第7話:諦めの悪い騎士様
「やあ、ルリアーナ」
「ご、ごきげんよう……」
次の日から、レドとやたら出くわすようになった。
「隣いいかな?」
授業では隣に座って来るし、昼食も偶然を装って相席してくる。
まるでストーカーである。
があくまで偶然風なので強く拒絶することも出来ない。
それにレド・フェニックスは貴族だ。 元貴族で、今は平民である私が失礼を働くことは学園生活の平穏を保つ上では避けるべきである。
悪役令嬢は退場しているとはいえ、平民の粗相を良く思わない貴族は多いのだ。
――ねえ、他にはどんな面白い魔法があるんだい?
――この後の授業一緒にペアを組もうよ。
――好きな食べ物は何? 好きな色は? 趣味は?
――今はどこに住んでいるんだい?
「あ~~もう! なんなのあの人は?!」
そんな生活が三日も続くとさすがに鬱陶しくなってくる。
「悪い人ではないように思いますが」
「まあ、それはそうなんだけど……扱いに困るよ。 なんで彼みたいな人気者が私に構うっていうの、はあ」
白たまはレドにもらったぺろぺろキャンディーを舐めながらあくびをした。
「完全に懐柔されている……おのれっ策士め」
白たまが嫌がれば問答無用で拒絶する理由になるというのに、予想外に二人は仲良くなってしまっている。 これでは余計に遠ざけるわけにもいかなくなってしまった。
「おーい、ルリアーナ! 白たま!」
「……どうしてここが分かったんですか?」
私はレドから距離を取るために、昼食は食堂をいつも利用していたのをわざわざ弁当に変えて、人目につかない中庭の隅っこまで来たというのに。
「勘かな?」
「こんなところで戦士の本能発揮しないでくださいよ、全く」
「白たまそれ美味しいかい?」
「うん! もっと食べたい!」
「いいぞ~、ほら飴と、今日はチョコもあるんだ」
イケメンの騎士から菓子をもらって無邪気に喜ぶ白髪狼少年、という構図は非常に眼福である。
しかしそれはそれ、私は今日こそはっきり言わねばならない。
「あの! フェニックス様!」
「ん? よそよそしいね。 俺のことはレドと呼んで欲しい。 ルリアーナは俺の師匠になるんだから」
この男まだ諦めていなかったらしい。
そもそもゲームの設定においてレド・フェニックスというキャラクターは剣を愛し、魔法を嫌っていた。
彼曰く、剣は人を守る武器であり魂が宿っている。 一方、魔法はなんだか無機質で、ただ人を殺す兵器でしかなく、人が持つには大きすぎる力だと言っていた。
それは過去、彼の友人が魔に落ちて、魔人となったことと関係があるので、かなり根深い話であり、彼にとって魔法はトラウマのようなものなのだろう。
「どうしてそこまで魔法を使いたいんですか? フェニックス様は魔法嫌いと有名でしたが……?」
もうここまで来たらのらりくらりと逃げることはできない。 人のトラウマに土足で踏み込むようなことはしたくなかったが、私は彼と向き合う覚悟を決めた。
「あ~、うん私は魔法が嫌いだ。 それは今も変わらない」
レドは一瞬憂いを帯びた表情を覗かせて、息を吐いた。
「だけどルリアーナ、君の魔法は普通とは全く違うじゃないか。 戦闘において何の役にも立たない。 この世界でそんな便利なだけで無駄な魔法を覚えている人間なんて君くらいだろう」
ほほ笑みながら言う彼の言葉を何度頭の中で聞き直しても、貶されているようにしか思えない。 彼の言うことは正しいし、自覚はあるがさすがに腹の立つ言動である。
「バカにしてます……?」
「ははは、してないしてない! むしろ褒めてるって! 他の人が使う魔法は怖いんだ……でもルリアーナの魔法は暖かくて、ワクワクする! こんな感覚久しぶりなんだ。 初めて魔法を見た時の、魔法を使ってみたいと思ったあの気持ちとおなじだったんだよ!」
レドは私の手を取り熱く語った。
想像以上に純粋な理由で私はますます断りづらい。
おまけにこのシーンには覚えがあった――
――ヒロインとレドが心を通わせ、剣だけで生きてきたレドが魔法の素晴らしさに目覚め、魔法と剣両方を使う魔剣士へと覚醒した時のシーンにとても似ているのだ。
そのことがきっかけでレドは過去のトラウマに一旦区切りをつけることができたのだ。
ゲームをプレイしていたからこそレドが軽い気持ちではなく、強い決意をして私の前にいることが分かる。
「……ヒロイン、ちゃんとイベントこなしてよ」
「ん? なんだい?」
思わず会ったことのないゲームの主役への愚痴が漏れてしまった。
主役のヒロインがレドとの仲を深めて、イベントを進めていれば、結ばれないにしてもレドは過去のトラウマに蹴りを着けられていたのだ。
しかしヒロインがそれを怠ったせいで、一見元気に見える彼は心の底では未だ苦しみを抱えているのだろう。
そのイベントを私がこなす必要はない。
もしかしたらこの先、レドは自分でなんとかするかもしれない。
後に良い相手と出会い、その人によって彼の心の闇は払われるかもしれない。
だけどその機会が訪れなかったら――
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
私は自分の生活が大事だ。
だけどこのまま見過ごせば、私は心から今の生活を楽しめなくなる気がした。
それに、
「週一日!」
「……?」
「週に一日なら時間を作ります。 それと私の魔法や見たことは秘密にすること。 そしてあくまで私は自分の生活と勉強を優先すること。 あとは――」
「全ての条件を受け入れるよ」
私が言い切る前にレドはそう言って頭を下げた。
「本当にありがとう」
「いつまでも付きまとわれる方が疲れるし、それに白たまの遊び相手に丁度いいから」
「とか言ってますけど、主は僕がいなくても受けたと思いますよ」
「こ~ら~白たま~?」
頭をぐりぐり撫でると白たまはするりと逃げてレドを盾にした。
私は自身の顔が赤くなっていることを誤魔化したくて、白たまを追いかける。 その様子を見ていたレドは穏やかな笑みを浮かべた。
色々理由は並べたが私は、結局この優しくて時に我儘な騎士様が人として嫌いじゃないのだ。
「これから楽しくなりそうだ。 よろしく、ルリアーナ師匠」
こうして私の学園生活は新たな仲間を一人加え、さらに賑やかになっていくのであった。
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