないよ」


リュクが感心したように呟く。


「今までは方向が間違ってただけで、努力家なんだよ」

「…そっか」


リュクがクリストファーを見つめる。その目には、もう敵意はない。

俺とリュクが見ているのに気がついたのか、クリストファーが歩いてくる。


「イクノ・メン」

「ん?」

「…ありがとう」


クリストファーが小さな声で言う。


「いや」


俺は微笑む。


「お前が、自分で変わったんだ」

「…」


クリストファーが小さく笑う。


「これからも、いつでも来てくれ」

「ああ。また来る」


それから俺たちは帰る支度をして、アル様の部屋を出た。リリアナとアル様、クリストファーも見送りに来てくれるそうで、みんなで王宮の廊下を歩いている。

すると突然、天井から黒い影が飛び降りてきた。


ザッ!


「お命貰いますよぉ!」


黒装束に身を包み、手には短剣。もしかして暗殺者?狙いは、リリアナが抱えているアル様に向けられていた。


「危ない!リリアナさん!!!」


俺が叫ぶ。

でも、距離がある。間に合うか!?

駆け出した、その瞬間――。


「させるか!」


クリストファーが、アル様とリリアナの前に飛び出した。


ザシュッ!


短剣がクリストファーの肩を斬る。


「ぐっ…!」


血が飛び散る。

でも、クリストファーは怯まなかった。


「弟に…手を出すなあああ!!!」


その目には、迷いがなかった。

守るべきものが、はっきりと見えているようだ。


蒼焔剣アズライト・ブレイザー!」


クリストファーの剣が、青い炎に包まれる。

灼熱の刃。炎が激しく揺らめく。 


「なっ…!」


暗殺者が後退する。

だが遅かった。


ズバァッ!


一閃。クリストファーの剣が閃光のように走る。

暗殺者の腕が切断されて、床に転がった。


ドサッ。


「うぐぁぁ!!!」


暗殺者がうずくまりながら、床に倒れ込む。

気がつくとクリストファーの剣が、暗殺者の首筋に突きつけられていた。


「動くな」


冷たい声。完璧な制圧だった。クリストファーの剣技は、前回俺に向けられた時よりも遥かに鋭く、無駄がなかった。


「すごい、かっこよかった!」


アリアが目を輝かせる。

リュクも驚いたように拍手した。


「あんな動き…凄すぎる」


2人とも、クリストファーを尊敬の眼差しで見つめている。俺もクリストファーの動きを見ていた。弟とリリアナを守りたい、その決意が剣に宿っていた。


「クリストファー」


俺はクリストファーに近づく。


「怪我は大丈夫か?」

「…この前のお前に比べたら軽い」


クリストファーが、少し笑いながら肩を押さえる。

血は出ているが浅い傷だ。

すぐに治療すれば問題ないだろう。

クリストファーは、拘束した暗殺者を衛兵に引き渡した。その動きは堂々としていて、王族としての威厳があった。

俺はリリアナを見る。

リリアナは、震えながらアル様を抱きしめていた。


「リリアナさん。アル様も無事でよかったです」

「はい…クリス様がいなければ今ごろ…」

「でもこれで分かりましたね」

「何がですか?」

「しばらく、俺が来なくても大丈夫そうだ」

「え…?」


リリアナが、驚いたように俺を見る。


「クリストファーに、安心して任せられます」


俺は微笑む。


「あの子は、もうアル様を守れる」

「イクノ・メン様…」


リリアナの目に、涙が溢れる。


「でも、何かあったらすぐ手紙を飛ばしてください。駆けつけますから」

「はい…ありがとうございます…」


リリアナが深く頭を下げた。

衛兵に手当てを受けたクリストファーが、俺のところに戻って来た。


「イクノ・メン」

「ん?どうしたクリストファー」

「…俺はもう大丈夫だ」

「ああ」

「この先も、何があろうと…弟を守る」

「頼んだぞ、お兄ちゃん」


俺はクリストファーの手を握る。


「お前なら、できる」

「…ああ」


クリストファーが力強く頷いた。

その目には、もう迷いも不安もなかった。

ただ、守るという決意だけがそこにあった。

 

帰りの馬車の中。

アリアとリュクが、興奮気味に話していた。


「クリスかっこよかった!」

「ああ。あの動き、鳥肌立ったぜ」


リュクが感心したように言う。


「ぱぱ、もうあかちゃんのところ、いかないの?」


アリアが何か感じ取ったのか、少し寂しそうに聞いてくる。この子は鋭いな。


「また何かあったら行くよ。でもクリストファーとリリアナさんがいるから、しばらくは大丈夫だろう」


俺は2人を見る。


「まあ…会いに行くのは減るが、これは悲しいことじゃない。アル様にとって良いことなんだよ」

「…んー、そうなの?」


アリアが首を傾げる。


「ちょっとさみしいね」

「そうだな。でも俺は嬉しいよ」

「うれしい?」

「アリアには少し難しいかもしれないな」


そう言って俺は微笑んだ。




 

翌日、いつも通り育成院は賑やかだった。


「イクメン先生、見て見て!」

「おお、すごいな!」


子供たちの笑い声。

保護者の感謝の言葉。

日常は変わらず続いていく。


夜、俺はリビングで一人考えていた。

クリストファーは変わった。

自分の力で弟を守った。

暗殺者を撃退した時の動き、迷いのない剣技、守るという決意。すべてが、本物だった。

完全に救えたわけじゃない。

まだまだ時間はかかるだろう。

心の傷は多分…簡単には治らない。

この先も、数々の困難が立ち塞がるはずだ。

でもクリストファーは、自分で歩いていける。

弟を守り、兄として生きていける。


あそこでの俺の役目は、ここまでだ。

これからは、育成院の子供たちに集中しよう。

アリアも、リュクも、他の子供たちも。

まだまだやることはたくさんある。

俺は拳を握った。

すべての子供たちのために、明日も、頑張ろう。


-----


【今回獲得した称号】


称号:「変革の導き手」

取得条件:心を閉ざした子供を変化へと導き、新しい道を示した

保有称号数:28個 → 29個


称号:「兄弟の絆」

取得条件:兄弟の関係を修復し、愛情を取り戻させた

保有称号数:29個 → 30個


称号:「希望の光」

取得条件:絶望の中にいた者に希望を与え、未来を照らした

保有称号数:30個 → 31個


【育児経験値+12獲得】

【育児経験値:61/500 → 73/500】

【称号30個達成!】


追加効果付加が発動しました!


保有称号:31個

次回の付加条件:称号50個以上

-----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ