なんで?
言わないで。
そう心の中で叫ぶ。昨夜のことを口にされたら、もうここには来られない。
図書室は私の逃げ場なのに。
なのに、彼の視線が、そっと私を捉える。
鋭い目。でも、どこか優しい。
なんで、そんな目で私を見るの?
軽蔑じゃない。嘲笑でもない。
何にも知らない顔をしてこちらを見る。
そんなわけない。
だって、彼は見たんだ。みじめな私を。
宇宙人とホテルに向かう、汚い私を。
「具合悪いのか?保健室行くか?」
その言葉に、心臓が止まりそうになる。
見透かされてる?
「うん……疲れてるだけ」
嘘だ。本当は、疲れてるなんてレベルじゃない。
彼は小さく頷いて、参考書に視線を落とす。
「言っただろ、無理すんな」
なんで?
なんで、昨夜のことを見たのに、こんな優しい言葉をくれるの?
ティラノサウルスに見えていた彼は、誰よりも人間らしい。
軽蔑も、嘲笑も、拒絶もない。
ただ、静かな気遣い。
彼、ほんとに、私を嫌ってないの?
信じられない。だって、彼は見たんだ。みじめな私を。私の一番汚いところを。
なのに、まるで何も変わらないみたいに、こうやって話しかけてくれる。
もしかして、知らない?
なんで、何も言わないの?




