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転生したら伝説の育児師になってた件~現代育児知識で異世界の子供たちを最強に育てます~  作者: ならやまわ


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18.守ったもの


目の前の煙が、ゆっくりと晴れていく。

俺は気合いでなんとか立っていた。

服はボロボロになって、吹き飛んでしまった。

自分の体を確認する。

動く…。所々、火傷もあるが全然歩けそうだ。

レオナルドのあの魔法。

本来なら、あれだけ食らえば死んでるはずだ。

何発もの紅蓮弾ファイアボールを、生身で受けたんだから。


この前ステータスを振ったおかげか?

体力155。

レベルアップ時に、全振りしたのが功をなしたか。

もし振っていなければ、死んでいただろう。

アリアも、リュクも守れなかったはずだ。


「ぱぱ…」


アリアが屈みながら、俺を見上げていた。

見たところ無傷だ。

ホッとした俺は優しくアリアに微笑んだ。


「心配ない。大丈夫だぞアリア」


すると、審査員たちが呟き始めた。


「…我々は今、何を見た?当たれば炭になるレベルの魔法を、生身で受けてなかったか?」


「見間違いではない。確実に当たっていたぞ」


「生身で5発も。しかもあの威力の紅蓮弾ファイアボールを…」


ざわざわ…と。

会場が騒然とする。

全員絶句しているようだ。

離れた場所でリュクも、目を点にして俺を見つめていた。


「…リュク、アリアを頼む」


「う、うん!」


リュクが戸惑いながら、駆け寄ってくる。

俺はレオナルドに視線を向けた。

あいつはアリアに手を出した。それを庇おうとしたリュクだって、一歩間違えば怪我をしていただろう。

許せない、例え子どもだとしても。

俺は無言で歩き出した。

ゆっくりと確実に…レオナルドに向かって。


ーーーレオナルドが、後退する。


「お、おかしいだろ!どんなズルをした!?」


一目顔を見たら分かった。

恐怖と混乱が滲み出ている。

そして血迷ったのか、性懲りもなく…。


紅蓮弾ファイアボール!」


パッ!


炎の球が、生成される。


バシュ!


俺に命中する。


「…」


痛みが走る。

だが止まる気はなかった。

気が済むまで、撃ちこんでこい。

死んでも止まるか。


バシュ!バシュ!


さらに紅蓮弾ファイアボールが飛んでくる。

何度も言うが痛みはある。

焼けるたびに、皮膚が悲鳴を上げている。

だが足は止めない。

俺はレオナルドに近づいていく。


「なぜだ!なんで効かない!?」


レオナルドが叫ぶ。


バシュ!バシュ!バシュ!


さらに撃ってくる。

一歩、また一歩。

確実に、レオナルドに近づいていく。


「と、止まりなさい!イクノ・メン!」


見かねたペルカが、俺とレオナルドの間に立った。

だからなんだ?その程度で、俺を止められると思ってるのだろうか?…でもちょうどいい、言いたいこともある。ペルカを睨みつけながら、俺は口を開いた。


「…どんな教育をしているんですか」


自分でも驚くほど、低く冷たい声が出た。


「…っ」


ペルカは怯えてるのか、みるみる顔が青ざめていく。


「あ…あの…」


震える声。


「イクノ・メン…1度止まって…」


「どんな教育をしたら、子供が子供を殺そうとするんですか」


「…っ」


ペルカの腰が抜けた。

ペタンと座り込む。


「あ…ああ…」


俺はさらに前進した。

ペルカを跨いで、レオナルドに近づく。

レオナルドは剣に手をかけた。


「貴様!俺を誰だと…!」


震える手が、剣に触れては離れる。


「来るな…来るなら切るぞ!」

「俺の家族に」


レオナルドの言葉を遮りながら、近づく。


「手を出したな?」


もう一歩。


「子供だろうが…」


さらに一歩。


「許さない…!」


「ひっ…」


レオナルドが後退する。

剣を抜こうとするが、汗で手が滑るのか抜けずにいた。俺は瞬きをするのをやめて、ただ睨み続ける。


「やめ…やめてくれ…」


じわり…。レオナルドの股から染みが広がる。

おしっこを漏らしてしまったようだ。


「うう…ああああああああ…っ!」


遂にレオナルドが泣き出した。

12歳の少年の、子供のような年相応の泣き声だ。


会場が静まり返る。

誰も何も言わない。

俺はレオナルドの前で止まった。

無言でずっと見下ろす。

レオナルドは、泣きながら震えている。


「…はあ」


俺は深呼吸した。

怒りが少しずつ冷めていく。

…今、何をしようとしていた。

大の大人が子供を怖がらせて?

ジワジワと自己嫌悪が、湧いてくる。


「…イクノ・メン殿」


一部始終を見ていた審査員達が、話しかけてくる。


「我々が見たものは…レオナルド様による、2歳児への殺人未遂。そして、イクノ・メン殿とリュクくんによる、命がけの防御」


「イクノ・メン殿は、生身で何発も紅蓮弾ファイアボールを受け止めた。アリアちゃんを守るためにリュクくんも、木剣で2発も防いだ。あの威力の魔法をです」


審査員たちが次々と立ち上がる。


「イクノ・メン殿。あなたは育児師の模範です。子供を守るために、自分の命を投げ出した」


「これこそが育児師の鑑です!」


パチパチパチ…!


どこからともなく、拍手が湧き上がる。


「そしてリュクくん」


別の審査員が、リュクに視線を向けた。


「魔力値45で、あの威力の紅蓮弾ファイアボールを2発も防ぐとは…しかも木剣で。通常、魔力値150以上ないと不可能な技術。それを、君は根性だけで成し遂げた」


他の審査員達も同意する。


「うむ。そして、それを可能にしたのは、イクノ・メン殿の育児の成果でしょう」


リュクが呆然としていた。


「お、俺が…評価されてる…?」


「ああ」


俺はリュクの肩に手を置くと、笑顔で頷いた。


「俺より反応が早かったぞ。よくアリアを守ってくれた…ありがとう」


ーーー審査員の一人が、ペルカを見た。


「ペルカ殿」


ペルカが、震えながら顔を上げる。


「あなたの育てたレオナルド様は、2歳児に本気の殺意を向けた。いくらあなたに数々の実績があろうとも…これは、育児の失敗としか言えません。」


「…」


ペルカは何も言えない。


「厳しい言葉ですが。今回のあなたの育児は間違っていました。結果だけを求め、教え子の心を無視した。その結果がこれです」


皆が泣き崩れるレオナルドを見る。


「2歳児を襲った12歳の少年が、泣いている。恐怖で、失禁している。これが、あなたの育児の結果です…」


ペルカの顔が青ざめる。


「そんな…私は…10年間…完璧に…」


貫禄のある審査員が、首を振った。


「完璧な育児とは、指導者の自己満足な結果ではありません。…レオナルド様は、あなたといる時、笑っていましたか?」


「…っ」


ペルカは、何も言えなかった。 


「今回の対決」


審査員の代表が宣言する。


「結果は…イクノ・メン殿の圧勝です。アリアちゃんの才能、リュクくんの成長、そしてイクノ・メン殿の献身。全てが、我々の予想を超えていました」


「特にリュクくん」


審査員がリュクを見る。


「3ヶ月で魔法を打ち返す域に達したとは、見事です。今後も慢心することなく、さらなる高みを目指してください。我々は応援してます」


「これは、才能ではありません。適切な育児と、努力の賜物です。イクノ・メン殿は、証明しました!才能がなくても、子供は成長できると」


リュクが涙を流した。


「俺…初めて誰かに、認められた…」


審査員たちが、さらに拍手を送る。


「それに対し…」


審査員たちがペルカを見る。


「ペルカ殿の育児は、確かにレベルの高いものでした。しかし、子供はそれに耐えられていません。レオナルド様は、笑顔を失い…人を傷つけることを、躊躇しなくなった。もはやこれは、育児ではありません」


「ペルカ殿。あなたには、育児師資格の一時停止処分を科します」


「…っ」


ペルカは顔面蒼白になって、たじろいた。


「期間は6ヶ月。その間に、育児とは何かを学び直してください。そして、レオナルド様を…」


「笑顔にしてあげてください」


ペルカが崩れ落ちた。


「私の…10年が…私の育児が…ぁぁぁあああ!!!」


俺はペルカに近づいた。


「ペルカさん」


ペルカが顔を上げる。


「あなたの育児は、間違っていた」


「…」


「でも、まだ遅くない」


俺は手を差し伸べた。


「レオナルドを、笑顔にしてあげてください。子供らしく育てることも、育児師の仕事です」


ペルカは俺の手を見つめた。


「…なぜ。なぜ、私に優しくするんですか?私は、あなたを…」


俺は笑顔で答えた。


「同じ育児師仲間だからですよ」


「…っ」


ペルカは涙を流した。


「ありがとう…ございます…」


次に俺は、レオナルドに向き直った。

レオナルドは、震えながら見上げている。


「レオナルド」


「…っ」


「お前は悪くない」


「え…?」


「お前は、大人に壊された被害者だ。まだいくらでもやりなおせる」


レオナルド前で膝をついて、目線を合わせる。


「お前、笑いたいか?」


「…っ」


レオナルドは、涙を流した。


「笑いたい…楽しく…訓練したい!友達と…遊びたい…」


本音が溢れる。


「なら、たまに俺のところに来い」


「え…?」


「俺がお前を笑顔にしてやる」


「でも…俺は…お前たちに…」


「気にするな」


俺は笑顔で言った。


「子供は、間違える生き物だ。大事なのは、そこから学ぶこと」


俺はアリアとリュクを見た。


「あいつらを見てみろ」


レオナルドが視線を向ける。


アリアとリュクは、お互いを励まし合っている。

リュクが、アリアの頭を撫でている。

アリアが、笑顔で笑っている。


「笑ったほうが、笑わない人生より楽しくなるんじゃないか?」


「…っ」


レオナルドは黙って見つめている。


「…でも、俺は王族生まれだぞ。庶民と王族は違うんだ…」


レオナルドが呟いた。


「責任がある。楽しむなんて…許されないだろ」


その声には迷いがあった。

きっと本当は楽しみたい。

本当は笑いたい。

その想いが、透けて見える。


「そうか」


俺は否定しなかった。


「じゃあ、王族として笑えばいい」


「…え?」


「責任を果たしながらでも、笑うことはできる。楽しみながら、強くなることもできる。それが、本当の強さじゃないか?」


レオナルドは俺を見つめた。


「…考えさせてください」


震える声。


「ああ。いつでも待ってる」


俺は立ち上がると、アリアとリュクの元へ戻った。


「ぱぱ…」


アリアが泣いている。


「こわかった…」


俺はアリアを抱きしめた。


「ごめんな、怖い思いをさせて」


「ぱぱ…だいすき…」


「俺も、大好きだよ」


「イクメン…俺…」


リュクが震える声で言う。


「リュク、よくやった」


俺はリュクの頭を優しく撫でた。


「ありがとう…イクメン…」



ーーー審査員達は、その光景を静かに見守っていた。


「…これが、育児か」


「ああ…」


「イクノ・メン殿は…本物だ」


「子供だけでなく、大人も変えた」


会場には、静かな感動が広がっていた。


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