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19.忙しくも幸せな日々


会場から帰宅した俺たちは、疲れ切っていた。

――いや正確には、俺以外が。


「ぱぱ…つかれた…」


アリアが俺の腕の中でウトウトしている。

小さな体が、ぐったりと力を抜いていた。


「イクメン…今日は、すごかったな…」


リュクも歩きながら眠そうだ。足取りが、いつもより重い。


「ああ。お前たち、よく頑張った」


本当に、よく頑張ってくれた。

レオナルドの魔法を前にしても、怯まなかった。


俺は2人を寝室に連れていった。


「さあ、もう寝よう」


「うん…おやすみ、ぱぱ…」


「おやすみ、イクメン…」


2人とも、ベッドに入るとすぐに寝息を立て始めた。


俺は2人の寝顔を見つめる。


今日は本当に大変な一日だった。

レオナルドの暴走、あの紅蓮弾の雨。


2人とも無事で、本当によかった。


「おやすみ」


俺は静かに部屋を出た。



リビングに戻ると、俺は一人でソファに座った。


ふう、と息を吐く。

少し疲れたな。いや、疲れたというより…緊張が解けた感じだ。


レオナルドの魔法で死ぬことはなかったが、体はボロボロだ。

服は焼け、火傷もまだ痛む。


ふと、ステータス画面を開いた。


視界に文字が浮かび上がる。



【イクノ・メン】

育児師 Lv.5



…レベルアップしてる。

Lv.4からLv.5に上がっていた。いつの間に? 対決の最中は気がつかなかった。


【育児経験値:28 / 500】


ペルカとの対決で大量の経験値を得たのか。

あれだけの大舞台だったからな。


そして――。


【未振り分けステータスポイント:+100】



100ポイント。


俺は迷わず、体力に全振りした。


【体力:155 → 255】


瞬間、体が熱くなった。

そして――さっきまでの痛みが嘘のように消えた。


火傷の水ぶくれも、みるみる消えていく。

皮膚が、元通りになっていく。


すごい効果だな。

俺は自分の腕を見つめた。真っ赤だった皮膚が、今は何事もなかったように。


体力255。

おそらく、その辺のモンスターの相手をしても死なないくらいには強くなったはずだ。


俺は満足して頷いた。



その時、ふと思いついた。


そういえば――ヘルプ機能を使ったことがなかった。

転生特典の一つ。確か、システムの説明をしてくれるはずだ。


「ヘルプ」


心の中で呼びかける。


パッ。


光が弾けた。

小人サイズの天使が、目の前に現れた。


茶髪の可愛らしい姿。小さな羽。ふわふわした雰囲気。

これが、ヘルプちゃんか。


「イク様、お呼びですか?」


声も可愛らしい。子供みたいな、高い声。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ」


「なんでしょう?」


ヘルプちゃんが首を傾げる。


「この体力のステータスだと、どんな感じなんだ?」


「体力255ですね。えっと…調べますね!」


ヘルプちゃんが、空中に何かを書くような仕草をする。

まるで見えない画面を操作しているようだ。


「わあ…すごいですね、イク様!」


「何がすごいんだ?」


「体力255だと――」


ヘルプちゃんが指を折りながら説明する。


「まず、睡眠不要です!」


「睡眠不要?」


「はい! 寝なくても活動できます! 体力が自動で回復し続けるので、睡眠が必要ないんです!」


マジか。それは…すごい。いや、すごすぎる。


「それから、病気になりません!」


「病気に?」


「はい! 免疫力がMAXです! 前世でいう風邪やインフルエンザみたいなウイルスも、何でも跳ね返します!」


「それはありがたいな」


育児師にとって、病気は大敵だ。子供に移したら大変だから。


「疲労回復速度もMAXです! どんなに動いても、すぐ回復します!」


「すごいな。人間じゃないみたいだ」


「怪我の治りも早いです! 骨折も少し経てば治ります!」


「…もはや人じゃないな、俺」


「毒や状態異常にも、ほぼ無効です!」


「ほぼ?」


「神様レベルの毒なら効くかもしれません。でも、この世界にはそんなものないので、実質無敵です!」


「なるほど」


「あと…寿命が延びます!」


「寿命?」


「はい! 推定200歳まで生きられます! 老衰に限りますが!」


200歳…?

俺は驚いた。この世界では、200歳まで生きられる?


そんなに長く生きたくもないが…まあ、せっかく貰った命だ。大切に使わせてもらおう。


「すごいですね、イク様!」


ヘルプちゃんが嬉しそうに言う。


「ああ…すごいな」


とりあえず、体力に全振りして正解だった。


「でも、イク様」


ヘルプちゃんが、少し困ったような顔をする。


「…どうした?」


「これ以上体力を上げても、もう効果は薄いです」


「そうなのか?」


「はい。体力300でも、体力255とほとんど変わりません」


「なるほど」


つまり、もう限界ってことか。


「次のレベルアップでは、筋力や知力、精神力に振ることをおすすめします」


「わかった」


俺は頷いた。


「ありがとう、ヘルプちゃん」


「いえいえ! いつでも呼んでくださいね、イク様!」


パッ。


ヘルプちゃんが、光と共に消えた。


――体力信者、卒業か。


俺は少し残念だった。体力に全振りするのが、楽しかったから。

次からは他のステータスも考えよう。



それから数週間が経った。

俺の育成院は、毎日大忙しだった。



「イクメンさん! うちの子を預けたいんです!」

「お願いします!」

「イクメンさんなら安心して預けられます!」



朝から預かり依頼が殺到する。


理由は簡単だ。

協会が対決の結果を公表したからだ。


「生身で紅蓮弾を受け止めた育児師」

「2歳児を歴史的天才に育てた」

「平凡な子を短期間で成長させた」


街中で、俺の名前が話題になっていた。

噂は瞬く間に広がり、依頼は日に日に増えていった。


俺はできる限り受け入れた。



朝7時。


「おはようございます!」


5人の子供を預かる。

午前中は全員で一緒に遊ぶ。魔法を教える。運動をする。


「イクメン先生、見て見て!」

「おお、上手だな!」


子供たちの笑顔が、育成院に溢れていた。


昼。

人数ぶんの昼食を作る。【必要食ナリッシュ】のおかげで、食材には困らない。


「いただきまーす!」

「おいしい!」


みんな、モリモリ食べる。


午後。

さらに5人預かる。合計10人。


「わあ、いっぱいいる!」

「一緒に遊ぼう!」


子供たちは楽しそうだ。年齢も性格もバラバラだが、みんな仲良く遊んでいる。


夕方。

保護者が迎えに来る。


「ありがとうございました!」

「うちの子、すごく楽しかったみたいです!」

「またお願いします!」


感謝の言葉を聞くたびに、この仕事をやっててよかったと思う。


夜。

アリアとリュクの訓練。


「アリア、光の玉5つ出してみよう」

「うん!」

「リュク、腕立て50回できるか?」

「おう!」


2人とも、日に日に成長している。


深夜。

片付けをしながら翌日の準備をする。


普通なら倒れてるな。

俺は笑った。でも、全く疲れていない。


体力255の恩恵。睡眠不要。疲労回復速度MAX。しかも病気にならない。


――楽しいな。


子供たちの笑顔が、俺の活力だ。



忙しくても、アリアとリュクとの時間だけは譲れない。

朝食は必ず3人で食べる。


「ぱぱ、今日もいっぱい?」


アリアが聞いてくる。


「ああ、今日も10人預かる」


「すごい! ぱぱ、つかれない?」


「全然疲れないぞ」


本当に疲れない。むしろ、もっと預かれる気がする。


「えへへ、ぱぱすごい!」


「イクメン、大丈夫? 無理しないでよ」


リュクが心配そうに言う。


「大丈夫だ。お前たちがいるから、頑張れる」


本当にそうだ。

この2人がいるから、俺は頑張れる。


夜。

訓練の時間。


「アリア、今日は光の玉を6つ出してみよう」

「むっつ!?」

「できるか?」

「…やってみる!」


アリアが集中する。小さな顔が真剣そのもの。


パッ、パッ、パッ…。

1つ、2つ、3つ、4つ、5つ…。

そして――。


「…できた!」


6つ目の光の玉が、アリアの後ろに浮かんだ。


「すごいぞ、アリア!」

「やったー!」


アリアが飛び跳ねて喜ぶ。


「リュク、腕立て50回いけそうか?」

「うん!」


リュクが腕立て伏せを始める。


1、2、3…。

力強い。フォームも綺麗だ。


「50!」

「よくやった!」


「だいぶ慣れてきたよ。それよりイクメン、この前買ってくれた新しい木剣…最高だよ!」


リュクが嬉しそうに木剣を見る。

レオナルドに壊された日に、新しいものを買ってあげたのだ。


「壊れかけたらすぐ言ってくれ。ケガしたら危ないからな」


「うん!」


それから寝る前の準備をして、2人の寝かしつけをする。


「ぱぱ、だいすき」

「俺もイクメンのこと、好きだよ」


「ありがとうな。俺もお前たちが大好きだ」


この時間が、一番幸せだ。



ある日の朝。

いつものように郵便受けを確認した。


「今日も依頼が…ん?」


一通の手紙が、目に留まった。

高級な紙。金の封蝋。明らかに他の手紙とは格が違う。


これは…。


俺は手紙を手に取った。差出人の欄を見る。


――王宮?


俺は封を開けた。



【イクノ・メン殿】


あなたの育児の評判を聞き及びました。

つきましては、第二王子殿下の育児を依頼したく存じます。

詳細につきましては、後日お伺いいたします。


王宮執務官 バルドリック



第二王子…。


俺は手紙を見つめた。

王子の育児を依頼されてしまった。これは…今までで一番の大きな仕事だ。


どうするか。

俺は少し考えた。


でも、すぐに答えは出た。


――受けよう。


子供を笑顔にするのが、俺の仕事だ。

王子だろうが、庶民だろうが、関係ない。


よし。


俺は手紙をテーブルに置いた。

新しい挑戦だな。


「ぱぱ、おはよー!」

「おはよう、イクメン」


アリアとリュクが起きてきた。


「ああ、おはよう」

俺は笑顔で2人を迎えた。


「朝ごはん、作るぞ」

「やったー!」

「うん!」


今日も忙しい一日が始まる。

でも、この忙しさが、俺は好きだ。


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