にげてもいいんだよ
斎藤美咲がその様子を見たのか、走ってきた。
吹奏楽部の練習が終わったのか、栗毛が汗で少し濡れてる。
羊のふわふわした雰囲気は今は無く、ひっ迫した顔をしている。
「ちょっと、二人とも! やめてよ! 夕凪さん、泣いてるじゃん!」
美咲が私のそばに駆け寄り、そっと肩に手を置く。泣くことしかできない自分が悔しい。
でも、涙は止まらずひっぐひっぐと止まらない嗚咽が漏れる。
そんな私を男子2人から遠ざけて人目につかない場所に移動させてくれた。
「夕凪さん、大丈夫? ごめんね、美咲、黙ってられなくて、変なこと言っちゃったから、こんなことになったんだよね……」
その申し訳なさそうな声に、首を振る。
「ううん、斎藤さんのせいじゃない……私、ただ、みじめで……」
声が震える。斎藤美咲は私の手を握り、優しく笑う。
「みじめなんて、ぜんぜん。 夕凪さん、すっごく頑張ってるよ。美咲、よくわかんないけど、辛いこといっぱいあったんだよね? でも、こうやってここにいるんだから、すっごく強いよ」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
強い? それほど私に似合わない言葉は無いだろう。
なのに、笑顔が、嘘に見えない。
同調圧力を掛けまくる、トゲトゲした女王様だと思ってた彼女。
こんな風に私の心に寄り添ってくれるなんて。
「ありがと、斎藤さん……」
小さな声で答える。
「あのね、美咲、きついことがあったら逃げてもいいって思うよ。でも、その逃げ場所にうちらが成れたらいいなって思うの」
美咲はニコッと笑って、私の涙をハンカチで拭いてくれる。
「でもゆっくりでいいから! ほら、とびっきりかわいいんだから! もっと笑お?」
その無邪気な声に、初めて、ホッとした。




