だれだって
図書室の窓から、夕焼けの光が差し込む。
飽きもせず恐竜は目の前に座り続けている。
オレンジ色の光が、勉の顔を照らす。
鋭い輪郭が、柔らかく見える。
私は、ふと口を開く。
「新開って、寂しいって思うこと、ある?」
自分でも驚くほど、ストレートな質問だった。
なぜか言葉が止まらなかった。
彼なら、わかってくれるかもしれない。
そんな淡い期待が、胸の奥で疼く。
彼は少しの間、黙っていた。
やがて、彼の低くて優しい声がゆっくりと答える。
「あるよ。誰だって、思うだろ」
その声は、静かで、どこか悲しげだった。ティラノサウルスの咆哮じゃなくて、ただの人間の声。傷ついた少年の声。彼も、寂しいんだ。
その気づきが、胸の奥を熱くする。
私と同じように、群れの外にいる人間が、ここにいる。
その瞬間、頭の中で何かが揺れた。
ティラノサウルスの姿が、ぼやけて薄れていく。
そこにいるのは、ただの新開勉。
強い言葉の裏に、孤独と葛藤を抱えた、ただの少年。
彼も、私と同じ……かも。
「夕凪も、だろ?だからこんなこときいたんだろ。」
彼の声に、ハッと我に返る。彼は私を見てる。鋭い目が、でもどこか優しくて、私の心を見透かすみたい。私は、目を逸らす。
見透かされたら、どうしよう。
私の暗い心、ネットで男と会うこと、行為の後の空虚さ。
そんなもの、彼に見られたら。
でも、なぜか嘘をつきたくなかった。
「そうだよ」
小さな声で答える。
喉が詰まって、涙がこぼれそうになる。
彼は小さく頷いて、窓の外に視線を戻す。
「そっか。」
その一言に、胸が熱くなる。拒絶も、嘲笑もなかった。
ただ、たしかな理解。
初めて、誰かに心の奥を見せた気がした。