逃げた先に
その日の夜、駅前のコンビニに向かう。
いつもの待ち合わせ場所。
タコの宇宙人から、またDMが来てた。
「みおんちゃん、今日も会いたいよぅ♡」
図書室での勉との衝突、大和の怒り、美咲の優しさ。
頭がぐちゃぐちゃだ。全部忘れたい。
宇宙人との夜は、孤独を一瞬でも忘れられる空白。心の隙間を埋める、唯一の方法だから。
これじゃ駄目なのはわかってる。
彼らにかけられた言葉で私も変わりたいって思った。でも、ものすごく怖い。
変わったら、もっと孤独になるかもしれない。
こんなみじめな私でも、宇宙人には必要とされるのに。
コンビニのガラスドアに映る自分の姿。
疲れた顔、強張った笑顔。
タコの男が、遠くで待ってるのが見える。
ふうっと息を吐き足を踏み出そうとした瞬間、誰かに肩を掴まれる。
「夕凪、待てよ!」
振り返ると、勉が立っていた。瞳に宿る必死な、まぶしい光。
大和と美咲も、息を切らして駆け寄ってくる。
「夕凪、マジでやめろよ! こんなこと、続ける必要ねえだろ!」
村田大和の声が、夜の雑踏に響く。
猿の騒がしさが、今日は頼もしい。
美咲が私の手を握り、涙を流して訴える。
「夕凪さん、こんなことしなくていいよ! 美咲たち、いるから! ひとりじゃないよ!」
その言葉に、胸が締め付けられる。
ひとりじゃない?
信じられない。
だって、私はいつも群れの外にいた。
猿、羊、ティラノサウルスの記号としてみていなかった私に、こんな風に私のために駆けつけてくれるなんて。
勉が一歩近づき、低い声で言う。
「夕凪、図書室でキツく言って、ごめん。俺、ただ、お前が傷つくの、見てられなかった。もう、こんなことやめろ。俺たちがいるだろ」
その言葉に、喉の奥が、胸の端が詰まる。
彼らが、いる?
ティラノサウルスの仮面が、
茶色い羊の仮面が、
猿の仮面が、
完全に剥がれる。
そこにいるのは、ただの新開勉。
騒がしいだけの猿じゃなくて、村田大和。
群れをまとめる羊じゃなくて、斎藤美咲。
彼らは、記号じゃない。
私のために、こうやってここにいる、人間だ。
「私……私、こんな汚い私なのに、いいの?」
声が震える。美咲が私の手を強く握る。
「汚い訳ない! 夕凪さんは、夕凪さんだよ! 美咲、大好きだよ!」
大和がニヤッと笑う。
「だろ? 俺も夕凪のこと、めっちゃいいやつだと思ってるぜ!」
勉が小さく笑って、肩をすくめる。
「バカ言え。みじめなやつなんか、俺の目の前にいねえよ」
その言葉に、涙が止まらない。
その涙は温かい。
世界が、急に色づく。
大和、美咲、勉。
私のために、こうやってここにいる友達。
「ありがと……ほんと………ごめん……ありが、と……」
タコが遠くでイライラしてるのが見える。
もう、どうでもいい。
私は彼らと一緒に、コンビニを後にする。
夏の夜の風が、汗と涙を運んでいく。
タバコの匂いが、遠ざかる。




