13.初デート②
それから他愛のないことを話した。
聞いている音楽のことや好きな本とか、部活のこととか。
部活のことを聞いたら、それはやってなくて、小さいころから続けている体操クラブに今でも通っているらしい。
あと、勢いで「彼女さんとか、いるの?」と踏み込んだら「いません」とはにかんで俯いた。よっしゃぁ! と心のなかでガッツポーズ。
幸先いいし呼吸も乱れてない。体温もたぶん安定している。ときおり送られてくる玲夢の心配目線に、笑顔で『大丈夫』の合図を送った。
玲夢たちはハンバーガーではなく、ケイジャン料理のガンボを頼んだらしい。早くもがっついている。
「でも、もてるでしょ。仁は顔もいいしマッチョだし」
「いやぁ、もてるのも善し悪しですよ」
おぉ、否定しないんかい。これ、他の男が言ったらドン引きだけど、仁のビジュアルだと、むしろ自然だ。
「善し悪しって何?」
「寄ってくるのっておとなしい子ばっかりじゃないんで」
「ふぅ~ん、でも寄ってくるってどうやって」
「え、あ、僕小さいころから体操やってた関係でファンクラブがあって」
「体操? ファンクラブぅ?」
訊けば、体操は全日本選手権レベルで、ファンクラブは、大会があると横断幕を作って応援してくれたり、間食の差し入れをしてくれたりするらしい。
「でもお弁当の差し入れはちょっと。怖いし、あと、念のこもった手作りのお守りとかもちょっと遠慮したいですね」
まるで芸能人だ。
あと、仁のファンには、いわゆるギャル系の子もけっこういて、過激な子は、遠征先の宿舎に忍び込もうとするらしい。そういうのの対応は慎重にやらないと、やっかみからギャル派閥の抗争に巻き込まれかねない、とか。
高校生の日常には地雷がたくさん埋まっている。種類は違うとはいえ、危ない道は戸田嶋も通ってきた。なので、別世界でも何となく理解できた。
しゃべっていたらチーズバーガーが運ばれてきた。
「うっわ!」
「すごいでしょ」
戸田嶋が注文したハーフサイズですら相当な迫力だが、仁のパウンドチーズバーガーはもはやプロレスラーサイズだ。
「肉の塊!」
ここのパウンドサイズパテは、普通のパテを何枚も重ねたのではなく、分厚いのの二段重ねだ。なので『肉の塊』という表現は正しい。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
仁が、どうしたらいいかと迷っていたので、戸田嶋は自分のバーガーを包み紙ごと両手で持ち上げてかぶりついた。
自家製のケチャップと肉汁が溶け合って口のなかに溢れ出す。
包み紙から肉汁が滴り落ちる。
目覚めた野性で、ふた口目にかぶりつく衝動を止められない。
口一杯に頬張ったら口角にケチャップが付いたのがわかった。でも、ここでのマナーは、むしろ気にしないことだ。
仁も戸田嶋を真似てハンバーガーにかぶりついた。そして、やはり野性を刺激されたのか、それこそ一心不乱に食べ始めた。
わお! 最高! やっぱり男の子がもりもり食べるのってセクシーだ。
戸田嶋はクラフトコーラでいったん口をリセットした。そして改めて年齢の差を考える。
五歳違い。
別に、このくらいの年の差カップルなんて普通にいる。
ただ、彼がまだ高校生で十七歳っていうのがちょっと特殊なだけ。
いや、だけじゃないか。彼のこと、ほとんど何も知らないのにこういう気持ちになるのって、どうなんだろう。
でもしょうがないよ、魂が引き寄せるんだもの。逆らえっていう方が無理でしょ、と天の摂理に悪態を吐きつつ、気が付いたら、にやにやしながら仁が食べる姿に見入っていた。
視線に気が付いた彼が『え?』という顔で戸田嶋を見上げた。
「あ、ごめんごめん、美味しそうに食べるなぁって思って」
仁は何か言いたそうだったが口のなかが一杯なので言葉にならない。
戸田嶋は、再び自分のハンバーガーに取りかかった。ピクルスの酸味と、何だかわからないスパイスの刺激で、再び食欲が目を覚ました。