第10話 『戦勝の日』が近づいてきている
結局、あの『ドロレス』は、まだ見つかっていない。
そうこうしているうちに、再び夜の見回りの当番が回ってきた。
──ただし、向こうしばらくは、心安らぐ時間とはならないようだ。せっかくの夜闇だというのに、それを蚕食するように、学校のあちこちに灯りがともっている。それとなんだか騒がしい声。
つまり『戦勝の日』が近づいてきているのだ。
砦の修道会の教義としては、この戦勝の日こそが一年の中で最も重要な祝祭の日である。はるか昔に反乱軍が悪しき魔術師王の軍勢を討ち滅ぼし、六人の聖女が悪しき魔術師王に罰を与え、処刑した日。正義が悪を誅し、理性が狂気に勝り、秩序が無秩序を凌駕した日。大陸全土が解放されて、新世界秩序が始まった日、すなわち現代に続く信仰と忠誠の時代が始まった日のことである。
砦の修道会のおひざ元にあるこの女学校においても、この祝祭は大々的に祝われることになる。その祝祭は当然、主として女生徒たち自身によって運営されることになり──そしてこの祝祭実行委員会と自治会は、毎年毎年、とにかく折り合いが悪かった。
祝祭実行委員会側は自治会規則の例外的な緩和を望み、そして自治委員会はそれを最小限に押し止めようとする。つまりは正面衝突である。(わたしにいわせてもらえば、すべては祝祭実行委員会側の落ち度である。そもそも前年の折衝や調整の内容が引き継がれていない点がすべての元凶なのだが、ウンヌンカンヌン──)
いつもならば誰もいないはずの時間の学校に、祝祭準備の名目で教師から許可を得た女生徒たちが残り始める。そしてわたしは、その教師からの許可をいちいち検めて回る必要があり、これが甚だ疲れる仕事だった。
実際、すでにいくつもの不備を見つけている。許可されていない場所で作業していたり、許可されている以上の人数がいたり、許可されている時間を超過していたり。
そもそも、祝祭の準備に託けて学校に残って遊んでやろうと目論んでいる女生徒が大勢いるというのが問題の根底にあるのだろう。教師から得た許可を自分たちにとって都合がいいように曲解し、許可証に書いてもないことを主張し、そして許可証に書いてあることを無視しようとする。