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10/15

10.あたしが主任って、何で?

 「で、どんな感じだった? 店は」

 小巻主査は堂々の十一時出勤で現れると「お早う」でも「お疲れさま」でもなく、やにわにそう聞いてきた。グルーヴハウスの視察の件だろう。


 「どうって……、ぶっ飛んでました」


 小巻主査はハーフトーンのサングラスを指で押し下げて睨んできた。


 「あなた、もうちょっとボキャブラリー増やしなさいよ」


 どんな感じ? なんて訊いてくるあなたのレベルに合わせただけなんですけど。

 でもそう言うんなら、

 「まあ、なんていうか? 予定調和を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌い存在神秘を宇宙と調和させるためなら現実回避のアプローチも(いと)わないっていう挑戦の跡がありありと見えるお店でした」


 「なに言ってっかわかんないわよ」


 まじめに答えたんですけど……。


 「要するに普通のことが嫌いで、ちょっと毒のあるユニークなアイディアをおしゃれに実現してるお店です」


 「最初っからそう言いなさいよ」


 「言ってるじゃないですか」


 「まあいいわ、梨田も一緒だったんでしょ、経費で落とすから申請しといて」


 「え、まじですか」


 「そおよぉ、優しいとこあるでしょ、わたしにも」


 戸田嶋(へたしま)は思わず頭に手をやり、深い溜め息をひとつ。だって領収書どころかレシートすら残ってない。


 「でさぁ戸田嶋。この案件はあんたを主任にするから、頼むね」 


 「え」


 「えじゃないでしょ、わォとかいえィとかもっと喜びの表現はないわけ」


 「あたし、ショップデザインなんてやったことないです」


 「ショップデザインじゃないでしょ。……あれ、もしかしてあんた、応募要項読んでないの? 業態コンペよ。何をビジネスにするかっていう、業態を軸にした総合デザイン、それがコンセプトデザイン。センスさえあれば大丈夫」 

 とコンセプトを強調した。そんなことわかってる。言葉の綾だ。


 小巻主査は続けた。


 「前からやりたいって言ってたじゃない、空間デザインを含めた業態提案。

 今度のクライアントはあんたの、ちょっと変わったセンスが、たぶん利くのよ」


 なにをぉ? ちょっと変わった、だとぉ。


 「それに、ひと目見てちゃんと、オーナーのセンスを見抜く目もある。自信持ちなさい。パース(完成予想図)は青木がパソコンで書いてくれるし、芸術的なアドバイスは飛島(とびしま)を頼ればいい。戸田嶋はとにかくイメージを膨らまして、まずは青木に伝えて。調査にお金が必要なら使ってもいいから」


 お金使ってもいいなんて、今までこの人の口から聞いたことがない。会社が相当やばいか、でなきゃ本当にこの仕事に賭けてるかだ。

 ……いや待て、社運を賭けるなら服飾出身のあたしに業態案件の主任をやらせるだろうか。


 戸田嶋が疑いの目で小巻主査を見つめていたら、

 「まあ伸び伸びやることね。一次を通過したら飛島君に入ってもらってデザインを磨いて、本選ではアイテックさんに協力してもらう。……うん、じゃあその手順でいくからよろしく。

 わたしビバーチェでランチしてくるから何かあったら電話してぇ」

 と手をひらひらして小巻主査は部屋を出ていった。


 滞在時間三分。

 本当にこの人ときたら、謎だ。

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