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漂流のシルエット  作者: 木里 いつき
本編 漂流のシルエット
19/33

逃げた先に


その日の夜、駅前のコンビニに向かう。

いつもの待ち合わせ場所。

タコの宇宙人から、またDMが来てた。


「みおんちゃん、今日も会いたいよぅ♡」


図書室での勉との衝突、大和の怒り、美咲の優しさ。

頭がぐちゃぐちゃだ。全部忘れたい。

宇宙人との夜は、孤独を一瞬でも忘れられる空白。心の隙間を埋める、唯一の方法だから。



これじゃ駄目なのはわかってる。

彼らにかけられた言葉で私も変わりたいって思った。でも、ものすごく怖い。


変わったら、もっと孤独になるかもしれない。

こんなみじめな私でも、宇宙人には必要とされるのに。


コンビニのガラスドアに映る自分の姿。

疲れた顔、強張った笑顔。


タコの男が、遠くで待ってるのが見える。

ふうっと息を吐き足を踏み出そうとした瞬間、誰かに肩を掴まれる。


「夕凪、待てよ!」

振り返ると、勉が立っていた。瞳に宿る必死な、まぶしい光。

大和と美咲も、息を切らして駆け寄ってくる。



「夕凪、マジでやめろよ! こんなこと、続ける必要ねえだろ!」


村田大和の声が、夜の雑踏に響く。

猿の騒がしさが、今日は頼もしい。


美咲が私の手を握り、涙を流して訴える。


「夕凪さん、こんなことしなくていいよ! 美咲たち、いるから! ひとりじゃないよ!」


その言葉に、胸が締め付けられる。

ひとりじゃない?


信じられない。

だって、私はいつも群れの外にいた。


猿、羊、ティラノサウルスの記号としてみていなかった私に、こんな風に私のために駆けつけてくれるなんて。


勉が一歩近づき、低い声で言う。


「夕凪、図書室でキツく言って、ごめん。俺、ただ、お前が傷つくの、見てられなかった。もう、こんなことやめろ。俺たちがいるだろ」


その言葉に、喉の奥が、胸の端が詰まる。


彼らが、いる?


ティラノサウルスの仮面が、

茶色い羊の仮面が、

猿の仮面が、

完全に剥がれる。


そこにいるのは、ただの新開勉。

騒がしいだけの猿じゃなくて、村田大和。

群れをまとめる羊じゃなくて、斎藤美咲。

彼らは、記号じゃない。


私のために、こうやってここにいる、人間だ。


「私……私、こんな汚い私なのに、いいの?」


声が震える。美咲が私の手を強く握る。


「汚い訳ない! 夕凪さんは、夕凪さんだよ! 美咲、大好きだよ!」


大和がニヤッと笑う。


「だろ? 俺も夕凪のこと、めっちゃいいやつだと思ってるぜ!」


勉が小さく笑って、肩をすくめる。

「バカ言え。みじめなやつなんか、俺の目の前にいねえよ」


その言葉に、涙が止まらない。

その涙は温かい。


世界が、急に色づく。

大和、美咲、勉。


私のために、こうやってここにいる友達。


「ありがと……ほんと………ごめん……ありが、と……」



タコが遠くでイライラしてるのが見える。

もう、どうでもいい。

私は彼らと一緒に、コンビニを後にする。


夏の夜の風が、汗と涙を運んでいく。

タバコの匂いが、遠ざかる。


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