の、きもち
美咲の高い声が教室に響く。突然の叫びに、私は凍りつく。
「黙ってろってどういう事?」
頭が真っ白になる。
美咲の無邪気な笑顔が、どこか申し訳なさそうに歪んだ。
彼女は栗毛を指でいじりながら、早口で続ける。
「新開がね、ほら、前に夕凪さんが駅前のコンビニで変な人と一緒にいるとこ見ちゃって。で、村田も美咲も何回か見てたんだけど……新開が『夕凪のこと、変に噂すんな』って。『本人が話すまで、黙っとけ』って言ったの。美咲別に言いふらしたいわけじゃないけどさ。こういう、本人にも黙ってるみたいなの気まずくて。 夕凪さんが気にしてるっぽいから、黙ってられなくなっちゃった!」
その言葉に、胸が締め付けられる。
前から知ってた?
勉も、大和も、美咲も。
私の宇宙人との夜を、ずっと前から見てた。
タコやアメーバや雪男みたいな男たちに肩を抱かれる、みじめな私を。
なのに、誰も言いふらさなかった。黙ってた。
なんで?
その疑問が、頭の中でぐるぐる回る。軽蔑や嘲笑なら、もっと楽なのに。
こんな優しさ、受け取る資格なんてない。
だって、私は汚い。
宇宙人とホテルに行く、きもちわるい私なのに。
「斎藤さん、ちょっと待って……いつから? いつから知ってたの?」
声が震える。羊はおっとりと首を傾げた。
「え、いつだっけ……たぶん、去年の冬くらい? 塾の帰りに、コンビニの前で夕凪さんが誰かと話してるの見たことあって。新開が『ほっとけ』って言ったから、別に何も……。でも、最近また見ちゃって、なんか心配で……」
去年の冬?
そんな前から? 私の心が、ガラガラと崩れる。
駅前のコンビニは、塾街のすぐそば。
何度も宇宙人と待ち合わせた場所。
もしかして、何度も見られてた? なのに、誰も噂にしなかった。教室で変な目で見られることもなかった。
なんで、黙ってたの?なんで、私なんかのために?
頭が混乱して、言葉が出てこない。
美咲は少し気まずそうに笑って、残りの教科書をカバンに詰める。
「ごめん、なんか、 美咲、ほんと、黙ってるの苦手で……。しかも、夕凪さん、なんか元気ないから、ほっとけなくて。ね、大丈夫だよね?」
「うん……なんかこっちこそごめん。」
小さな声で答える。
「いや謝んないで。マジで。美咲何もわかんないけどさ、辛いこととかあったら聞くし。どうすればいいかとか馬鹿なりに考えるし。あんま話さないのに〜とか思うかもだけど、うちら力になりたいと思って黙ってたんだよ」
美咲の優しさが、嘘に見えない。
軽蔑や噂話なら、もっと冷たいはずなのに。
彼女はただ、私を心配してくれてる。
もしかしたら群れは、群れじゃなくて。
こんな彼女の優しさに照らされている友達なのかも。と頭によぎる。
でも、こんな私なのに。照らされてもいいのだろうか。
たくさんの情報で頭が割れそうだった。




