羊
数日後の放課後、図書室でまた勉と顔を合わせる。
私はまだ、昨夜の視線を忘れられない。なのに、彼はいつも通りだ。
メガネを外し、目をこすりながら、軽く笑う。
「夕凪、なんか最近悶々としてるだろ。頭、煙出てんぞ」
なんとなく居た堪れなくなって、図書室を出てブラブラすることにした。そして、校庭を横目に見る。
野球部の練習が終わった後で、村田大和がグラウンドの隅で話してるのが見える。
猿。
いつもなら、ただの騒がしい記号なのに、今日はなぜか目が離せない。
彼も、見たよね。
あの夜、私を。なのに、噂にすらなっていない。
こんなことがみんなに知れたら無遠慮な目線にさらされるはずだから。
大和のいつものニヤニヤした笑顔がこちらを見つけて軽く手を振る。
まるで、何も変わらないみたいに。
なんで?
その疑問が、頭の中でぐるぐる回る。
悶々として私も校内をぐるぐる回る。
そして私は、教室に戻った。
すると、練習の合間に戻ってきた美咲が教科書を片付けながら、ふと声をかけてくる。
「夕凪さん、最近、なんか元気ないね。テスト疲れ? 大丈夫?」
その無邪気な笑顔に、胸が締め付けられる。
知ってるよね? あの夜のこと。
なのに、彼女も何も言わない。
まるで、気づいてないみたいに。
「うん、ちょっと疲れてるだけ。ありがと」
小さな声で答えるけど、心臓がバクバク鳴る。彼女の優しさが、嘘に見えない。軽蔑や噂話なら、もっと冷たいはずなのに。
「……あーーーー!美咲やっぱムリ!黙ってられない!」
突如羊がその高い声で叫ぶ。
「あのさぁ。黙ってろって言われたけど美咲こういうの向いてないの。なんか見ちゃったし、実際夕凪さんも気にしてるじゃん。」




