第3話 あたかも聖女像のようで
長い廊下を抜けて、最後は聖堂だ。
大きく重い扉を開けると、並んだ座席の間をまっすぐと通路が伸びていく──広がっているのは、左右対称の荘厳な空間だ。広大でありながら、建築家が精緻に計算したとおりにすべてが数学的に調和している。玄妙な建築芸術によって、砦の修道会が尊ぶ理性と秩序という美徳が表現されているのだ。
無数にも思える座席には、いまは誰も座っていない。どこまでも続いているような空席の反復。ただうっすらとした暗闇が、そこに堆積している。
夜の空間を泳ぐようにして、わたしは通路を一歩ずつ歩を進んでいく。
向こう正面には、装飾窓を通して月の青白い光が差し込んでいる。そこには聖壇と聖像が位置していて──
わたしは気がついた。並ぶ座席の最前列に、誰かが座っている。
「そこのあなた!」わたしは声を張り上げた。「こんな時間になにをしているんですか!」
相手を逃すまいと、わたしは足早に歩み寄る。広い聖堂の中、まだだいぶ距離がある。近づくにつれ、相手の姿もはっきりしてくる──。格好は、修道服だ。この学校の女生徒たちが制服として着ているとおりのもの。
相手は逃げようともせず、座ったまま、なんだかおっとりとこちらを振り返った。
そして、ついに相対した。
月の光に照らし出されたその女の顔は──ドキリとした。衝撃があった。
白い肌と、吸い込まれそうな大きな双眸。その顔の造りの美しさは、あたかも聖女像のようで──