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銭湯で

来て下さり、ありがとうございます。

 家から十分程歩いた所にある銭湯は人のたまり場である。

 基本いつも賑わっているのだが、今日はガラリと空いている。

 受付の婆さんと目が合った。


「あらあら、まぁまぁ、どうしたのよその子。」

「拾った。詳しい話は後で、先にこの子風呂に入れてやりたい。」

「わかったわ。ちょっと待ってね、娘を呼んでくるから。」


 腕の中で震えている少女を見て銭湯のお婆さんは少し驚いた顔をしたが返答を聴き、直ぐに娘を呼びに行った。


 少しすると娘を連れてきた。

 少女を婆さんの娘に渡すと、


「それじゃ、入れて来るから、おばあちゃんと話してて。」


 とても怖い声でそう言って、少女を抱き抱えて女湯に入っていった。

 俺は婆さんと向き合い事情を説明する事になった。


「それで、何があったの。」

「昨日から家の前で膝を抱えて座ってたから拾って来た。」

「そうなの。親御さんはいないの。」

「お隣さんの娘だと、確認したけど引っ越してた。」

「あらあら、大変ね。」

「通報だけは辞めて欲しいです。」

「しないわよ、あんな姿の見て誘拐したなんて見えないわよ。」

「そうか、良かった。」


 事情を説明して、お婆さんは信じてくれた。


 俺は週一回、この銭湯を利用しているため銭湯の婆さんや良く利用している人達とは顔馴染みである。

 なので信じてくれたのかもしれない。


「それで、ご飯とか食べたのかしら。」

「あぁ、食べさせたよ。」

「雪の中でかしら。」


 目を逸らしてしまった。

 ご飯を雪の中で食べさせたことで、こっぴどく叱られてしまった。


「これからどうしましょうか。」

「探偵雇って、家族の捜索かな。その間は、面倒見る感じで。」

「そうね、そうしましょうか。」


 方針は決まったので思い立ったら吉日、直ぐさま携帯を取り出して、昔お世話になった探偵に電話を掛けた。


「探偵、明日来るだって。」

「あらあら、早いわね。」

「取り敢えず、あの子の面倒頼んだ。俺は帰って寝るから。」

「あらあら、何言っているのかしら。折角来たんだし入っていきなさいよ。臭いわよ。」

「嫌だよ、週一回って決めてるんだ。どうせあの子の金もとるだろうし。あと、臭いって言うな。」

「そう言わないの。今日だけ無料にしてあげるから。」

「本当かよ。」

「本当よ。だから入って行きなさい。」

「わかったよ。」


 今日だけ無料してくられるからお言葉に甘えて入ることにした。


 銭湯の更衣室には乾燥機付洗濯機がある。

 ついでに無料にしてくれるらしいので、有り難く使わせてもらう。

 服を脱ぎ洗濯機にぶっ込んでスタートボタンを押して、

 終わるまでゆっくり湯に浸かる。

 選択が終わる頃合いを見て出る。

 タオル類は貸してくれた。無料で。

 感謝しかない。

 乾燥されたばかりの服はとても温かくて気持ちが良い。


「おや、もう出たのかね。」

「あぁ、じゃ、ありがとうな。また来るよ。」

「これ、お待ち。せっかくだし、なんか飲んで行かんかね。無料にしとくよ。」

「無料か。なら、お言葉に甘えてフルーツ牛乳を貰おうか。」

「あいよ。」

「ありがとう。」


 どうやら、何がなんでも俺を帰らせてくれないらしい。


 飲んで寛いでいると娘さんと少女が出てきた。

 少女はボロボロでぶかぶかな服から、可愛らしいふりふりの付いた動きやすそうな子供服に身を包んでいた。


「出たよ。」

「はい、ありがとう。お嬢さん、なにか飲むかい。」


 こちらを見て、指を指す。


「フルーツ牛乳だね。あいよ。どうぞ。」


 少女はフルーツ牛乳を貰い、こちらに走って来て、膝にに座り瓶を差し出してきた。


「……開けろと。」


 少女は首を傾げながら頷いたので、仕方なく受け取り開けて渡してやった。

 それを嬉しそうに受け取り飲み始めた。

 子供は純粋だな。羨ましい。


「それで、この子は誰が面倒を見るかだよな。引き止めたのは。」

「あら、わかってた。」

「わかるよ。」


 婆さんと俺は睨み合う。

 そこに娘さんが口を挟む。


「その事なんだけど、本人に聞いたら、私たちじゃなくておじさんを選んだよ。」


 マジかよ。


「まぁ、私達も大変だから、暇なおじさんが見るのが妥当だと思うよ。それが嫌なら児童相談所にって感じかな。」

「……わかった。俺が面倒を見よう。」


 児童相談所は嫌いなので仕方がない。


「そろそろ帰るよ。服ありがとな。」

「待って。話さなきゃ行けないことあるから。」

「内緒の話か。」

「うん。ちょっとお婆ちゃん、その子見ててくれる。」

「あいよ。」


 婆さんは少女を見てくれるようなので、娘さんと少し離れたところで話をするため物陰に移動をした。


「で、話って。」

「あの子、虐待されてる。身体中痣だらけ、火傷の痕も鋭い刃物で切られた痕も沢山……」

「そうか、わかった。」

「わかったって、おじさん。警察とかに連絡した方がいいよ。可哀想だよ。」


 虐待されているのは見た瞬間にわかっていた。

 そんな俺の応えに、娘さんはお怒りのようだ。

 確かに可哀想だろうけど……。


「可哀想で居場所を潰すのは良くない。」

「居場所って、まだ無いじゃない。拾ってきたばかりで……。」

「少女は俺を選んだんだろう。それが居場所だよ。」

「そんなこと……。」

「もういいだろ、明日は探偵が来る。あの子の親を見つけてからでも遅くない。」

「それは……。」

「何かあったら頼るさ。」

「……わかった。何かあったら協力するよ。お婆ちゃんもおじさん信用してるし。」


 どうやら娘さんはあまり俺の事を信用してない様だけど、お婆ちゃんが信用してるからと引き下がってくれた。


「じゃぁ、俺たちは帰るよ。ありがとな。」

「うん。気を付けて。」

「あいよ。何か困ったら頼りなよ。」

「あぁ、嬢ちゃん行くよ。」



 挨拶をして、少女に手を差し伸べるとその手を握る。

 手を繋いで一緒に帰路に着いた。

読んで下さり、ありがとうございます。

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