誘い
蝉が鳴く午後、汗に濡れたシャツが肌にまとわりつく。
教室の窓から差し込む陽光は、心まで炙るように容赦がない。
高校の授業が終わって、みんなが騒がしく教室を飛び出していく中、私は一人、机に突っ伏していた。
ミーンミンミン…ジジジ…
蝉の声と熱さで頭が煮え返る。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「夕凪、ゲーセン行かね?」
突然、村田大和——猿の声が耳に飛び込んできた。
野球部のうるさい、特段派手なやつ。
キーキー騒ぐ声や顔が、頭の中に浮かぶ。
見上げると、予想通りいつもの調子でニヤニヤしていた。
隣には吹奏楽部の斎藤美咲——羊が、柔らかい笑顔で立っていた。
羊みたいな、ふわふわした雰囲気。
染めてもいないようだが、天使みたいな栗毛とタレ目の可愛らしい、まさにアイドルみたいな子。
その後ろに、新開勉。
ティラノサウルスそのものの鋭い目つきでゴーグルのような分厚い眼鏡をかけている。
そのデカい身体で腕を組んで私を見下ろしていた。
村田——猿が笑いながら肩を叩いてくる。
「え、うそ、夕凪も来るの? 珍しいじゃん!」
「えーだって同じ空間にいるのに誘わないなんてうちらやばいやつになるし。いじめっ子でもあるまいし〜」
茶色い羊はその自慢の栗毛をくりくりと手で巻きながら言う。
(別に誘わなくてもいいのに)
「まあ、いいじゃん。行くよな?」
その時、無遠慮な猿の手が、ポンと私の肌に触れた。
ゾワッと鳥肌が立つ。
別に嫌いじゃない。
でも、こんな風に気安く触れられるのが、なんだか怖い。
猿の声は軽いけど、どこか強引で、断る隙をくれない圧力があった。
「美咲たちと一緒に撮ろうよ、プリクラ!」
なんて羊までも無邪気に笑うから、余計に逃げられない。
ティラノサウルスは黙ったまま、ただ私をじっと見下ろす。
その視線が、胸の奥を刺すみたいで、息が詰まる。
こいつらと別に、仲がいいわけじゃない。
クラスメイトってだけで、深い話なんてしたことない。
なのに、なんで私を誘うんだろう。
どうでもいい存在のはずなのに。
断る理由も思いつかなくて、ただ頷いた。
流されるように、みんなと一緒にゲーセンに向かった。それが、数時間前のことだ。




