10.加護と新たな決意
リュクを引き取ってから、数日が経った。
その夜、アリアとリュクを寝かしつけた後、俺はステータスを確認した。
「称号…7個か」
そういえば、リュクを引き取った時に7個になっていた。2回目のスキルの付加強化ができる。
俺は、スキルリストを開いた。
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【付加可能なスキル】
必要称号数:7個(現在:7個保有 - 条件達成)
**【育児眼Lv.2】**
▼ 追加効果候補A:範囲拡大
- 効果:同時に2人まで詳細情報を視られる
▼ 追加効果候補B:情報精度向上
- 効果:成長予測の精度上昇、潜在スキル候補表示
▼ 追加効果候補C:常時簡易表示
- 効果:視界内の子供全員の簡易情報を常時表示
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**【父の温もり(コンフォート・オーラ)Lv.2】**
▼ 追加効果候補A:範囲拡大
- 効果:半径5m → 半径10m
▼ 追加効果候補C:体調回復
- 効果:軽度の体調不良を緩和
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**【愛情促進Lv.2】**
▼ 追加効果候補A:発動条件緩和
- 効果:必要信頼度 50 → 30
▼ 追加効果候補B:効果強化
- 効果:開花速度 +20% → +35%
▼ 追加効果候補C:守護の加護
- 効果:危機察知・軽微な危険回避能力付与(信頼度70以上で発動)
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次回の付加条件:称号17個以上(現在7個 - あと10個必要)
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「…守護の加護だと?」
俺は、その選択肢を見つめた。
危機察知と軽微な危険回避。
つまり、子供を守る力。
「もし、これを早く付加していたら…」
セラド家の火災。
あれは、数日前のことだ。
もし、守護の加護があれば…。
書いてる通りなら、あの時点ではリュクとの信頼関係はなかったから、発動しなかっただろう。でも分からない。もしかしたらスキルの誤作動で、火災に気づけたかもしれない。リュクの両親を、救えたかもしれない。
「…くそ」
もしも…なんて言っても無駄なのは分かっていた。
でも無意識に考えてしまう。
俺は拳を握りしめていた。
「セラドさん…すまない」
俺は、目を閉じた。
後悔しても、遅い。
もう、セラド夫婦は戻ってこない。
リュクは、両親を失った。
「…でも」
俺は、スキル画面を見つめた。
「これからは、守れる」
リュクを。アリアを。
俺が育てる、全ての子供たちを。
「もう、失わせない」
「二度と、こんな思いはさせない」
俺は、決意を込めて選択した。
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【追加効果付加】
スキル:愛情促進
追加効果:守護の加護
付加しますか? → はい
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【付加完了】
愛情促進に追加効果が付与されました
**守護の加護:危機察知・軽微な危険回避能力付与**
※ 信頼度70以上の子供に発動
保有称号:7個
次回の付加条件:称号17個以上
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【愛情促進Lv.2】
- 効果:信頼度50以上の子供の潜在能力を開花させる
- 開花速度:+20%
- 範囲:信頼関係を築いた子供
- 消費:なし(常時発動)
- 追加効果:守護の加護(信頼度70以上で発動)
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「よし…」
俺は、深くため息をついた。
「リュク、アリア…お前たちを、俺が守る」
「絶対に、守ってみせる」
窓の外を見る。
「セラドさん、約束します。リュクを、必ず幸せにします」
俺は、そう誓った。
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翌朝。
リュクが、自分から起きてきた。
「…おはよう」
小さな声だが、自分から挨拶をした。
「おはよう、リュク」
「…今日も、スープ?」
「いや、今日はおかゆにしてみた」
前世で、娘が体調を崩した時によく作っていた。
消化に良く、温かく、栄養も取れる。
「おかゆ…?」
「うん。お米を柔らかく煮たものだ」
この世界では、パンが主食だ。
お米は高級品で、一般家庭ではあまり食べない。
でも、【必要食】のおかげでお米も出現するようになってからは、定期的に食べれるようになった。
「食べてみるか?」
「…うん」
リュクが、テーブルに座る。
俺が出したおかゆには、卵と野菜が入っている。
リュクはおそるおそる、一口食べてみる。
「…おいしい」
リュクが、小さく言った。
「そうか。良かった」
少しずつでいい。固形物が食べられなくても、おかゆなら食べられる。大事なのは、栄養を取ることと、食事を楽しむこと。
前世でも、子供たちが体調を崩した時は、無理に食べさせなかった。
その子が食べられるものを、工夫して作る。
それが、育児の基本だ。
「ぱぱ、アリアも食べたい!」
アリアが、嬉しそうに言う。
「はいはい、アリアの分もあるぞ」
3人で、朝食を食べる。
リュクは、まだあまり話さない。
でも、少しずつ、心を開き始めている気がした。
◇
午前中、俺はリュクとアリアを連れて、公園に行った。
「リュク、外に出るのは久しぶりだな」
「…うん」
リュクは、火災以来、ほとんど外に出ていなかった。
でも、ずっと家にいるのも良くない。
10歳の子供には、適度な運動が必要だ。
体を動かすことで、心も安定するはず。
運動不足は体だけでなく、心にも悪影響を及ぼす。
「リュクお兄ちゃん、あそぼ!」
アリアが、リュクの手を引っ張る。
「…俺、遊ばない」
「だいじょうぶ!いっしょにあそぼ!」
「だ、大丈夫ってなんだよ…」
アリアは、リュクを遊具のところに連れて行った。
俺は、少し離れたベンチで見守る。
最初、リュクは戸惑っていた。
でも、アリアが楽しそうに遊ぶ姿を見て、少しずつ表情が柔らかくなった。
「リュクお兄ちゃん、見て!」
アリアが、滑り台を滑る。
「…気をつけろよ」
リュクが、小さく言った。
「うん!」
その後、リュクも少しだけ遊具で遊んだ。
ブランコに座って、ゆっくりと揺れる。
風が、リュクの髪を撫でた。
「…気持ちいい」
リュクが、小さく呟いた。
俺は、その姿を見て、安堵した。
少しずつでいい。焦らなくていい。
◇
昼食後、アリアが昼寝をしている間、俺はリュクと話をした。
「リュク、少し話があるんだが」
「…何?」
「これから、どうしたい?」
「…どうって?」
「やりたいこととか、なりたいものとか。そういうのはあったりするか?」
リュクは、黙った。
そして、小さく言った。
「…俺、分からない」
「分からない?」
「ずっと、家で言われてきたんだ。『お前は才能がない』『何をやっても無駄』って」
「…」
「だから、何をしたいかなんて、考えたこともない」
リュクの目が暗い。
俺はリュクの隣に座った。
「リュク、一つ教えてやる」
「…?」
「人間ってのは、いつからでも変われる」
「…でも」
「お前は10歳だ。まだ、これから何にでもなれる」
「…本当に?」
「本当だ」
リュクは少し考えた後に、小さく言った。
「…魔法使いにも?」
「努力すればな」
「…騎士にも?」
「練習すればな」
「…イクメンみたいな、育児師にも?」
「お前が望めばな」
リュクの目から、涙がこぼれた。
…俺は、前世のことを思い出していた。
双子の息子の一人は、勉強が苦手だった。
でも、自分で「医者になりたい」と決めた。
それから寝る間も惜しんで、毎日勉強していた。
壁にぶつかったり苦労はしていた。
だが努力が実り、結果医学部に合格した。
才能じゃない。
夢を叶えるのに必要なのは努力と、意志の強さだと俺は信じている。
「リュク。才能なんて、キッカケにしかすぎないよ」
「…そうなの?」
「ああ。大事なのは、お前が何をしたいか。それだけだ」
リュクは、俺を見た。
「…俺、強くなりたいんだ」
「強く?」
「うん。誰かを、守れる人間になりたい」
リュクの目が、初めて輝いた。
「父さんと母さんを、守れなかった」
「…」
「でも、次は…次は、守りたい」
「リュク…」
「イクメンと、アリアを」
俺はリュクの頭を撫でた。
「分かった。なら、一緒に頑張ろう」
「…本当に?」
「本当だ」
リュクが小さく笑った。
初めて見る、本当の笑顔だった。
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【称号獲得!】
称号:**「二人目の絆」**
取得条件:2人目の子供と深い信頼関係を築いた
保有称号数:7個 → 8個
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その日の夕方から、リュクの訓練が始まった。
「まず、基礎体力をつけよう」
「基礎体力?」
「うん。走る、跳ぶ、投げる。そういう基本的な運動だ」
この世界では、剣術の訓練は5歳から始まる。
リュクはおそらく今まで、そういうのをやってこなかったはずだ。同年代の同じ道を進む子たちとの差を埋めるには、だいぶ頑張らなくてはいけないだろう。
だがリュクならやれるはずだ。
「リュク、まず走ってみよう」
「…うん」
リュクが走り始める。
でも、すぐに息が切れた。
「…っ、はぁ、はぁ…」
「大丈夫、無理しなくていい」
リュクは栄養状態が悪かったせいもあり、体力がない。
「少しずつでいいから、毎日続けよう」
「…うん」
「リュクお兄ちゃん、がんばれ!」
「…おう」
アリアが、応援してくれる。
リュクは、少し恥ずかしそうに笑った。
◇
夜、リュクを寝かしつけた後、俺はまた悪夢を見ないか心配だった。案の定、夜中にリュクが飛び起きた。
「…うわああっ!」
俺はすぐに駆けつけた。
「リュク、大丈夫か?」
「…ひ、火が…」
リュクが震えている。
俺はリュクの隣に座った。
「深呼吸しよう。ゆっくり、息を吸って」
「すー…」
「そして、ゆっくり吐いて」
「はー…」
何度か繰り返すうちに、リュクの震えが収まってきた。
「もう大丈夫か?」
「…うん」
「リュク、怖い夢を見たんだな」
「…うん」
「話してくれるか?」
リュクは、ゆっくりと話し始めた。
火事のこと。両親のこと。怖かったこと。
俺は、黙って聞いた。
「…そうか。本当に怖かったんだな」
「…うん」
「でも、お前は生き延びた」
「…」
「それは、すごいことだ」
リュクの目から、涙がこぼれた。
「…でも、俺だけ」
「お前の両親は、お前に生きて欲しかったんだ」
「…っ」
「だから、お前は生きろ。お前の両親の分まで」
リュクは声を上げて泣いた。
俺は黙ってリュクを抱きしめた。
「泣いていいんだ。我慢しなくていい」
それからリュクは、俺の胸で泣き続けた。
泣いてもいい。泣いた数だけ男は強くなる。
◇
それから数日、同じような日々が続いた。
朝食を一緒に食べて、公園で遊んで、訓練をして、夜は悪夢から救う。毎日、少しずつ。
リュクは、変わっていった。
ある朝、リュクの様子が明らかに変わっていた。
「おはよう、イクメン」
「…おはよう、リュク!」
リュクが、初めて俺の名前を呼んだ。
「今日も訓練する?」
「ああ、もちろんだ」
リュクの目には、昨日までとは違う光があった。
朝食を食べた後、リュクとアリアを連れて一緒に訓練をした。
「リュク、今日は腕立て伏せをやってみよう」
「腕立て伏せ?」
「うん。腕と胸の筋肉を鍛える運動だ」
俺が見本を見せる。
「こうやって、体を下げて、上げるの繰り返しだ」
「…やってみる」
リュクが腕立て伏せを始める。
でも5回で限界だった。
「…っ、きつい」
「大丈夫。最初はそんなもんだ」
「でも…」
「大事なのは、続けることだ」
俺は、リュクの肩に手を置いた。
「今日5回できたなら、来週には10回できる」
「…本当に?」
「本当だ。人間の体は、鍛えれば必ず強くなる」
リュクが真剣な顔で頷いた。
「…頑張る」
「ああ、一緒に頑張ろう」
アリアも横で、何やらやる気になっていた。
一緒に腕立て伏せをしようとしてたのか、見よう見まねでやり始めるが、すぐ転んでしまった。
「あいたー!」
「はは、アリアはまだ早いな」
3人で笑った。
こんな平和な時間。
これが、家族なんだと思った。
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【称号獲得!】
称号:**「家族の形」**
取得条件:血の繋がりを超えた家族の絆を築いた
保有称号数:8個 → 9個
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その日の夕方、一通の手紙が届いていた。
「…ペルカから?」
俺は、手紙を開いた。
『イクノ・メン殿
対決まで残り2ヶ月を切りました。
準備は順調でしょうか?
私が育てている子供は、着実に成長を遂げています。
貴方の育児方針を、拝見するのを楽しみにしております。
ペルカ・シュナイダー』
「…2ヶ月か」
俺は手紙を置いた。
アリアとリュクを見る。
2人とも、笑顔で遊んでいる。
「大丈夫だ」
俺は確信した。
この子たちは、必ず成長する。
才能じゃない。愛情と、努力で。
対決まで、あと2ヶ月。
俺は全力で、この子たちを育てる。
ーーーそう、誓った。




