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11.恐喝?

 「あのさぁヘタ子、あんたの王子様と一緒にいた彼なんだけど」


 小巻台風の余波に呆然と佇んでいたところを、唐突に現実に戻された。


 「なに」


 「十八歳だって」


 嬉しそうだ。

 たぶんあれだ、十八歳だと淫行にならない。そう言いたいらしい。


 「海斗君はどうすんのよ」


 「んっふん、どうしようかな」


 「二股はやめなよ」


 「それはしない。やられたらヤだし」


 見た目は厳ついが、海斗君は礼儀正しい好青年だ。今は方々の建築現場で経験を積みながら、資格取得のための勉強も始めているらしい。

 仮採用の彼氏というヘンテコな立場に半年以上耐えている健気な子が捨てられるなんて話、聞きたくない。


 それにしても。

 どうして玲夢は年下にもてるんだろう。姉御肌が少年を惹きつけるのだろうか……、羨ましい限りだ。


 「んで、どうすんの、王子様とのデートは」


 「それなんだけどさ、服買うの、付き合ってくれる?」


 「おっほぉ、気合い入ってるのぉオヌシ。うんいいよ。

 あ、そうだ、あの子背ぇ高いからさ、胸の谷間が見えるやつにしなよ」


 「あんたねぇ」

 と腕を組んで無言の抗議。


 戸田嶋の胸は自然に谷間ができるほど大きくない。むしろコンプレックスなのを知ったうえでの提案なのだろう。

 まあ、こういう奴だからこそ一緒に見てもらう価値がある。よって、この件は追求しないことにする。

 とにかく最初のデートだ。

 何としても仁にいい印象を与えないと……。

 戸田嶋はめらめらと燃え始めた自分の下心に、無意識に風を送っていた。



 「戸田嶋先輩、さっそくなんですけど、コンペの件」


 青木がおずおずと話しかけてきた。会話の僅かな隙を待っていたようだ。ということは、当然、話の内容も筒抜け。まあ今さらだが。


 そうだこの際。

 「ねえ青木、あんたT大出なんだって?」


 「そうですけど」

 ほんとなんだ。しかしさらっと言うなぁ。


 「そのさ、T大出てウチに就職って、何で。新卒でしょ、何でウチなんか選んだわけ」


 「御社が取り組まれている、顧客のインサイトを実現する、という夢のあるビジョンに参画させていただきたいと思ったからです。アットホームながらも厳しい環境に身を置くことで自分の可能性を試してみたいと思いました」


 青木が慎ましやかに頭を下げたのと同時に、玲夢が盛大に吹き出した。


 「青木君、それ、まじで小巻主査にやったの」


 「いえ、面接は社長だったんで、小巻主査とは採用が決まってからです」


 「いやぁまあ、君の面接はいいんだけどさ、ほんと、何でウチにしたの。ご両親だって納得しないでしょ」


 「あれ、聞いてませんか」


 「何」


 「僕、前科があるんで」

 前科ぁ? とそれまで会話に参加していなかった飛島先輩までが、隣の部屋で頓狂な声を上げた。


 「あ、すいません間違えました、前科じゃないです不起訴だったから。でもダメなんですよ、僕、書類選考は全部通るんですけど面接が進むと落とされるんです。

 キャリアセンターの先生に聞いたら、不起訴でも捜査対象になると記録が残ってて、大企業は必ずそういうの調べるんで、だから全滅で……」

 最後は暗い声になった。


 お気の毒な事情で空気が重い。

 といって同情できるかというと、そんな単純な話ではない。


 「そう、それでウチに?」


 「はい、御子柴(みこしば)社長は過去を承知のうえで拾ってくださって」


 「そうなんだ」


 御子柴が社長を務めるアパレル会社、御子柴ワイズは、ワイズデザインの親会社だ。

 社長自ら海外に出向いて集めてくる服飾品はセンスが独特で、普通の感覚だと、こんな派手な服いつ着るの? と首を捻るのだが、それがなぜか、オバ様方に飛ぶように売れる。


 去年はイタリアの小さなファッションブランドと独占販売の契約を交わして王道路線にも手を広げたのだが、どうやら苦戦しているらしい。


 我らが小巻主査は、この御子柴(みこしば)ワイズで財務を担当していたという。

 今では信じられないが、当時は堅物だったという小巻主査は、業務上の責任として、社長の杜撰(ずさん)な金銭感覚を(とが)めた。

 怒った社長は、ちょっと前まで愛人を住まわせていたマンションに子会社を設立、というのも凄いが、そこで成功すれば一国一城の主、失敗したら路頭に迷え! という戦国大名さながらの手に打って出た。


 経営責任者なのに主査、という摩訶不思議な役職名は、御子柴ワイズで、鬼も裸足で逃げ出すという内部監査チームを率いていたときの名残だ。


 それはそれとして。


 やっぱり聞いてみたい。

 というかここは訊かないと!

 戸田嶋は勇気を出して青木に(ただ)した。


 「ねえ、君はいったい何をやったの」


 「恐喝です」


 その場にいた全員が、再び「恐喝ぅ?」と声を揃えたのは、いうまでもない。


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