猿
「夕凪、待てよ!」
新開勉の声が、背中で響く。
校庭に逃げ出すように出ると、野球部の練習が終わった後だった。
大和がグラウンドの隅で仲間と笑ってるのが見える。
美咲の告白を思い出す。
彼も、ずっと前から私の宇宙人との夜を見てた。なのに、黙ってた。
大和が私に気づき、ニヤニヤしながら近づいてくる。
「よ、夕凪! なんか顔やばくね? どうした?」
その軽いノリに、少し胸の締め付けが和らぐ。
答える前に、勉が図書室から追いかけてくる。ティラノサウルスの威圧感が、校庭に影を落とす。
「夕凪、話聞いてくれよ!」
勉の声に、大和の目が鋭くなった。
「おい、新開、どうしたんだよ? 夕凪、泣いてんじゃん! 何したんだよ!」
大和が勉に詰め寄る。
猿の騒がしさが、今日は守るような力強さに変わる。勉は苛立ったように髪をかく。
「 夕凪が変なやつらと関わってるから、話しただけだよ! ほっとけないだろ!」
大和の顔が、みるみる怒りに染まる。
「ハァ? それで泣かせたのかよ? お前、頭いいくせにバカなんだな! 夕凪がどんな気持ちか、考えたことあんのかよ! 黙っとけって言ったのお前だろ! なのに、なんで今さらそんなこと言うんだ!」
その言葉に、勉が一瞬、言葉に詰まる。
大和の声が、校庭に響く。
「夕凪、よく知らねぇけどさあ。ずっと一人で頑張ってたんだぞ! お前が勝手に正義感振りかざして、傷つける権利ねえって!」
大和の怒鳴り声に、胸が締め付けられる。
私のこと、考えてくれてた?
騒がしいだけの猿だと思ってた彼が、こんな風に私のために怒ってくれるなんて。
涙が、またこぼれる。
勉は唇を噛んで、目を逸らす。
「俺は……ただ、夕凪が危ない目に遭うの、嫌だっただけだ」




