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漂流のシルエット  作者: 木里 いつき
本編 漂流のシルエット
28/33

世界の肯定

私、新開くんのことが、好きだ。

まるで、深海の底で細く揺らめく光に手を伸ばすみたいに。

クラゲの私が、彼の光に触れたら溶けてしまう。

陽の光を浴びたら、すぐに干からびて、押しつぶされてしまうだろう。


世界が優しい色に染まる中、私は震える心臓を抑えつけ、か細い勇気を振り絞って、精一杯言葉を紡ぎ出す。


「新開くん、あの……少し、聞いてもらえますか」

彼は、開いていた参考書をゆっくりと閉じ、驚いたように丸い目で見つめてくる。


「ん? なんだよ、夕凪がそんな真面目な顔して」

その飾らない軽い口調が、張り詰めていた私の緊張をほんの少しだけ和らげてくれた。私は、もう一度深く息を吸い込み、覚悟を決めて言葉を続ける。


「私さ……時々、この世界が、ひどく歪んで見えるの。みんな、人間じゃなくて、獣だったり、異形の妖怪だったり、水の中の魚だったりに見えるんだ。村田は、騒がしい猿で、斎藤さん——美波は、ふわふわした羊で、新開くんは……鋭い牙を持つティラノサウルス。そして、私は、頼りないクラゲに見えるの。根無し草みたいに、ふわふわと漂って、触手には毒があって、みんなが避けていく厄介者……」


話しているうちに、声が震えてしまう。

こんな突飛なことを、誰かに打ち明けるのは、生まれて初めてだ。

怖い。彼が、馬鹿にするように笑うかもしれない。

気持ち悪がって、蔑んだ目を向けるかもしれない。


それでも、勉の瞳は、夕焼けの色を映して、不思議なほど静かで、優しかった。


「クラゲ、か。へえ、なんだか、面白いな」

その予想外の言葉に、私は思わず目を丸くした。


「面白い? クラゲだよ? あの、ぶよぶよしてて、掴みどころがない、気持ち悪い生き物だよ? 刺されたら、ピリピリ痛いし。ゴミみたいな見た目。海水浴だって、あいつらのせいで、全然楽しくないんだから。」


「でもさ、クラゲって、透き通ってて、ふわふわ漂ってて、なんかこう……神秘的な感じがするだろ? 俺は、ティラノサウルスってのも、かっこよくて好きだし。夕凪が、そんな風に世界を見てるってのも、なんか、夕凪らしくて、良い。」


彼の、どこまでも真っ直ぐな言葉が、じんわりと私の胸を温めていく。

こんな歪んだ私の世界を、彼は、少しでも受け入れてくれているのだろうか?

夕焼けのオレンジ色の光が、まるで私のクラゲの触手を優しく包み込むようだ。私は、もう一度、勇気を振り絞る。


「私……こんな、頼りないクラゲだけど、新開くんのことが、ずっと、好きだった。あの……宇宙人のこと、知ってるのに、それでも、ずっとそばにいてくれて、本当に、ありがとう」


私の言葉を聞いた途端、勉の顔が、夕焼けよりも赤くなった。


「え、マジ? 俺、今、すげえびっくりしてる……」

彼は、照れたように目を泳がせ、少し間を置いて、言葉を続けた。


「あぁ、宇宙人って、あの駅前にいた、変な……おっさんのことか。そんな風に見えてたんだな。うわー……。わりぃ、なんて言ったらいいかわかんねぇ。でも……嬉しい。俺も、夕凪のこと、好きだよ。……大好きだ。」


勉は、少しはにかみながら、私の目をじっと見つめて言った。

図書室の静かな空間に、二人のドキドキする鼓動だけが響いているようだった。



夕焼けはさらに濃くなり、私たちの頬をほんのりと照らした。信じられないような、でも、確かに温かい光が、私を包み込んでいる。


クラゲの私が溶けてしまってもいいと思えるほど綺麗な光だった。


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