秘密
夕凪の秘密を知ったのは、去年の冬のことだった。
駅前のコンビニの前で、偶然。
塾の休み時間に村田と斎藤と三人でいた時だった。
そこで、彼女が疲れた顔をした男と一緒にいるのを目撃した。
三十代後半から四十代くらいだろう。
きったねぇおっさん。
彼が夕凪の肩を抱く。
瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
鳥肌もやばい。
なぜ、彼女が……こんな……。
あの妖艶な顔が、まるで能面のように張り付いた笑顔で陰っていた。
無力な自分を思い知り、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
俺には何もできない。
その夜は一晩中夕凪の姿が焼き付いて離れなかった。
夕凪の白い肌、流れる黒髪、薄い紅色の唇。
あの清らかな美貌が、見るからに汚らしい男の手に触れられている。
想像するだけで、吐き気を催した。
だが、もっと汚いのは、そんな光景を思い浮かべている自分だ。
彼女を独占したい、彼女の全てを暴きたいという醜い欲望が湧き上がってくる。
純粋な憧憬が、黒い感情に蝕まれていくのを感じる。
男子高校生なんて、所詮こんなものだ。
浅ましい自分をどうすることもできない。
次の日塾で村田と斎藤に釘を刺す。
「黙っとけよ。夕凪の噂、ぜったいすんなよ。」
二人は驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
俺は、彼女を守りたかった。
だが、本当は、彼女の抱える傷に触れるのが怖かった。俺にできるのは2人に釘を刺すことくらいだった。
あの光景を見ても尚、彼女はあまりにも眩しい。
俺のような子供には、到底手が届かないと悟っていたから。




