第7話 ようやく事態を把握した
それから、いったいどのくらい時間がたっていたのだろうか。座ったままのわたしは、いつのまにかうとうとしてしまっていた。
ふと気がつくと、『ドロレス』はわたしのすぐ目の前にいた。そしてこちらの顔を覗き込んでいて──
「──うわっ」
あわてて立ち上がるこちらをみて、彼女は口元に手を当ててくすくす笑った。
「驚かせてごめんなさい。なんだか気持ちよさそうに寝ているものだから」
「……それで、もう気はすんだ?」
「ええ。待っていただいて、ありがとうございました」
「部屋まで送ります。懲罰については、後日申し渡します」
二人でならんで扉に向かって歩く。数歩の間無言だったが……わたしは思わず声を出した。
「さっきはごめんなさい」
「あら、なにが?」
「わたし、あなたを傷つけようとしてわざとひどいことを」
「いいんです。悪いのは、わたしの方だから」
聖堂の扉を開けて外に出ると──しかしドロレスはついてこなかった。
振り返ると、ついさっきまで、すぐそこにいたはずの彼女の姿はなかった。誰もいない夜闇だけが、聖堂そのものの形をかたどって、そこに広がっている。
わたしはしばらく、あっけに取られていた。そして馬鹿みたいに扉の後ろや座席の下なんかを探してみたりしてから、ようやく事態を把握したのだ。
……あの女、逃げやがった!