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漂流のシルエット  作者: 木里 いつき
本編 漂流のシルエット
24/33

新開勉

図書室での時間は、特別だ。


新開勉の目の前でノートにぐるぐると落書きする。

べつに何を書きたいわけでもない。

ただ穏やかな時間が過ぎていく。


私、新開くんのことが、好きかもしれない。


……愛は錯覚だ。

宇宙人との夜で学んだ。温かい手も、甘い言葉も、行為の後の静寂に消える。

私のクラゲの触手は、毒で人を傷つける。

恋愛なんて、傷つくゲームだ。



なのに、勉の視線が、私を捉えるたび、心が揺れる。

あの鋭い目が、優しく光る瞬間、クラゲの私は溶けそうになる。



ある日の放課後、図書室の窓から夕焼けが差し込む。オレンジ色の光が、勉の顔を照らす。彼が参考書を閉じ、珍しく緊張した顔で私を見る。



「夕凪、ちょっと、話したいことあるんだけど」


「な、なに?」


彼はメガネをしっかりかけて、こちらを見据える。拳を握りしめている。

顔は、ほんのり赤い。


「俺さ……夕凪のこと、好きなんだ」


張り詰めた空気が、二人の間に漂う。


彼の瞳には、強い光と、隠せないほどの不安が宿っていた。

いつもの強さは消え、ただの優しい眼差しがそこにある。


剥き出しの、等身大の彼。


せきを切ったように、言葉が彼の口から流れ出す。


「駅前のコンビニで、初めて見たときから、気になってた。辛そうな顔してたから、ほっとけなくて……。でも、夕凪、めっちゃ傷ついてるだろ? 俺、弱ってる夕凪に、こんなこと言うの、漬け込むみたいで、嫌だったんだ。でも、もう、黙ってられなくて……好きだ。ほんとに、本当に、好きなんだ」



声は、震えていた。

顔どんどん真っ赤になり、目を逸らしたり、私を見たり。

長い指が、ズボンをぎゅっと握ってる。

初めて恋をした男の子。

思春期の、眩しい純粋さ。


なんて、キラキラしてるんだろう。


私の心は、申し訳ないほど冷たい。

愛は一瞬の錯覚。


私は、クラゲなのに。


根無し草で、皆の厄介者。

触手の毒で、近づく者を傷つける。

そんな私が、彼の光に浴していいはずがない。


「新開くん……私、汚いの。」


声が震える。

怖い。拒絶も、受け入れも、どっちも怖い。


「俺、夕凪の全部が、いいって思ってるから」


勉の眩しい純粋さが、胸を締め付ける。


彼の震える声、赤い顔、ぎゅっと握った手。

それは、偽りのない光だ。

こんな私でも、愛されていいのかな。 



「ちょっと……考えさせて」


クラゲの触手が、夕焼けの光に溶けていく。



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