第11話 祝祭における花形
中でも観想劇の準備班というのは、特に面倒な連中である。
観想劇とは、本来は宗教的儀式である。六人の聖女の聖なる御業を追体験することで信仰を深めるためのものであるが、演劇というその見た目の華やかさから、これに参加したがる女生徒は数多くいた。要は祝祭における花形なのである。
観想劇班は派手で声が大きい集団となるのが昨年までの通例であり、そして今年もその例にもれなかった。
この夜、打ち合わせの名目で学校に残っていた観想劇班は、実態としては、祝祭とは関係のない単なるおしゃべりに興じていた。許可されていない講義室を勝手に使用し、その上許可されていない多数の女生徒もそこには混ざっていた。
その現場に突き当たったわたしは、とにかく、規則違反と許可証の不備をひとつずつ並べ立ててみせた。
すると向こうは集団で反撃してくる。迷惑そうな顔をして、口々にこちらを誹謗し、罵ってくる。嵐のような批判だ。あたかも、自治会が不当な弾圧をしているかのような口ぶりだ。
物の道理であればこちらに分があるのだが、とにかく多勢に無勢だった。わたしは劣勢をどうにかしようとして、毅然とした態度を貫くしかない。相手側の不備を、強い言葉で厳しく糾弾していく。
そうなると、わたしは余計につるし上げをくらうことになる。彼女らは陣形を張り、戸口に立つわたしを取り囲んだ。
「あなた、最近は『ドロレス』って女の子を探しているんですってね」と、観想劇班の班長を務めるナントカ伯爵家のお嬢さんがわたしに突っかかってきた。普段から家柄をひけらかし、何をやるにも取り巻きの連中を連れまわしているような女である。
わたしは彼女に向き直った。睨みつけながら返す。
「それは、いまは関係ないでしょう」
「本当は、そんな女なんて、最初からいなかったんじゃないの? ありしもしないことをでっちあげて、吹聴して、人の注目を集めようとしているんじゃないの?」
「なにをいっているの。そんなこと、する意味がないでしょう」
「だってあなたみたいな女は、嘘でもつかない限り、誰からも相手にされないでしょうから!」
講義室の中に、笑いが起きる。あちらこちらから投げつけられる嘲り。
「──それと、あなたたちの規則違反は、なんの関係もありません」
わたしは憤然と、こう答えるしかなかった。