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水面へ
数ヶ月後、街はすっかり秋の色に染まり、図書室の窓からは、燃えるような紅葉がちらほらと見えるようになった。
もう隣には勉はいない。
部活に精を出していて、私もたまに冷やかしに行く。
相変わらず叔母の家は冷たいままで、暗闇で揺れるチョウチンアンコウの提灯は、私を照らさない。
夜になっても気づかれることのない家庭環境は、変わらない日常の一部のままだった。
それでも、あの水底を漂うクラゲだった私は、もう決して沈まない。
私の目に映る世界は、まだ獣や妖怪、そして魚たちの姿をしている。
鏡に映る、ぼんやりとしたクラゲの輪郭も、完全に消え去ることはないかもしれない。
それでも、隣で眩しく笑う勉の光、屈託なく輝く美咲の笑顔、そしていつも明るい大和の言葉が、私をそっと水面へと押し上げてくれる。
勉の部活帰り温かい手が、私の手に重なる。
「なあ、最近、すごくよく笑うようになったな」
「うん、新開くんのせいだよ」
私が微笑むと、彼は少し照れたように、私の手を強く握った。




